「ETV2001」を巡る報道に関する記者会見要旨(2005年1月19日)

「ETV2001」を巡る報道に関する記者会見要旨(2005年1月19日)(←NHKオンラインより転載)

平成17年1月19日
NHK広報局
<「ETV2001」を巡る報道に関する記者会見要旨>
(1)NHK執行部の説明
(関根放送総局長)「ETV2001」のシリーズ「戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」について、朝日新聞は1月12日付朝刊の紙面で、「中川昭一安倍晋三の両氏が、この番組の放送前日の平成13年1月29日にNHK幹部を呼んで、偏った内容などと指摘し、NHKがその後、番組内容を変えて放送した」という報道をした。これは事実誤認の報道であり、論点を整理して説明したい。
中川氏については、面会は放送3日後の平成13年2月2日が最初で、面会したのは(朝日新聞の記事にある)当時の松尾放送総局長ではなく、当時の伊東番組制作局長だ。
安倍氏とは、放送前日の1月29日頃に面会したが、朝日新聞の記事にある「安倍氏から呼ばれた」というのは間違いで、NHKの平成13年度予算案や事業計画等を説明する際に、当時話題になっていた「女性国際戦犯法廷」を素材の一つにした番組の趣旨や狙いなどを説明した。面会によって「番組の内容が改変された」という事実はない。安倍氏に面会した当時の松尾放送総局長と総合企画室の野島担当局長から話を聞いて確認した。その際、安倍氏は、公平・公正な報道をしてほしいといった主旨の発言をした。放送前日から当日にかけての編集で、番組の放送時間が短くなった点についても誤解されている。
(出田副総局長)平成12年の11月21日に番組の企画提案が番組制作局の部長会で承認され、制作を外部の制作会社に委託した。その後、12月8日から12日まで、番組で扱う「女性国際戦犯法廷」が東京で開催され、委託された制作会社が取材した。その後、制作会社による編集作業が始まり、翌13年の1月19日に、NHKの教養番組部長による1回目の試写が行われ、部長は大幅な手直しを指示した。同月24日に、同じく部長による2回目の試写が行われたが、手直しが足りず、編集作業をNHKが直接担当することになった。26日に放送総局長と番組制作局長などによる、映像が完全につながっていない段階での「粗編(あらへん)」試写が行われた。協議の結果、「女性国際戦犯法廷」に批判的な意見もインタビューして入れることを決め、29日未明に、44分の第一次版の編集VTRが、ようやくできた。その日の夕方に、この第一次版の放送総局長らによる初めての試写が行われ、協議して約1分カットした後、深夜に再度試写をした。放送開始まで24時間を切っていたので「一応これで行こう」という事になったが、今回の番組はデリケートなテーマなので、放送当日の30日も、最後の最後までこれでいいのかどうか検討した結果、裏付けが取れていない証言などを削って更に3分短くして40分とし、放送に、こぎつけた。

(関根総局長)意見が対立するテーマについて放送する場合、放送法第3条の2にあるように、できるだけ多くの角度から論点を明らかにしなくてはならない。NHKは、「女性国際戦犯法廷」を素材の一つとして、「戦時性暴力」や「人道に対する罪」を考える教養番組を放送しようとしたもので、例えば、裏づけが十分に取れていない証言をカットしたり、この「法廷」に批判的な歴史学者の意見を加えたりして、公正・公平を保つように努力した。決して政治的圧力を受けたわけではないし、自己規制もしていない。新聞社でも意見の分かれる記事を掲載する場合、担当の部長や編集局次長、編集局長まで加わって判断することは、むしろ当然のことだ。同じことが、この番組で起きていたと考えていただきたい。
当時の番組の制作を担当したデスクは、決断した上で13日の記者会見を行ったと思うが、伝聞情報に基づく誤解や憶測で発言している面が多分にあると思う。彼は当時のNHK幹部の動きや考えを、直接知ることができる立場にない。放送前日の試写には立ち会ったが、その後行われた検討会には出ていない。彼の主張の拠り所は「信頼すべき上司」だとされているが、当時、一部の団体がNHKに押しかけるなどしていた中で、政治的な圧力がかかったのではないかという噂が、現場のスタッフを中心に広まっていたようだ。この担当デスクの上司にあたる複数の職員から話を聞いたが、このデスクは、噂話や憶測を具体的事実と勘違いしたものと思われる。

(宮下理事)コンプライアンス推進室の調査結果を、本日、通報者に通知した。本来、通報者は厳密に秘匿されなければならず、細心の注意を払ってきたが、通報者が一方的に通報の事実を公にしていることや、通報者が結果の公表を望んでいること、それにコンプライアンス推進室への誤解を解くために、通報した長井職員の名前も公表して、説明する。
長井職員から通報があったのは去年の12月9日。調査は、政治的な圧力を背景としてこの番組の改編が行われた事実があったかどうかや、放送番組は何人からも干渉されないなどと定められた放送法3条や「NHKの倫理・行動憲章」に違反する行為があったかどうかについて行われた。松尾放送総局長と総合企画室の野島担当局長、伊東番組制作局長(いずれも当時)の3人からは当初、今行われている裁判に関わってくるので、ヒアリングは待ってほしいと言われた。この事を今年1月7日に長井職員に通知しようとしたが、連絡が取れなかった。11日にようやく通知できた。松尾元総局長など3人は、朝日新聞の12日付朝刊の記事や、長井職員の記者会見の報道を見て、事実を話したいとヒアリングに応じた。さらに調査を進めた結果、長井職員が主張するような事実はなく、放送法3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する行為も認められなかった。

Q.安倍氏との面会時間について
(宮下理事)当時の松尾総局長と野島担当局長は予算などの説明と合わせ、全体で15分から20分程度面会したようだ。そのうちの何分程度、番組の説明をしたかは、2人とも正確に記憶していない。

Q.放送前に政治家に番組内容を説明することについて
(関根総局長)NHKの予算や事業計画などは国会の承認を受ける。国会は国民の代表である国会議員で構成されており、与野党の国会議員に、どういう事業を進めていくか、きちんと説明する中で、公平中立性を担保していく。誤解があれば、それを解いていく。国会議員に会うことを、「圧力」と短絡的に結びつけられることは残念だ。

Q.長井職員の処分について
(宮下理事)考えていない。公益通報者保護法という法律が成立している。まだ施行されていないが、この法律を尊重して内部通報制度を運用している。この法律では、NHKの通報窓口に通報したことを理由に処分されることはない。また、NHKに通報した後、一定の要件が満たされれば、報道機関に通報しても保護される。法律はまだ施行されておらず、今回のケースが「一定の要件」を満たすかどうかは法律的に議論もあるところだが、NHKは公共放送機関として、できるだけ幅広く解釈すべきだと考えている。

Q会長への報告について
(宮下理事)この件については、放送前に報告は上がっていない。

(2)朝日新聞の取材を受けた松尾放送総局長(当時)の説明
(松尾元総局長)朝日新聞の取材は今月9日に受けた。朝日新聞のきのう(18日)付朝刊の記事に即して説明したい。まず、記事では、安倍氏と中川氏に面会した日が(番組放送前日の)2001年1月29日かという記者の質問に対し、「『そのときです。それ1回きりです』と明確に答えていた」となっているが、私は、「安倍氏とは会ったが、中川氏については記憶が定かでない」と答えた。安倍氏に面会したのは1回きりだと答えた部分を、中川・安倍両氏に会ったようにねじ曲げて記事を作っている。また記事では「まず議員会館に中川氏を訪ね、『途中、どなたかにお会いしてから、自民党本部だったか、ちょっと広い応接室で安倍氏に会った』という」とあるが、私は「どなたかにお会いしてから」という部分は、「中川氏かどうか記憶が定かでない誰かに会ってから」という意味で答えたものなのに、中川氏を訪ねた後に更に別の人物に会った、という書き方に発言がねじ曲げられている。
 また記事では、一貫して「自民党に呼ばれた」との認識を示し、これを「圧力に感じた」と証言したことになっているが、「自民党に呼ばれた」とか「圧力に感じた」という発言はしていない。記者は最初から終わりまで、何度もしつこく「政治的圧力を感じたでしょう」と決めつけるように質問した。そのたびに繰り返し「政治的圧力は感じなかった」と答えたが、記事は全く逆の内容になっており、極めて遺憾だ。
 繰り返し主張した「政治的圧力は感じなかった」「私を含めた制作担当者が、誰からも干渉されず、自主的自立的に編集した」という発言は全く無視されて、記事に書かれていない。朝日新聞の記者は「安倍・中川両氏に会った事や、面談のやり取りは全て取材を終えた」として強引にコメントを求めてきたが、記事を見ると、安倍・中川両氏への取材は私の取材の翌日で、誤った印象を与えて、意図的に答えを引き出そうとしたとしか思えない。朝日新聞には訂正と謝罪を求めたい。

Q.会見に出席した理由について
(松尾元総局長)きのうの朝日新聞の朝刊を見ると、私にしか言えないことが書かれていた。記者に確認したところ、記事中の「NHK幹部」が私を指すことを認めた。それではという事で、きょう、あえて会見で申し上げることにした。

Q.内部告発した長井職員について
(松尾元総局長)噂とか伝聞とか憶測で告発をしたことが、結果的にこういう状態になっており、誠に残念だ。

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