A・サンプソン『兵器市場』(TBSブリタニカ)を読んでみる

↓先日の朝日新聞の「天声人語」で、以下のように紹介された本ですが
http://www.asahi.com/paper/column20040722.html


 国際ジャーナリスト、A・サンプソンは『兵器市場』(TBSブリタニカ)で「死の商人」の世界ネットワークを描き出した。「政府は、彼ら(兵器商人や製造者)に対し……高度な兵器の目的は本当は人殺しではないと繕えばいいと勧めてきた。しかし、兵器商人も政府も、秘密と欺瞞(ぎまん)で自己防衛しなければならない事を悟っている」
この引用された部分がどのような形で本文中に出てくるか知りたくて、ちょっと目を通してみました。
残念ながらその箇所は見つかりませんでしたが(探してみて、見つかったかたはコメント欄で教えてください)、予想外に、予想以上に面白かったので少し紹介してみます。予想外に、というか、予想していた部分以外のところで、というか。
これは実は1977年に出された旧版(http://webcatplus.nii.ac.jp/tosho.cgi?mode=tosho&NCID=BN05106740)と、1993年に出された新版(http://webcatplus.nii.ac.jp/tosho.cgi?mode=tosho&NCID=BN09410765)の2種類がありまして、前者は田中角栄がからんで有名になった「ロッキード事件」、後者は「湾岸戦争」という、なかなかエポック・メーキングな事件前後を語っています。特に前者のロッキード騒動は、日本国内でどういう風に騒ぎになったのかというのは、ある年代以上の人はたいていご存じだとは思いますが、ヨーロッパでも似たようなことがあって、オランダでは王族を巡る日本以上の大騒ぎだったというのは、あまり知られていないことなんじゃないかと思います(「ベルンハルト殿下 ロッキード」で検索すると、いろいろ出てきます→http://www.google.co.jp/search?hl=ja&ie=UTF-8&c2coff=1&q=%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%88%E6%AE%BF%E4%B8%8B%E3%80%80%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%89&btnG=Google+%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=
それよりもさらに面白いのは新版で(中身は新版と旧版とでは大幅に異なっています)、湾岸戦争に直接参加せず、「カネだけ出した」と非難された日本に対し、「それは間違った行為ではなかった」という著者の肯定的な姿勢がなかなかいい感じです。そして、軍事ではなく別の方法で世界の平和に貢献するための日本のノウハウや、軍拡・武器売買というような軍事産業とはほとんど関わりをもたない唯一の大国としての日本に、国家のモデルケースを見るという、日本人視点では面はゆい記述があったりします。で、たとえば、こんなのがあるんですが、あなたは知っていましたか。俺は知りませんでした。

 湾岸戦争前、イギリス政府の一部官僚は、厳しい経済制裁が敷かれていたはずなのに、自国政府の公式方針を公然と無視するかたちで積極的に兵器輸出を奨励した。自ら法律を破っていたのである。これでは将来経済制裁を実施してもなかなかまじめに受け取ってもらえなくなるだろうに、そんな結果を恐れることもなかった。
 この秘密を破るために、ある提案がなされた。すべての兵器輸出国は、兵器売買の登録制度がすべて国連で維持されることに同意すべきだというのである。この提案は、1991年に日本の海部俊樹首相が強力に主張し、同年夏にG7(先進七カ国蔵相会議)において正式に承認された。
 日本は特別に重要だった。というのも、日本は主要先進国の中で、唯一武器を輸出していない国だからだ。さらに日本は、兵器の流れをずっと監視することのできる、探査技術の開発に力を発揮することもできる。しかし、それには充分な情報を与えられたうえでの世論の支援が必要だった。海部首相のスポークスマンで、当時外務省報道官であった渡辺泰造は、1991年に私にこう説明した。
「いちばん重要な問題は、兵器売買の透明度を高めることです。現実の核心をつけば、われわれはほんとうに世論を動員しなければならない。もし世界規模の悲劇や財政面その他のとてつもない重荷について懸念する人がもっと多くなれば、世論の認識が高まるだろうし、一部兵器ディーラーたちの利権を圧倒することになるかもしれない」
(p438 太字は引用者=俺)
日本政府は、日本政府に批判的なマスコミよりはるかに世界平和のための国際貢献についてあれこれ考えているみたいです。さらにこのような記述も。

 今年国連は、軍備登録の最初の年次報告の細目を受け取る予定だ。しかし、すでに登録情報の信頼性については疑問が呈されている。というのも、国連がそれを正確な報告であると確認するには、ごく限られた権限しかないからである。さらに、二大輸出国のイギリスとアメリカは、いずれも最近、自国の兵器輸出を自国議会に隠していたことが発覚したのだ。輸出相手国はイラクとイランである。
 しかし日本は現在、より的を絞ったもっと実現性の高い提案を行っている。開発途上国に対する援助供与を、被援助国の過剰軍事支出の削減と結び付けるというものだ。今や世界最大の援助国として、日本は最大の影響力を発揮することができる。そして日本は、共同戦線を組むべく、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスなど他の大規模援助国を説得しようと努めている。
(p440-441 太字は引用者=俺)
なんか、俺の知らない(少なくとも、マスコミが積極的に報道しない)ことばかり書いてあります。これは本当のことなんでしょうか。
そして、たとえば朝日新聞は、社説では次のようなことは言っています。
経団連――日本の宝を捨てますか(2004年7月25日づけ)
http://www.asahi.com/paper/editorial20040725.html

 日本経団連が、武器輸出3原則と宇宙の平和利用原則を見直すよう提言した。

 国を超えた先端軍事技術の開発や共同利用が進んでいる。そんな時代に孤立していては、兵器の水準で立ち遅れる。安全保障にも支障をきたす。禁輸のルールを緩めるべき時だというのである。

 日本を取り巻く脅威の変化や財政事情のせいで、自衛隊の兵器購入は先細りが続き、防衛産業の行く手は厳しい。そんな危機感もあるに違いない。

 経団連は、過去にも2度にわたって3原則の見直しを提言したことがある。政府や自民党内でも、昨年のミサイル防衛導入の閣議決定を受けて、見直しの具体的な作業が進んでいる。提言の狙いは、そうした流れをさらに速めたいということだろう。

 確かに、欧州のように先進国間の協力で軍事技術が開発され、共同で兵器を運用するという例が増えている。ミサイル防衛の日米共同開発も、このまま進めばいずれ部品の対米提供が課題となるが、いまのままではそれもできない。

 しかし、だからといって、3原則を骨抜きにしていいだろうか。

 初めて武器禁輸原則が確立してからすでに40年近い。この間、日本が世界から「平和国家」として信頼されてきたことの利益は、計り知れない。日本外交の顔が見えないと言われるなかで、少なくとも軍備管理や軍縮の分野で発言力を維持できているのは、武器を売ってもうける「普通の国」でないからだ。

 武器禁輸がこれからもそうした国益を育んでいくことを軽視しては困る。河野衆院議長は、経団連の提言について「国際社会における日本の存在」を損なわせる、と評した。その通りではないか。

 先端兵器の共同開発などに参加できなければ、民需品へも波及効果のある技術の獲得に乗り遅れるという懸念も、経済界にはある。しかし、これまでの行動原則をあえて変えることの不利益についても、よく考えてもらいたい。

 また、ミサイル防衛はシステムがどれほど有効なものか、北朝鮮の核問題の進展とも絡み合わせながら考える必要がある。拙速は慎みたい。

 経団連の内部には、いずれは先端技術以外の軍需品も幅広く輸出したいという思惑もあるようだ。

 昨年1年間に世界中で投じられた軍事費の総計は8800億ドルで、10年前に比べて2割も増えている。「日本製」の兵器なら売れるかも知れないが、それこそ「死の商人」への道である。

 経団連奥田会長は、民間向けの商売でトヨタ自動車を世界有数の企業に育てた人だ。経団連には防衛企業も名を連ねているが、気兼ねすることはない。

 奥田氏がまとめた企業行動憲章の序文には「会員企業は、優れた製品・サービスを、倫理的側面に十分配慮して創出する」とある。この理念を念頭に、日本の針路を考えてもらいたい。

A・サンプソン『兵器市場』(TBSブリタニカ)で分かることは、日本に作れそうなハイテク兵器というのは、中・長期的に見て「斜陽産業」だなぁ、ということでした。そういうものを武器として購入できる国というのは、オイルダラーが頑張っていた時代ならともかく、今となっては少なくなる一方でしょう。兵器の共同開発というのも、開発コストを安く押さえたいという単純な理由がその背後にありそうな気がします。ただ、人件費が安く、安価な火器を大量に作れる程度の技術力はあるような国家なら、国がサポートする産業の一つとして、今後の発展性はあるかも知れないですが、それらを使う革命勢力の武闘派は、国際世論も厳しくなってきているので、果たしてどうなることやら、です。