産経抄・2005年7月26日(産経新聞)

産経抄・2005年7月26日産経新聞

待ちに待っていただけに失望を通り越して、あきれかえってしまった。NHKの番組が政治的圧力で改変させられた、と報じた朝日新聞がきのう見開き二ページにわたって掲載した検証記事のことだ。
▼今年一月十二日付朝刊一面に載った記事の書き出しは、こうだった。「01年1月、旧日本軍慰安婦制度の責任者を裁く民衆法廷を扱ったNHKの特集番組で、中川昭一・現経産相安倍晋三・現自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼んで『偏った内容だ』などと指摘していたことが分かった」。
▼このうち、(1)中川氏が放送前日、NHK幹部に会った(2)中川、安倍の両氏がNHK幹部を呼んだ−という記事の根幹部分について、社会部長が「真相がどうだったのか、十分迫り切れていません」とあっけらかんと「総括」しているのだ。
▼迫り切っていない真相はほかにもある。昭和天皇を「強姦(ごうかん)と性奴隷制」の責任で断罪した「法廷」を主催したのは、朝日新聞の元編集委員。問題の記事を書いた記者の一人はその信奉者で、以前から「法廷」に好意的な記事を書いていたという指摘がある。「癒着」はなかったのか。
安倍氏が提示する疑惑はもっと重要だ。北朝鮮工作員が「法廷」に検事役として参加しており、朝日の報道も、対北強硬派の二人のイメージダウンを図ったものではないか、という点だ。鍵を握る記者は、安倍氏の公開討論の呼びかけにも、本紙の取材要請にも応じていない。
▼海の向こうでは、取材源を守るために拘置所に収監された記者がいる。かたや、取材された人たちだけが、さらし者になって、記者がたこつぼに入ったまま出てこない検証記事。「報道の自由」の危機とはこのことか。同業者として自戒しなければ。