『日本の原発、どこで間違えたのか』内の1983年1月・高木孝一元敦賀市長の講演テキスト(片輪発言)

 そろそろ「原発」タグ使おう。
 以下の本から引用。
『日本の原発、どこで間違えたのか』(内橋克人朝日新聞出版・2011年4月発行)より転載。p224-234。電子テキストは以下のところその他にもあるけど、
 
原発と地域振興
原発依存の町造りリーダー・高木孝一敦賀市長の講演記録 - 川越だより
 
 少しだけ違ってる(だいたいが『原発への警鐘』1986年講談社文庫からの引用)なので再転載。内橋克人氏のコメントは冒頭を除き、略。難儀なテキスト部分は、僕(愛・蔵太)が任意に太字にしました。
 講演は1983年1月26日、石川県羽咋郡志賀町で開かれた「原発講演会」(地元の広域商工会主催)で行われたもの、という伝聞情報。

 ここに一本の録音テープがある。
 昭和58年初め、原発の町、敦賀市で取材中のスタッフが録音テープの存在を聞きつけ、所有者の許しを得てダビングしてきたものである。
 両面で90分、うち1時間15分のスピーチを収めた問題のテープは、つぎの言葉ではじまっている。

 以下、高木孝一元敦賀市長の講演引用。

 ただいまご紹介いただきました敦賀市長、高木でございます。えー、きょうはみなさん方、広域商工会主催によります、原子力といわゆる関係地域の問題等についての勉強会をおやりになろうということで、非常に意義あることではなかろうか、というふうに存じております。……ご連絡をいただきまして、正しく原子力発電所というものを理解していただくということについては、とにもかくにも私は快くひとつ、馳せ参じさせていただくことにいたしましょう、ということで、引き受けたわけでございます。

 内橋克人氏のコメント、略。

 ……いわゆる防災義務と称するものは、(原子)炉の周辺から2キロないし3キロというところは、やはりそうしたところの(防災)体制を固めなさいと。こういうふうなことでございます。あるいは住民は避難道路をつくろう、とか、あるいはまた避難場所をつくろうとか、こういうふうなことで、私どもに対しましても、強くいろいろ申し出があるわけでございます。けれども、抗議もくるわけでございますけれども、ま、私は防災訓練もやらない、と……。もうそんな原子力発電所は事故があったら、逃げまどわなければならない、あるいは退避しなければならない、ということになったら、もうそれで終わりなんだ。そんなことはゼッタイあり得んのだ、というふうに、自分も、私どものいわゆる住民も、あるいは私も、そういうふうに思っておるわけでございます。

 内橋克人氏のコメント、略。

 一昨年もちょうど4月でございましたが、敦賀1号炉からコバルト60がその前の排出口のところのホンダワラに付着した、というふうなことで、世界中が大騒ぎをいたしたわけでございます。私は、その4月18日に、そうしたことが報道されましてから、20日の日にフランスへ行った。いかにも、そんなことは新聞報道、マスコミは騒ぐけれど、コバルト60がホンダワラについたといって、私は何か(なぜ騒ぐのか)、さっぱりもうわからない。そのホンダワラを1年食ったって、規制量の量(放射線被曝のこと)にはならない。そういうふうなことでございまして、4月20日にフランスへまいりました。事故がおきたのを聞きながら、その確認しながらフランスへ行ったわけです。

 内橋克人氏のコメント、ここは省略しないで載せよう。

 ところがそのフランスでも、送られてくる日本の新聞に敦賀の一件が写真入りで「毎日、毎朝、いまにも世の中、ひっくり返りそうな」勢いで報じられる。やむなく帰国すると、こんどは大阪空港に30人近い新聞記者が待ち構えていた。

 高木孝一元敦賀市長の講演引用を続けます。

 悪びれた様子もなく敦賀市長帰る。こういうふうにあくる日の新聞でございまして、じつはビックリ。ところが 敦賀の人は何喰わぬ顔をしておる。ここで何がおこったのかなぁ、という顔をしておりますけれど、まあ、しかしながら、魚はやっぱり依然として売れない。あるいは北海道で採れた昆布までが……。敦賀は日本全国の食用の昆布の7割ないし8割を作っておるんです。が、その昆布まで、ですね、敦賀にある昆布なら、いうようなことで、全く売れなくなってしまった。ちょうど4月でございますので、ワカメの最中であったのですが、ワカメも全く売れなかった。まあ、困ったことだ、嬉しいことだちゅう……。

 内橋克人氏のコメント、略。

 売れないのに困ったけれども、まあそれぞれワカメの採取業者とか、あるいは魚屋さんにいたしましても、これはシメタ! とこういうことなんですね。売れなきゃあ、シメタと。これはいいアンバイだ、と。まあとにもかくにも倉庫に入れようと、こういうようなことになりまして、それからがいよいよ原電に対するところの(補償)交渉でございます。

 内橋克人氏のコメント、略。

 そこで私は、まあ、魚屋さんでも、あるいは民宿でも、100円損したと思うものは150円もらいなさいというのが、いわゆる私の趣旨であったんです。100円損して200円ももらうことはならんぞ、と。本当にワカメが売れなくて100円損したんなら、精神的慰謝料50円を含んで、150円もらいなさい、正々堂々ともらいなさいといったんですが、そうしたら出てくるわ出てくるわ、100円損して500円も欲しいという連中がどんどん出てきたわけですよ(会場に大笑い、そしてなんと大拍手!?)。

 内橋克人氏のコメント、略。

 100円損して500円もらおうなんてのは、これはもう認めるもんじゃあない。原電の方は、少々多くても、もう面倒臭いから出して解決しますわ、といいますけれども、それはダメだ、と。正直ものがバカをみるという世の中をつくってはいけないので、100 円損した者には150円出してやってほしいけど、もう面倒くさいから500円あげる、というんでは、到底これは慎んでもらいたい。まあ、こういうことだ、ピシャリとおさまった。いまだに一昨年の事故で大きな損をしたとか、事故がおきて困ったとか、いうひとは、まったくひとりもおりません。まあ、いうなれば、率直にいうなれば、一年に一回ぐらいは、あんなことがあればいいがなあ、そういうふうなのが敦賀の町の現状なんです。笑い話のようですが、もうそんなんでホクホクなんですよ。ワカメなんかも、もう全部、原電が時価で買うてしもうた。全部買いましょうとね。しかし、原電がワカメもっとっても仕様がないから、時期をみて皆さんにお返ししましょうとね。そんなことで、ワカメはタダでもらって、おまけにワカメの代金ももらった。そういうような首尾になったんです。

 内橋克人氏のコメント、略。

原発ができると電源三法交付金がもらえるが)そのほかにもらうおカネはおたがいに詮索せずにおこう。キミんとこはいくらもらったんだ、ボクんとこはこれだけもらったよ、裏金ですね、裏金! まあ原子力発電所がくる、それなら三法のカネは、三法のカネとしてもらうけれども、そのほかにやはり地域の振興に対しての裏金をよこせ、協力金をよこせ、というのが、それぞれの地域であるわけでございます。それをどれだけもらっているか、をいい出すと、これはもう、あそこはこれだけもらった、ここはこれだけだ、ということでエキサイトする。そうなると原子力発電所にしろ、電力会社にしろ、対応しきれんだろうから、これはお互いにもう口外せず、自分は自分なりに、ひとつやっていこうじゃないか、とこういうふうなことでございまして、たとえば敦賀の場合、敦賀2号機のカネが7年間で42億はいってくる。三法のカネが7年間で、それだけはいってくる。それに「もんじゅ」でございますと、出力は低いですが、その危険性……、うん、いやまあ、建設費はかかりますので、建設費と比較検討しますと(入ってくるカネが)60数億円になろうか、と思っておるわけでございますが……。

 内橋克人氏のコメント、略。

 ……で、じつは敦賀に金ケ崎宮というお宮さんがございまして(建ってから)ずい分と年数がたちまして、屋根がボトボト落ちておった。この冬、雪が降ったら、これはもう社殿はもたんわい、と。今年ひとつやってやろうか、と。そう思いまして、まあたいしたカネじゃございませんが、6000万円でしたけれど、もうやっぱり原電、動燃へ、ポッポッと走っていった(会場にドッと笑い)。あっ、わかりました、ということですぐにカネが出ましてね。それに調子づきまして、今度は北陸一の宮、あのう、神宮と名のつくお宮さんは、敦賀気比神宮だけでございます。これもひとつ、6億で修復したいと、市長という立場ではなくて、高木孝一個人が奉賛会長になりまして、6億円の修復をやろうと。今日はここまで(講演に)きましたんで、新年会をひとつ、金沢でやって、明日はまた、富山の北電(北陸電力)へ行きましてね、火力発電所を作らせたる、1億円寄付してくれ(会場にドッと笑い)。これで皆さん、3億円、すでにできた。こんなのつくるの、わけないなあ、こういうふうに思っとる(再び会場に笑い)。
 まあそんなわけで短大は建つわ、高校は出来るわ、50億円で運動公園は出来るわねえ。火葬場はボツボツ私も歳になってきたから、これもいま、あのカネで計画しておる、といったようなことで、そりゃあもうまったくタナボタ式の町づくりができるんじゃなかろうか、と、そういうことで私は皆さんに(原発を)お薦めしたい。これは(私は)信念をもっとる、信念!

 内橋克人氏のコメント、略。

 えー、その代わりに100年たって片輪が生まれてくるやら、50年後に生まれた子どもが全部、片輪になるやら、それはわかりませんよ。わかりませんけど、いまの段階ではおやりになった方がよいのではなかろうか……。こいうふうに思っております。どうもありがとうございました。(会場に大拍手)

 僕の感想は「1980年代の原発に関する考えってこんなものが一般的だったのか」です。一般的かどうかは、反原発の人もいたので一般的でないかも知れない。
 証言内容は、テープが残っていると内橋克人氏が述べ、高木孝一元敦賀市長及びその関係者から否定の証言が出ていないため、僕自身の「あったんだろうな」という推測度はそれなりに高いです。確信あるわけではないけど。

日本の原発、どこで間違えたのか

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『伝統との対決』ほか

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1日5冊紹介(当分)。
 

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ベルリン・フィルハーモニー その歴史秘話 (叢書・20世紀の芸術と文学)

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世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

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