『荒地の恋』---これは読んでてつらかった

lovelovedog2008-04-08

 画像は「77才時の北村太郎(左)と田村隆一」。
 以下のところからいただきました。
荒地の恋 - 映画の小窓
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/5a/5ef17947a755b54c7b3311045836f26d.jpg
 ただし、北村太郎は69歳(70歳の誕生日を迎えるほんの少し前)、田村隆一は75歳で亡くなっているので、「67歳時」の間違いかもしれません。
 一応、以下の日記なども参考に。
田村隆一と北村太郎 - 愛・蔵太のすこししらべて書く日記

荒地の恋

荒地の恋

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53歳の男が親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった…。詩神と酒神に愛された男・田村隆一。感受性の強いその妻・明子。そして、明子と恋に落ちる北村太郎。荒地派の詩人たちの軌跡を描く力作長篇小説。

 ということで、小説中では「明子」さんなんですが、実名は「○子」さん? とりあえず伏せておきますが、実際こんな人物いたのか、という小説っぽいキャラ(カルチャーセンターで知り合い、北村太郎と恋仲になる若い看護婦)もいることはいるとはいえ、「荒地」派の詩人は田村隆一も含めて鮎川信夫とか中桐(雅夫)とかどんどん出て来て、ほとんど実話と思って読むとクラクラします。東京府立第三商業学校時代からの友人である田村隆一3度目か4度目の妻を取り合い、2度目の妻と別居する北村太郎(最初の妻と子供は海水浴で溺死)。明子さんは鬱で自殺を図るし、田村隆一はアル中で入院するし、最後のほうでは北村太郎不治の病にかかるし、詩人の仲間はどんどん死んでいくし、という、人生晩年の波乱万丈。いくら人生晩年でも普通の人はここまで波乱万丈にはなりません。物語の骨子は男女の物語(不倫というか真実の愛?)で、タイトルに偽りなしなんですが、読後の感想は「荒地(人生)の後始末」という感じでした。死に至る病を告知されて退院するときに、車の中で主人公が聞く松田聖子の「Strawberry Time」があまりにも痛々しいので、思わずYouTubeで曲を探して聴いてみたよ。そしたらこちらまで胃が痛くなった。
 全体にとても楽しいとはいえない話を、やはり人生晩年と言ってもいいだろうねじめ正一が文学的・詩的に物語にしているので、そうだなぁ、あまり若い人にはお勧めできないし、晩年の人にもお勧めしにくい。でも文学。暗い話だけれど、物語の基本はそんなに暗くない。小林信彦に少し似ている、と思ったのは、翻訳小説まわりのエピソードが少し入っていたりするせいか。ちなみに北村太郎はジョナサン・ケラーマンとかトレヴェニアン(『夢果つる街』)とか訳した人。と言っても知らないか。ミュージカル『キャッツ』の原作(T.S.エリオット『ふしぎ猫マキャヴィティ』)の翻訳者でもあるけど、本はもう品切れっぽい。別の翻訳者による『キャッツ―ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(ちくま文庫)のほうが入手は容易か。
 ミステリー的なオチとしては、話の中にはほとんど出て来なかった北村太郎の双子の弟が葬儀場に現われ、登場人物の一人が驚愕する、というのがありますが、これはまぁバラしても特に問題はないオチだと思う。