ネットカフェ難民の嘘と罠・「昼食代1000円」のネットカフェ難民妊婦は実在するのか

 見出しは一部ホッテントリメーカーで作りました。17users(推定)。
 
 以下のところから、
<ネットカフェ難民>「しんどい」と訴える妊婦まで 100人の実態調査(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

ネットカフェ難民>「しんどい」と訴える妊婦まで 100人の実態調査
5月22日14時1分配信 毎日新聞
 
 NPO「釜ケ崎支援機構」が大阪市の委託を受け、大阪や高槻のネットカフェやファストフードなど深夜営業店の利用者や野宿経験者ら100人に聞き取り調査をした。生い立ちや仕事内容を詳しく聞く、全国でも例のない調査だった。その一部を紹介する。【松本博子】
 
 ◇妊娠「部屋を借りたい。しんどいよ」
 
 30代前半の女性は派遣会社に登録し、午前8時から午後5時15分まで働く。時給800円。高校卒業後、彼に「自立しろ」と言われて家を出るまでの10年はさまざまな仕事で母との生活費を稼いだ。ネットカフェは彼に「大阪で一番安い」と紹介されて使い始めたが、熟睡はできない。
 妊娠している。彼が病院に付き添ってくれると思ったが、朝電話したら「22時まで仕事をしていたのでしんどい」と言われ、一人で診察を受けた。彼には「(子どもおろすのに)なんぼ、かかるの?」と言われた。 「ほんというたら、大切な命だから、殺すわけにはいかない。貯金が100万200万あったら……。頑張りたいのに」。4万円あった貯金は彼の借金返済に消えた。職場までの交通費は往復約500円。昼食に1000円。朝、夜はコンビニ店でパンなどを買う。使ったお金をノートに書き彼に見せている。
 「部屋を借りたい。しんどい、しんどい、しんどいよ」。調査の後、何度か相談の電話があったが、連絡は途絶えた。
 
 ◇食事は1回フリードリンク5リットルだけ
 
 勘当された実家近くのネットカフェを使う30代前半の男性。山口、香川、岐阜、埼玉県の工場で半年契約で働いた。「(半年を過ぎると)時給が上がるから。安い単価で使えるわけ」。今は派遣で週3、4日、働く。午後10時から午前10時までで7000〜9000円。
 ネットカフェなら仕事も探せるし、漫画もある。最近の食事は1日1回、そばか、うどんだけ。ひどいときはフリードリンクで1日5リットルもジュースを飲む。「糖尿病になるのでは」と不安だ。
 
 ◇睡眠は4時間
 
 10代後半の男性は東南アジアで生まれ、家族で日本に来た。ホスト時代に知り合った客からもらう金で、主にネットカフェで暮らしている。
 定時制高校に進学。ラーメン店やゲームセンターなどでアルバイトをし、「食費も自分で稼いだ」。父は自動車製造会社でショベルカーを作っていた。家族で食事をとったことも「ないですね」。
 高校を中退し親のつてで工場に就職したが、重労働で辞めた。家に入れてもらえず、近くのコンビニで頼んで働かせてもらった。その時の店長が「一番信頼できる人」と話す。
 ホストクラブでは午後9時には出勤し、閉店は午前8時。睡眠は4時間。初任給は月3万円で、2カ月目は10万円だった。毎日飲む大量のアルコールをトイレで指を使い吐いた。顔色を隠すためファンデーションを塗ったことも。体がしんどくなり2カ月で辞めた。
 野宿はしたことがない。「そこまでは落ちたくない」と話した。
 
 ◇NPO聞き取り、大市大が報告書
 
 調査は昨年6〜12月、大学の研究員ら延べ約400人が行い、大阪市立大学大学院創造都市研究科が298ページの報告書にまとめた。深夜営業店の利用者65人の中心は20〜30代で、寝泊まりの場所としてネットカフェの他にファストフード店、サウナ、カプセルホテル、友人宅、路上などを挙げた。
 仕事の経験では、派遣会社の紹介は交通費や作業着などを自己負担させられ、住居付きの職場は寮費や布団代などを差し引かれ、結局お金が残らないと多くの人が訴えた。「住民票がない、住居がない、仕事がない、何を優先すれば安定した生活が送れるのか分からない」と悩む声も。
 結果をまとめた島和博・同大学院教授は「社会の最下層に貧困が貧困を生む仕組みがあり、若年層や特殊な地域に限られた問題では済まなくなっている」と指摘している。

 インターネット時代のありがたいところは、その「調査結果」の全文がたちどころにネットで読めることです。
釜ヶ崎支援機構
「若年不安定就労 ・不安定住居者聞取り調査」報告書(pdfファイル・2.03MB)
 なかなか全部を読むのは大変ですが、ざっと目を通してみました。
 まず、見出しが恣意的なんですが、「聞き取り調査」をしたのは、「実際にネットカフェやまんが喫茶、ファーストフード店に出向いて利用している人やネットカフェを寝泊まりの場所として利用した後野宿に至った人、さらにはネットカフェを利用したことはないが野宿に至った若者を合わせて、100 人から聞き取りをすることができた。」(pii)とあるとおり、実際にネットカフェ難民的聞き取り調査対象となったのは65人のようです。p34-35。

2.3 実態としてのネットカフェ生活者
 
つぎに、ネットカフェ生活者の生活実態を明らかにする。「ネットカフェ難民」と言うと、日雇派遣に就きながら住居なく長期間「ネットカフェ」で生活を続けている、10 代後半から20 代前半の若者がイメージされる。実態としてのネットカフェ生活者は「ネットカフェ難民」としてマスメディアによって流布される、そのイメージ像とは異なる。
実態としてのネットカフェ生活者はつぎのように必ずしも「ネットカフェ難民」としてイメージされる存在と同一視できない*6。まず年齢については、調査協力者65 人中20 人が「30〜34 歳」でもっとも多く、つぎに「35〜39 歳」(14 人)、そして「25〜29 歳」(12 人)と20 歳代後半から30 歳代が中心である。が、40 歳以上が13 人、その内50 歳以上が7 人である。このように、ネットカフェ生活する人々には若者ばかりでなく中高齢者もいる*7。
つぎに、「ネットカフェ」で寝泊まりする頻度については「週3 日以上」が63 人(無回答除く)中41 人と多いが、「週2 日未満」は22 人であった。寝泊まりするところとして利用する場所は「ネットカフェ」以外に、「ビジネスホテル・旅館」(4 人)、「カプセルホテル」(6 人)、「簡易宿泊所」(2 人)、「サウナ」(7人)、「ファーストフード店」(10 人)、「その他の飲食店」(5 人)、「路上」(17 人)、「友人宅」(6 人)、「昼間に図書館で寝る」(6 人)等が挙げられている。「ネットカフェ・マンガ喫茶以外にない」のは18 人である。決して「ネットカフェ」だけを利用し続ける人ばかりがいるわけではない。また、調査協力者の多くは「住居」以外での生活期間が1 年未満と短いことも付け加えておく。
そして、現在の仕事については、「仕事をしている」が65 人中48 人、「求職中」は14 人である*8。「仕事をしている」人の内、「日雇派遣」は12 人、「自営業」が4 人、「常雇」が14 人、派遣ではなく「直接雇用」は25 人である*9。このように、日雇派遣に従事する人ばかりではない。常雇に就く人や失業中の人もいる。
したがって、ネットカフェ生活者の存在は「ネットカフェ難民」と呼ばれたときにイメージされる像と一致しない。その存在形態は多様であり、その生活過程は流動的である。

 新聞記事の最初のほうにある女性(妊婦)のかたの生の声は、「生活誌」の24番目のテキストとして読むことができます。p151-154。

24. 女性30 代前半
 
前日の早朝、ある調査員がネットカフェの前で出待ちをしていたところ、リュックひとつをかかえて出てくる女性に声をかける。今日は仕事で、晩は友だちのところに泊まるので、明日ならかまわないと。明日、調査員の携帯電話に連絡すると別れる。翌日、電話がかかってくる。仕事が終わったので今からなら構わないですが・ ・ ・。ネットカフェの前で19 時に会うことを約束して電話を切る。18 時45 分、梅田のビックマンの前でもう一人の女性の調査員と一緒に待ち合わせをして19 時少し前ネットカフェの前に行くと、彼女はT シャツにバッグ1 つというラフな格好ですでに待っていた。声をかけると緊張した表情で返事をしてくれる。近所のファーストフードの店に行き話をはじめる。
(中略)
大阪から仕事場までの往復500 円くらい。お昼ごはん等に1,000 円。朝、夜はコンビニでパンなどを買い、昼は現場で食事をとる彼女は、使ったお金をノートに記入し、3 日間ごとに彼に見せているという。
「3 日間のたまったお金を彼に見せ、使いすぎって言われる。洗濯して200 円使っただけで無駄使いと言われた」。
母親や身内からは見放されたと考えている。「今年春に宗教家と会って、母親と話し合うことをすすめられた」。母親は10 年弱前に手術してから仕事をしておらず、生活費は彼女が出していた。今年に入ってから働き始めた母親は、現在50 歳代後半。
「部屋を借りてゆっくりしたい。『あんたは頭打ちしいひんかったら別れられない』って母親や親戚から言われていた。でも今は実家に帰る気はない。自立してるでって言えないから無理。自分は今の段階では負けになってしまう」。
今回この調査に協力しようと思ったのは、友達や相談できる人がいなかったからだという。内向的と周囲から言われ、現場の先輩からも、おとなしいと言われ、相談する人がほしかった。
「子供がいる、いないに関わらず、部屋を借りたい。しんどい、しんどい、しんどいよ。ほんまに部屋借りたい。1 週間は我慢できるけど、そこからは・ ・ ・」。彼女は調査員と一緒に食事をした。その後何度か電話があってお腹の中の子どもをどうするのか話をしたが、ぷっつり電話がかかってこなくなった。

 この資料「生活誌」はなかなか他のものも、じっくり読みたいテキストなのでした。
 ただ、「ネットカフェ難民」に関するぼくの意見は前にも言ったとおりです。
ネットカフェ難民なんてただの報道の演出です
「ネットカフェ難民」の定義と報道の問題について

ぼくは「経済的困窮」以外の理由でネットカフェしか利用できない「難民」まで「ネットカフェ難民」というのは、「難民対策」を考える際に障害となりすぎるので、やめるようにしてもらいたいのですね。

 今回の毎日新聞の報道の例を個別に見ていきます。

◇妊娠「部屋を借りたい。しんどいよ」

↑「実家に帰る気はない」という当人の意地(プライド)の問題。

◇食事は1回フリードリンク5リットルだけ

↑この人の元テキストはこんな感じ。「「若年不安定就労 ・不安定住居者聞取り調査」報告書」のp37。

日雇派遣の仕事は週3 日程度、夏場はテキ屋をする30 代前半の男性:今までは実家の前まで行き、母親が紙袋にお金を入れて窓から投げてくれることもあった。しかしそれが姉の知るところとなり、実家の前にいたところ警察まで呼ばれることになった。警官は実家の中に入って「母親が迷惑だからもう来ないでくれと言った」と伝えてくれた。

前述の日雇派遣とテキ屋に就く30 代前半の男性:体調はきっと悪いと思う。埼玉県の国民健康保険はある。有効期限はこの秋までだけれども。最近の食事は1 日1 回そばか、うどんを食べるだけ。まともな食事はとっていない。昼は職場で食べるけど。ひどいときなどネットカフェで1 日5リットルジュース飲むから糖尿病になるのではないかと不安ではある。体力も低下したなと思う。相談できるところはない。福祉のところにはいったことはない。福祉に頼るのは甘えかなと思う。警察の相談所に行ったら、生活保護をうけて仕事をさがせる方法があるときいたが。住民票のことで区役所の住民票の係に相談に行ったことはあるけど、今日会えてよかった。住民票をとりよせる手続きをしてくれるんだ。住民票を実家において住民票の写しをとったら仕事できるから。

↑これを見る限りでは「自立するための努力」はかなり積極的にしている様子。「甘え」と感じさせない支援制度が期待されます。

◇睡眠は4時間

↑この人(男性10 代後半)の語った内容は「「若年不安定就労 ・不安定住居者聞取り調査」報告書」の「生活誌」18にある通り(p143-145)

寝場所は専らネットカフェ等である。大阪市北部のネットカフェを2 店舗ほど使う。一つの店舗にはシャワーがある。釜ヶ崎のドヤのことを話すと、「ネットカフェがいいですね。パソコンがある。チャットもできるし、仕事の情報もある。女の子の情報も大事。流行のブランドや化粧品のことも知っとくと女の子と話すのにいい。チャットもやってみるといいですよ。僕も最初は『こんなこと書いてもいいのかな』とか思ってましたけど、向こうも僕のこと知らないじゃないですか」。寝心地について聞くと「住めば都っていうじゃないですか」。昼は街をブラブラしたり、人通りの少ない小さな公園のベンチにいるという。

「自分探しの旅」真っ最中の仮の宿として、あえてネットカフェを選んでいるように思えました。
 とりあえず、妊婦の人の「1000円」が「昼食」なのか「お昼ごはん等」なのかは微妙な違いですが(後者だとすると、朝・夕食代も含んでいる気がしないでもありません)、他の2例における「食事は1回フリードリンク5リットルだけ」というのは恣意的な嘘(実際には「まともな食事はとっていない」とはいえ「昼は職場で食べる」と述べている通りです)、「食事は1回、(さらに)フリードリンク5リットルもジュースを」というのが正確な見出しという感じで、「睡眠は4時間」というのは「過去には睡眠4時間の労働をしたときもあった」というのが正確な見出しでしょう。
 いずれにしても、ひどい生活であることには間違いありませんが、新聞の見出しは演出がひどすぎるし、実際のひどさに関しては情報源(元ソース)をちゃんと読んで語りたいものだ、と思いました。
 参考リンク。
ニュース超速報! なんと妊婦のネットカフェ難民まで存在した! ちなみに昼食代は1000円

45 名前: 一堂琢石(神奈川県)[] 投稿日:2008/05/22(木) 18:45:37.27 id:CwXicDf00
コンビニで昼食買うと油断するとすぐ\1,000行くよね
メインが\600でサラダ\200お茶\150
あれは本当に気をつけた方がよい

 確かに、コンビニの弁当プラスアルファだと、すぐに昼食1000円越えそうな感じではあります。