森村誠一氏と松本清張氏の不幸な接近遭遇
以下の本を読んでいたら、
- 作者: 森村誠一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/03/16
- メディア: 単行本
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よい文章に求められるのは、情報を伝えることだけではない。人を惹きつける文章に到達するためのヒントが満載の一冊!ミステリートップ作家の最新エッセイ集。
松本清張氏に関する思い出というか、嫌な思い出について書いていた章があったので、メモ。p32〜p36。
最初の出会いについて。
・横山白虹という小倉出身の俳人が森村誠一の俳句の師匠であり、ふとしたきっかけで自著を見せたら「こりゃ面白い。松本清張に紹介してやろう」ということになった。
・横山白虹氏は元外科医で、松本清張が貧乏だった時代に出世払いで盲腸の手術をしたことがあった縁。
『文芸の条件』には書いてないけど、森村誠一公式サイトの、『サラリーマン悪徳セミナー』という初著作に関するテキストから引用。
→サラリーマン悪徳セミナー
その際、白虹氏に伴われて、5分間という約束で清張邸に赴いた私を(写真館参照)、清張氏は一顧だにせず、白虹氏とばかり話していた。清張氏の注意を惹こうとして、私は清張氏のある作品のホテルの描写にミスがあると言ったところ、清張氏は初めてぎらりと眼鏡越しに私の方へ目を向けて、「どこがどうちがっているのか、言ってみたまえ」と言った。
私がその箇所を説明すると、清張氏は奥さんにノートとペンを持参させ、「ホテルのフロントのシステムについて話してくれ」と言った。5分の約束が2時間の取材となって、辞去するとき、清張氏は上機嫌で、私の第1作に60字の推薦文を書いてくださった。
二回目の出会いは、江戸川乱歩賞を受賞した際の話。
・選考委員に挨拶に行くのが慣例だったんだけど、松本清張だけはアポイントが取れない。
・先輩作家の佐賀潜氏のすすめで、アポなしで三千円の山本海苔を持って、真夏に松本邸にお邪魔する。
・玄関先で「突然来たって俺は会わないぞ」という声が筒抜け。
・奥さんの説得で渋々顔を出すが、どういうわけか森村誠一氏と佐藤愛子氏(直木賞作家)とを終始間違えられる。
・いくら何でも玄関払いはないだろうと、あまりの冷たさに下高井戸の駅まで徒歩で帰って涙を流す。
三回目は、乱歩賞パーティのとき。
・松本清張氏は、当時いろいろな賞の選考委員をやっているが、候補作品・受賞作品を読んでいない。
・選評は、編集者に粗筋を聞いて書くのだが、ツボを外していない。
・数年ぶりにパーティに出たという松本清張氏は、森村誠一氏の家人(パーティ慣れしていない人)に、二時間ほど付きっ切りで、賄い係みたいな感じで料理をすすめてくれた。
ちょっといい人になってます。で、こういうテキストになる。p36〜p37。
そういう出会いがあって、それ以後清張さんから、文庫の解説の依頼などいただいていたのですが、松本清張という作家は、江戸川乱歩とか、横溝正史に比べて大きな違いがあります。それは、乱歩さんや正史さんは、後進や新人に非常にあたたかい。新しい才能の育成に非常に熱心です。新しい才能というものに目をかけてくれる。松本清張さんは全く逆です。まず新人に対しては、疑惑と警戒の目を向ける。「こいつはどの位の奴だ。将来俺のマーケットを荒らすんじゃないだろうか」とか。特に、勢いのいい新人に対しては、大変に冷たかったと思います。作家というものはそれぞれが自分の体内に作品を産む卵巣を持っています。その卵巣というものは、限界がある。大切な自分の作品という卵を産む限界能力を犠牲にしてまで、どうして俺が新人の育成をしなきゃいけない、自分の作品を産むのに忙しい。いうなれば、自分の作品しか見つめていない方です。これは私自身も、清張さんの姿勢は作家として見習わなければいけないと思います。
ということで、改めて。
→森村誠一公式サイト
なかなか資料が充実しています。
ぼくが面白かったのは、以下の3つかな。
→追悼 笹沢左保氏
→和田義彦氏の盗作疑惑について
→憲法第9条名言集
笹沢左保氏の自筆テキストという、滅多に見られないものが見られて感激です。