プルトニウムの許容量とかいろいろ

こんなところから。
劣化ウラン弾-どんな兵器か、どんな被害が生じるか(上)

劣化ウランの主成分はウラン238。実は、劣化ウランの中にプルトニウムが含まれている。私たちは劣化ウラン弾といままで言ってきたが、それをやめようかと思っている。「劣化ウランプルトニウム弾」では長いので、放射能兵器と呼ぶようにしている。
天然中に存在するが、天然には存在しない。これはどこから出てきたのか。普通のウラン・原子燃料は濃縮ウランだからウラン235と238しか存在しない。炉心で中性子を燃やしたときにプルトニウムが濃縮ウラン三十トンあたり三百キロできる。この燃料全体は、一炉心分三十トンを前提としている。ここにあるプルトニウムの中には、239や240などいろいろある。いわばこれが高レベル放射性廃棄物だ。近寄れば一秒で人間が即死するという使用済み燃料の組成だ。
 これを再処理工程で再処理すると、ウランとプルトニウムは取り出せるが、残念ながらウランだけ純粋に取り出すというのは、物理的に不可能だ。どうしてもプルトニウムが混じってくる。プルトニウムが混じっているということは、劣化ウランではなく回収ウランであることを意味する。つまりプルトニウム生産のための軍用原子炉を含む原子炉で燃やした燃料を回収し、再処理工程で回収したウランを回収ウランという。その回収ウランで作った弾であるということだ。
アメリカ軍は、劣化ウラン弾と称して、プルトニウム混じりの回収ウラン弾も撃っていた。これはコソボボスニア・ヘルツェゴビナの例だ。アメリカ軍は、実際に一部だけ事実を認めた。
 「アメリカのケンタッキー州パデューカ市郊外にあるウラン濃縮工場で、一九七〇年代に回収ウランを最大五〇%使った時期があった。したがって、プルトニウムが出てきても不思議ではありません。しかし、プルトニウム被爆量は、全体のウランの一〇〇〇分の一から一〇〇分の一の間ほどしか寄与しないので、もともとの劣化ウランであるウラン238の放射線量に比べてそれほど際だった高いものにはなりません」という言い訳をしている。
 この主張は本質的に間違いだ。なぜなら、劣化ウラン弾全部が均等な割合でプルトニウム239・240を含んでいるわけではない。これは一つの弾を分析しただけのデータだ。このデータだけ見てもこれだけ立ち上がりの高いプルトニウムが含まれていれば、もともとのウラン238の危険性に比べると、こちらの危険性は、とても〇・一%というレベルにはとどまらない。これが入っているお陰で、このウラン238に比べて二〇%位加算してしまうという放射線量であることがわかる。

ということで、ちょっと研究課題なのは、「回収ウランを使って作られた劣化ウラン弾はどのくらいあって、それはどこでどのくらい使用されたのか」なんですが、どこをどう調べたらいいかはわからない(政府が隠している? 陰謀?)。
ケンタッキー州パデューカ市郊外にあるウラン濃縮工場」というのを検索すると、少しわかります。わかった限りでは、この工場、かなりヤバめです。
しかし、プルトニウムの危険に関する、マスコミのこういうあおりには少し疑問が。
プルトニウム要因を覆い隠す企てはNATOを狼狽させる(ロイター 2001年1月20日(土))
Plutonium: Bid to Bury Plutonium Factor Dismays NATO(原文)

マスコミの報告によれば、1オンスの100万分の1ほどの小さな粒子が、もし吸入されれば、致命的なガンを引き起こすことができるのだ。
Plutonium is a heavyweight in the lexicon of scare words -- according to media reports, a particle as small as a millionth of an ounce, if inhaled, can cause a fatal cancer.

ちょっとこの「マスコミの報告(media reports)」が、どこでどのようにされたものかは不明ですが、
1オンス=28.35グラム
それの100万分の1=28.35マイクログラム(μg)
ですか。
プルトニウムは猛毒と言う話を聞きましたが、サリンのようなものですか。また、1グラムで何万人もの人が死ぬとききましたが本当ですか。(放1)

プルトニウムによる発癌の感受性が人間より高い犬による実験では、11キロベクレル/kg(体重)のプルトニウムの静脈投与で100 %の骨肉腫の発癌が観察されています。人体と犬の感受性を等しいと仮定し、体重70kgの人について考えると770 キロベクレル、即ち、約20μキュリーでプルトニウム量で約0.3 mgとなります。
吸入摂取の場合は、B.Cohen の検討にによると、人については、不溶性のプルトニウム約1.3 mg(1.3/1000グラム)で癌が発生するとされています。
一方、プルトニウムの比重は約20ですから、1グラムのプルトニウムの大きさは約0.05 ccとなります。この錠剤程の大きさのプルトニウム発癌性のある大きさ(約1.3 mg)に均等に分割されて、何千人もの肺に吸入され、その影響によって肺ガン等で死に至ることは現実的には起こり得ないと考えられます。

「約1.3 mg」は、1300マイクログラムなので、ロイターの記事を書いた人(Douglas Hamilton)がその「マスコミの報告」をどこから入手したかは不明ですが、50倍近い許容量の違いは、またしてはいけない「伝言ゲーム」を、マスコミがやっている、みたいな感じです。
もちろん単純に「ものすごい微量でも癌を引き起こす可能性の高い」ということは事実なので、そのように記載すれば何の問題もないテキストではあるわけですが。
あと、こんなのも。
プルトニウムの毒性と取扱い原子力百科事典 ATOMICA)

米国における1974年までの経験として、最大許容身体負荷量(1500Bq)の10〜50%摂取した例が1155例、同50%以上が158例あったようである。これらの中で第2次世界大戦中に、ロスアラモス国立研究所における原爆製造マンハッタンプロジェクト(1944〜1945)で硝酸プルトニウム蒸気の吸入により、26人が最大許容身体負荷量の1/10〜10倍の摂取があったことが知られている。被ばく後32年経過後の報告によれば、プルトニウムに由来すると考えられるガンの発生はなかったとのこと。最近の42年目の報告では、肺ガン2例と骨肉腫1例があったが、潜伏期が40〜50年と長いことなどからプルトニウムを原因と断定することは難しいようである。
また、1965年10月ロッキーフラッツ兵器工場での大規模な火災事故でプルトニウムを含む煙を吸入して、25人が肺の許容量(約600Bq)以上の吸入被ばくした例があった。24年経過後、事故被ばく者を含む(約70Bq)以上の被ばくをした人で、現在までに死んだ67名について死因を調べたところ、肺ガンは1名で正常人より低い割合に留まっているとのこと。以上のように、明らかにプルトニウム被ばくに由来すると断定された人の発ガン例はないようである

もちろん、今後プルトニウム被ばくによってガンになる人が出てくる可能性は否定できない、とか、政府は事実を決して公開しない、といった、リベラルなフレーズをからめたい人はからめても仕方ないとは思いますが(言ってもどうせ聞かないだろうし)、公開されているデータとしては、プルトニウムをかなり多量に吸い込んだ人でもガンになった人はいないみたいです。