指の欠損している子供の父親&退役軍人の「ジェラルド・マシュー」さんの尿からは本当に劣化ウランが検出されたのか

こんな個人サイトから、
TALE*TALE ノータイトル

そういえば、最近新聞でイラクから帰還してきた米兵が健康被害で苦しんでいるとの記事を見ました。劣化ウランだったでしょうか、体内におけるその劣化ウランの濃度が通常の8〜10倍もあると…。それでひどい頭痛や、身体が腫れるなどの症状が見られるみたいです。

こんな新聞記事へ。
Yahoo!ニュース - 西日本新聞 - 劣化ウラン弾悩む米 報道写真家森住さんに聞く イラク帰還兵訴え次々

マシューさんは地元紙ニューヨーク・デーリー・ニューズが独自に州兵の尿をドイツの検査機関に送り、劣化ウランを検出したとの記事を読み、同紙に検査を依頼しました。その結果、通常の八―十倍の濃度のウランが確認されたそうです。

ちょっと「間違ってしまう伝言ゲーム」の典型的な例みたいです。
尿から何が出たか(検出されたか)、ということなのですが、劣化ウラン弾関係だと、
1・出たウランの総量
2・それが劣化ウランかどうか、「同位体の比率」による検査
の2種類がありまして、
1・出たウランの総量は、通常の数倍程度ではそんなに問題にならない
2・同位体の比率を見るのは、とても難しい
という難点があります。
たとえば、以下のサイトでは(ここはわりとくわしくて中立的な気がするのでおすすめ)、
「原子力のすべて」

肺に取り込まれた可溶性のUは、その90%が24時間以内に、残りは数週間で血液を経由して尿として排泄され、数%が骨に残る。通常、Uの尿中排泄量は0.04−0.5μg/リットルであるので、骨中DUの尿中排泄は、この量の変動によって検出することができる。

と、最小〜最大まで12.5倍の幅を取っています。
米、防衛庁は否定 劣化ウラン弾原因説 廃絶求める専門家も西日本新聞

専門家にも、ジェラルド・マシューさんの尿中のウラン濃度が「通常の八―十倍」だったことについて「日常生活の中でも数倍の変動はありうる。遺伝的な影響があったかどうかは検証が必要だ」と慎重な見方がある。

ちょっとこの「専門家」の名前が不明なので何とも言えませんが、「ウランの総量」は、もっとすごい数字として出てこないと、それもその出てきたものが劣化ウランだということがわからないと、「劣化ウラン弾」と「それが使われた地域の人の影響」の関係はわからない、ということになりそうです。
とりあえず「体内におけるその劣化ウランの濃度が通常の8〜10倍もある」と報道している記事は存在しませんし、そのような人も存在しません(体内の濃度、というのもいささか意味不明です)。通常は、体内に劣化ウランは存在しません、というか、そもそも劣化ウランというものの意味がわかっていないような。
劣化ウラン - Wikipedia

劣化ウラン(れっかウラン、減損ウランとも)は、ウラン235の含有率が天然ウランを下回るものを言う。その濃度は0.7%以下である。

要するに、天然ウランと劣化ウランの違いは、単純に「ウラン235の含有率」です。だから、それがあきらかに違っている、という検査結果が出ていない限りは、単に「ウランが通常の十倍多く検出された」程度では「劣化ウラン弾の影響」と断定はできません。
ということで、たとえば以下のテキストですが、
暗いニュースリンク: 劣化ウラン弾が生んだ最も幼い犠牲者

2ヶ月程前、本紙はマシューから24時間分の尿サンプルを受け取り、ゲルデス教授に検査依頼した。比較検証のために、本紙記者二人分の尿サンプルも一緒に検査依頼をした。
3つのサンプルはA、B、Cとだけラベルをつけられていたので、研究所側にはどのサンプルが兵士のものかは知ることができない。
3つのサンプルを解析してみて、ゲルデス教授はサンプルAのみが---マシューの尿であるが---劣化ウラン被曝を確認できたという。教授の話では、他のサンプルに比較して、サンプルAの総ウラン濃度は4倍から8倍高い数値を示していたとのことであった。

元テキストはこんな感じ。
New York Daily News - Home - Daily News Exclusive: Juan Gonzalez - The war's littlest victim

A few months ago, The News submitted a 24-hour urine sample from Matthew to Gerdes. As a control, we also gave the lab 24-hour urine samples from two Daily News reporters.
The three specimens were marked only with the letters A, B and C, so the lab could not know which sample belonged to the soldier.
After analyzing all three, Gerdes reported that only sample A - Matthew's urine - showed clear signs of DU. It contained a total uranium concentration that was "4 to 8 times higher" than specimens B and C, Gerdes reported.

太字部分はむしろ「劣化ウランの明かな兆候を確認できた」と訳すのがいいのでは、と。劣化ウランそのものが発見できたとしたら、「総ウラン濃度」だけではなく「ウランの同位体の比率」にも、それも特に後者に比重を置いて言及すると思うのですが。「明かな」というのに、どうも記者の主観を感じるところもあるし。
あと「4〜8倍」がどこでどうして、引用した森住卓さんのテキスト(Yahoo!ニュース - 西日本新聞 -)では「八―十倍」になってしまったのか知りたいところです。New York Daily Newsに掲載された奴より、もっとくわしいデータがどこかにあるんでしょうか。
ちょっとこの「Gerdes」さんの調査レポートなどを探してみたんですが、インターネットでは見当たりませんでした。
俺としては、ジェラルド・マシューさんの体の異状や、娘さんの奇形については、劣化ウランのせいである、という予見を排除して(もちろん、その可能性を否定してはいけないでしょうが)、幅広く原因を検討してみる必要があると思います。
この子が劣化ウラン弾の残酷さを伝えているのです」と、森住卓さんのように力強く訴えるほどの自信は、俺にはとても持てそうにありません。