烏賀陽弘道さんに対するオリコンの5000万円は「高額訴訟」なのか

これは以下の日記の続きです。
オリコンvs烏賀陽弘道氏で、あえて烏賀陽弘道氏を批判してみる。あとヒットチャートについて
 
一応見出しは演出です。
検索した限りでは、だいぶ「音楽配信メモ」の「オリコンが自分たちに都合の悪い記事を書いたジャーナリストを潰すべく高額訴訟を起こす」に釣られた*1ブログのエントリーが多くて、googleのノイズ避けに苦労しますが、
高額訴訟 - Google 検索
ぼくが見た限りでは、以下のところがだいぶ参考になりました。みなさんもぜひ見てください。
メディアによる名誉棄損訴訟で高額賠償の流れ加速

メディアの報道によって名誉を傷つけられたと主張する政治家や芸能人ら著名人も損害賠償訴訟で、これまで上限が150万円程度だった賠償額のいわゆる「相場」は、2001年に入っての判決例で上昇傾向が加速し、特に清原選手の場合は、これまでの最高の1,000万円までになった。

ということで、あちらのサイトには、「主な名誉棄損訴訟の判決」として「88年 7月」から「06年9月28日」までの主な記録があります。
「認容賠償額」と併せて「請求額」が明記されているのは、「00年 2月」からですが、ここ2〜3年の流れ、というか2004年からの額を見てみます。これ、平均を出すのは難しいので、数字を並べるとこんな感じです。カッコの中が請求額です。

330(請求額3,300)
100(請求額1,300)
200(請求額3,000)
330(請求額2,200)
440(請求額1,100)
220(請求額2,400)
230(請求額5,300)
1,980(請求額約1億7,000)
200(請求額約2億)
500(請求額3,000)
300(請求額3,000)
120(請求額1億)
770(請求額2200)
440(請求額3300)
1000(請求額1億1000)

本来は個別に見ていかないといけないと思いますが、だいたい「請求額の10分の1」ぐらいの賠償になっています。
烏賀陽弘道さんの「5000万円」は、相場より少し高いかな、と思いますが、「3000万円以上」の請求は普通なので、これが「5000万」だったとしても、ぼくは「高額訴訟」とは思えるレベルではありませんでした。
それよりも問題は、「雑誌・出版社」ではなく「個人」を「企業」が訴えた、ということにあると、ぼくは判断しています。
烏賀陽弘道さんは今回の件において、以下のように述べていますが、
UGAYA Journal.:■「オリコン」が烏賀陽個人を被告に5000万円の損害賠償訴訟■

これは武富士と同じ手口の言論封殺の恫喝訴訟じゃないのか。オリコンは雑誌だってたくさん出しているのだから、烏賀陽の言うことが間違っているのなら「烏賀陽のいうことはウソです。なぜなら××」と反論すればいいのだ(ぼくが06.12.19にそう書いたら、自社ウエブにちょこちょこと掲載した)。それこそがまっとうな「言論」というものじゃないのか。意見の異なる者を高額訴訟で社会的に抹殺するなんてのは、民事司法の体裁をとった言論妨害じゃないのか。

(太字は引用者=ぼく)
武富士」を似た例に出すのは、印象操作的にはどうかなぁ、という疑問もあります。
武富士の場合は、「複数の雑誌・出版社」を訴訟相手にして、「個人」に対する訴訟は、プラスアルファの形でしか見当たりませんでした。ちょっと、悪質とか「恫喝訴訟」として一緒に語っていいレベル・傾向のものかどうか。
参考リンク。以下のところを見ると、武富士以外にもいろいろな例があります。
メディアを相手取った高額訴訟一覧
今回の訴訟の例に近いものは、ぼくの判断では2つでした。
一つは、「短期集中連載 尾崎豊・死の疑惑」の記事を週刊宝石に書いたフリージャーナリスト・永島雪夫氏に対する遺族の訴訟で、これは最高裁まで争われたあげく、500万円の支払いその他が認められました。
最近の判決(02年1月〜02月)

☆ 最高裁;故尾崎豊さんの記事めぐり、フリージャーナリスト敗訴(02年2月8日)
歌手の尾崎豊さんの死をめぐって、フリージャーナリストが94年に「夕刊フジ」に連載した「尾崎豊 若き血の叫び」と、同年に「週刊宝石」に3回掲載した「尾崎豊・死の疑惑」と題した記事に関して、尾崎さんの妻繁美さんが「死因が他殺で、殺害に関与したように報道され名誉を傷つけられた」としてフリージャーナリスに5,000万円の損害賠償などを求めた訴訟の決定が第二小法廷であった。
決定は、フリージャーナリ側の上告を退けるもので、これにより、名誉棄損を認めてフリージャーナリに500万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じた二審・東京高裁判決が確定した⇒高額賠償額一覧表。

これは「個人」が「個人」を訴えた例なので、「オリコン」対「烏賀陽弘道さん」とはまた少し違っていますが…。
もう一つは、(多分)日本音楽著作権協会JASRAC)の抗議を受けた本田雅一の「週刊モバイル通信」第345回、「音楽著作権“利権者”たちの変わらぬ想い」という記事で、これは「はてなブックマーク」にもけっこう入れた人がいたみたいですが、
はてなブックマーク - 本田雅一の「週刊モバイル通信」 - 音楽著作権“利権者”たちの変わらぬ想い
これに関しては現在こうなっています。
お詫び

2006年6月15日掲載の連載、本田雅一の「週刊モバイル通信」第345回におきまして、(社)日本音楽著作権協会JASRAC)様についての記述の中に、事実とは異なる記述および不適切な表現が複数個所ございました。JASRACへの確認取材をせずに書いたことによるものであり、ここに、JASRACおよび関係各位に多大なご迷惑をおかけしたこと並びに読者の皆様に誤解を与えたことを深くお詫び申し上げます。

(2006年8月30日)

[Reported by PC Watch編集部]

消されてしまったテキストをネット内で探すのは難しいですが、一応リンク。
音楽著作権“利権者”たちの変わらぬ想い - Google 検索
週刊ダイヤモンド」と「日本音楽著作権協会」の訴訟問題は、ウィキペディアでは以下のように記述されていましたが、
日本音楽著作権協会 - Wikipedia

週刊ダイヤモンドとの裁判
2005年11月11日、JASRACは出版社の株式会社ダイヤモンド社を相手取り、名誉毀損訴訟を起こした。JASRACは、ダイヤモンド社が発行する経済誌週刊ダイヤモンド」の2005年9月17日特大号に掲載された「〈企業レポート〉日本音楽著作権協会ジャスラック)/使用料1000億円の巨大利権 音楽を食い物にする呆れた実態」と題する記事の内容は虚偽または歪曲された事実であるとし、損害賠償と名誉回復措置を求めている。 この記事は、JASRACが徴収する著作権使用料の用途やその徴収方法、組織役員の天下りなどについてスポットを当てたものであった。
なお、この記事はYahoo! JAPANとzassi.netが2005年12月から2006年1月にかけて実施した「やっぱり雑誌がおもしろい! 雑誌ネット大賞」における一般投票の結果「ニュース・報道部門」の1位を獲得し、同部門賞を受賞した。

日本音楽著作権協会JASRAC)の言い分は以下の通りです。
株式会社ダイヤモンド社に対する訴訟の提起について

JASRACは、「週刊ダイヤモンド」2005年9月17日特大号に掲載された「企業レポート 日本音楽著作権協会ジャスラック)」という記事について、発行元である株式会社ダイヤモンド社及び記事の執筆者である記者1名を被告として、平成17年11月11日、不法行為名誉毀損)に基づく損害賠償の支払と名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起しました。
この記事は、虚偽の事実または歪曲された事実を記載したり、客観的根拠もなくJASRACの業務遂行の方法を一方的に中傷する表現を用いるなどして、JASRAC著作権管理業務が極めて不適正、不公正に行われているとの印象を読者に与えるものであり、JASRACの社会的名誉と信用とを失墜させ、その業務を妨害しようという意図の下に掲載されたものと考えざるを得ません。
JASRACは、同社に対し、厳重に抗議するとともに、記事の訂正と謝罪広告の掲載を求めていましたが、同社からこれに一切応じる意思がないとの通告があったため、司法上の救済を求めることにしたものです。

「訴訟」に至る前に「抗議」があった、という主張です。
烏賀陽弘道さんのケースもぼくは、訴訟の前にそれなりの抗議、というか異議申し立てがあった、という判断があるんですが、その点はいかがなものでしょうか。
烏賀陽さんは以下のように書いていましたが、
UGAYA Journal.:■「オリコン」が烏賀陽個人を被告に5000万円の損害賠償訴訟■

これはオリコンのデータとPOSデータ(サウンドスキャン社)のデータが乖離しているのはなぜか?という疑問を提示したものです。この記事も当時オリコンの小池恒右社長の憤激を買いました(社長直々にお怒りの電話を頂戴しました)ので、烏賀陽オリコンの「好ましからざる人物」にリストアップされていたことは間違いありません(過去に取材拒否もあり)。

「社長の電話」が「怒り」によるものだ、とか、その内容までは伝聞情報でしか出てこないので、言及が難しいのですが、その抗議にちゃんと対応したのか、抗議以上のものを受けても自己責任で対応できるような「オリコン」に対する批判内容は「虚偽の事実または歪曲された事実」ではないものだったのか、とかいろいろ考えてしまいました。
ただ、同じところで烏賀陽さんは以下のようにも書いており、

烏賀陽は一貫して「レコード会社の宣伝・営業担当者にはオリコンの数字を操作しようとする良からぬ輩もいる=オリコンは被害者である」という立場を取っているし、文意からもそれは明らかなのに、なぜかオリコンはそれを無視し烏賀陽の記事が自社の信用を損なったと主張していること。

オリコンの社長の文章理解力が○○(訴訟を回避するため伏字にしてみました)だった」ということもあるかもしれません。
要するに、ぼくの過去のエントリーでは「教科書には出てこない「征韓論の原因」とは何か」と同じような、コミニュケーション・ミス(てゆーか、相互誤解?)が、双方にあったのでは、という感じでしょうか。
ネットやマスコミの「表現の自由」的に考えると、「オリコンのチャートは信用できない。俺がいいと思った曲が入ってないからだ」というのは多分オーケーですが、「オリコンのチャートは信用できない。情報操作されているからだ」は、その「情報操作」の具体的な事実が提示・証明されていないと、多分アウトだと思います。
ぼくが見た限りでは、「レコード会社」によるチャートの操作に関しては、「過去にはあった」という(確認が難しい)複数証言があるんですが、「オリコン」によるそのような操作は確認できませんでした。「オリコンは被害者である」という烏賀陽弘道さんの主張はある種正しいようにぼくには思えたので*2烏賀陽弘道さんは、今後ぼくとしては「自分はオリコンに訴えられた被害者である」という主張を続けるよりは、「オリコンは被害者である」という主張を、もっとはっきり、バカにも分かるように言い続けるほうが、業界的にはいい感じに話が流れそうな気がします。
ぼく個人の意見は、あくまでも一般論で、烏賀陽弘道さんの今回のケースに当てはまるかどうかは微妙ですが、「メディアによる名誉棄損訴訟で高額賠償の流れ加速」の個々のケースを見る限りでは、「マスコミの報道責任」に関する意識をもっと持たせ、「ネット内の噂」と「マスコミの報道」とを差別化するためにも、「高額賠償請求」が即イコール「言論封殺」になる、というような判断は避けたいと思っています。
ぼくがネットでしていることは、対象が誰であれ(福島みずほさんであろうと、あるいはブッシュ大統領であろうと)「言ってもいないことを言ったと書かれた側」の立場を考えてしまうわけです。
なんか、あんまりまとまらないんですが、ていうか以前のテキストの繰返しになる部分が多いんですが、
1・「5000万円」の「名誉棄損訴訟」の額は「少し高め」ではあるが「高額賠償」というわけではない
2・「個人」のみを対象に「企業」が訴訟した例のほうが稀なので、それをもっと強調したほうがいい
3・今回の訴訟の例としては、「武富士」ではなくもっと別の例で近いものがある気がする
4・オリコンの社長は一応訴訟の前に抗議したらしい
5・「オリコンは被害者である」というのが烏賀陽弘道さんの主張
という感じで、今回の事件に関しては、皆さんあおられすぎ・釣られすぎ、の感がしないでもありません。
 
今後の展開で気になるのは、烏賀陽弘道さんが弁護士費用にいくら使うことになったかを、はっきり分かる形で公開するか否か(「着手金が219万円かかる」とはおっしゃってますが)、また準備書面を公開するか否か、ということです。
裁判ということになりそうなので、オリコンからの「内容証明」の手紙と同じく、一般に公開することによるデメリットを加味しないといけないとは思いますが、ネットの中の人間が時間をかけて落ち着いて考えてみた結果が、何となく「(金のからんでいない)支援してして詐欺」「左巻きの支援大運動会」みたいに見えたり判断になったりしないかな、という懸念があるのですね。
ぼくとしては、今でも実のところネット者には「烏賀陽弘道の野郎だましやがったな!」と言われるようなことになっても、オリコンとは「和解勧告」に近いものが出ていることだし、あんまりお互いに不名誉な形にはならないような決着もありそうな気がするのですが。
 
これは以下の日記に続きます。
烏賀陽弘道さんのネット上での記述に関する信頼が、ぼくの中では音を立てて崩壊しているんですが
 

*1:この言いかたは我ながら引っかかる部分が多いんですが、もう少しうまい言葉が思い浮かばない。

*2:だいたい何でオリコンがそのような「操作」をしなければならないのかよくわからないのです。誰かぼくに、そのようなことをオリコンがしているとするなら、それをすることによるオリコンにとってのメリットを教えてください。