福野礼一郎というのは何者なのかという話(リスペクト)・2

lovelovedog2004-10-03

↓以下の続きです
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20041002#p3
引き続き『またまた自動車ロン』(福野礼一郎双葉社)(→bk1)(→amazon)(→書籍データ)の話をします。この人のテキストはすごいということだけ言ってあとは引用がメインなので少し楽です。今回は、戦車と銃の話。まず戦車はこんな感じ。P249-250。

 冷戦後CIAによって明らかにされた旧ソビエト地上軍の軍事ドクトリンとは戦慄すべきものだった。「タイム」誌1994年7月4日号によれば、ソビエト第三次世界大戦計画はまずソ連の「先制核攻撃」によってスタートする。1200発の戦術核ミサイルをもってファーストストライクで西ヨーロッパ各地のNATO基地を殲滅、NBC(核・生物・化学兵器)防御を施した1万両の戦車を主体とする地上軍はそのあと西ヨーロッパへ突進して制圧する。そういうことだ。驚くべきことに旧ソ連の地上兵器はもっぱらすべてこの軍事ドクトリンに基づいて開発されていたのである。
 T72が想定していた対戦車戦は「非核戦争」を前提としていた西側戦車と違って限定的なものだった。想定会敵距離は2㎞以下、精密な初弾命中性能はいらない。ただし機動性は制圧攻撃に不可欠だ。そこで重くてかさばる重装甲をやめて車体を軽く作り、被弾時の乗員残存性は薄い装甲に与えた「被弾経始」と低いシルエットによる地形隠蔽能力に託す。
 こうして低くカッコよく身長165㎝超の人間は乗れない箱ができた。125㎜砲は射程2㎞以上で弾道が低伸しなくなる(命中精度が悪化する)が近距離での打撃力は強い。これを複雑な射撃統制コンピュータなしでぶっ放す。そういうことだ。
 東西合併後に創設された新生ドイツ連邦軍は、旧東ドイツ軍が装備していた1000両あまりのT72を分析した結果「常軌を逸した軍事ドクトリンが生んだ非人間的道具」と唾棄してその全数をとっととスクラップにしてしまった。
 T72戦車を1200両装備していたサダム・フセインイラク大統領警護隊は湾岸戦争3日間の砂漠の戦車戦で壊滅した。狭く暑い砂漠では身を隠すものもなく、会敵距離2㎞以上ではまったく当たらず、初弾命中率も低く、NATO軍装備の劣化ウラン徹甲弾には自慢の避弾経始形状も役立たずとあっては当然だろう。使い方も使う場所も間違っていた。T72は、旧ソ連軍の異常な常識の中でしか通用しない道具だったのである。

NATO軍装備の劣化ウラン徹甲弾」というところが引っかかりますが(実際には米軍のM1A1エイブラムス戦車じゃなかったかな。弾はAPFSDSという奴ですか)、こう書かれるとフセイン軍の敗因がより明確になるみたいな感じです(追記:このあたりは少しミスがあるので、コメント欄を参考のこと)。今日の画像は、かっこいいT72(T-72)です。→http://www.fas.org/man/dod-101/sys/land/row/t72tank.htm
で、話はそこから「車高1400㎜以下、前面ガラスの傾斜角55°以下」といった、(当時の)日本車のデザイン批判になるわけですが、まぁくわしいことは本を見てみてください。
これ以外にも、日本の自衛隊の戦車その他(90式・74式戦車、87式偵察警戒車、高機動車)に乗った話などもあるので、軍事がお好きな人にも面白いと思います。
次に、福野礼一郎による銃の話。これは塗り(塗装)の話だけをピックアップします。まずアメリカの銃、コルト・ガバメント(キャリバー・45)。P273。

 何ともゴツくて重くデカい銃である。全体はザラザラとしたグレーのツヤ消し仕上げで、自動車用の鋼板に錆止めと塗装下地を兼ねて施されているリン酸塩皮膜処理と同じものである。リン酸4%、リン酸鉄8.7%、リン酸マグネシウム33%の水溶液中に鉄鋼を浸積して表面に第二(または第三)リン酸鉄の強い皮膜を作る化成処理法で、1915年にアメリカ人J.H.パーカーが発案した。一般には商品名「パーカライジング」で呼ばれている。小部品に至るまでこの仕上げを施してあるためか、一見すると繊細な部品を組み立てて作ってあるという印象がない。全体が一塊の鉄鋼で作られた拳銃型の棍棒、そんな感じである。

次に、ドイツの銃はこんな感じ。ワルサーP38。P275。

 着色は強いアルカリの中に製品をドブ漬けにして表面に黒い四三酸化鉄(四酸化第三鉄Fe3O4)の防錆皮膜を作るいわゆるアルカリ黒染め法で行なっている。パーカライジングに比べると皮膜が弱いので、角の部分や機械加工の切削跡が白く剥げ、それが全体のシャープさをなおさら醸し出している。

最後に、日本の銃。旧日本陸軍の十四式拳銃。P278。

 表をおおっているツヤのまったくない深いブルーの着色は、青錆染という古典的技法である。古来、刃の拵(こしらえ=外装のこと)の鉄金物の錆止めに使われてきた方法で、四三酸化鉄皮膜の生成に酸化第二鉄アルコール溶液を使う。溶液を筆で塗布しながら表面に生じる赤錆をブラシでかき落とす作業を繰り返し、22〜27時間を費やして強固な青い四三酸化鉄皮膜を表面に作る。そのため内部の着色が一切できないのである。薬莢の排出口からのぞく遊底は真っ白い鉄の磨き肌、それがブルーの外装と絶妙のコントラストを作っていた。

こんな感じで、塗装以外にも3つの国の、銃に関するコンセプトに基づく相違などを書いています。
ああ美しい。理科系的に美しいこういうテキストを読むのはなかなかの快感です。クルマのことは俺にはよくわからないのですが。

ゲッベルスの名言の出所について

↓「Goebbels lie truth」で検索(google
http://www.google.co.jp/search?q=Goebbels+lie+truth&hl=ja&lr=&ie=UTF-8&c2coff=1&start=40&sa=N
↓「嘘 真実 なる ゲッペルス」で検索(google
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&q=%E5%98%98%E3%80%80%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E3%80%80%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%80%E3%82%B2%E3%83%83%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%B9
日本語だと「嘘も百回繰り返せば真実になる」というのが多いんですが(なんか千回・百万回というのも少しはあるみたいです)、英語だと「if you tell a big lie often enough it will become the truth」のように、回数にはこだわっていない感じ。「充分に」とか。ゲッベルスが本当は何と言っていたのか、どういう状況や書物で言っていたのか気になるので、来週あたり調査してみます。
しかし英語圏のほうがバラバラ。あまり原典にはこだわっていない感じです。
↓ちなみに、「ゲッペルス」ではなくて「ゲッベルス」なのは有名
http://www1.neweb.ne.jp/wb/soutou/monku.swf