【主張】朝日NHK問題 「頬かむり」は許されない(産経新聞)(2005年7月13日)

【主張】朝日NHK問題 「頬かむり」は許されない産経新聞より転載)

朝日新聞が今年一月、NHK番組が政治家の圧力で改変されたと報じてから半年が過ぎた。朝日はいっこうに説明責任を果たそうとしない。
問題の朝日記事は、慰安婦を扱った四年前の番組をめぐり、放送前に中川昭一安倍晋三両氏がNHK幹部を呼び、「偏った内容だ」と指摘したという内容だった。
これに対し、記事に書かれた中川、安倍両氏とNHK側は、(1)両氏が呼び出したのではなく、NHK幹部の方から会いに行った(2)中川氏とNHK幹部が会ったのは放送前でなく、放送後だった−などと反論した。反論が正しければ、「政治家の圧力で番組が改変された」とする記事の信頼性が根底から覆されることになる。
だが、朝日は、記事の核心部分を否定されたにもかかわらず、「問われているのは、NHKと政治家の距離の問題である」などと論点をそらし、肝心の疑問に答えていない。朝日は「距離の問題」を問う前に、「自らの記事の信頼性」を問うべきである。
また、問題のNHK番組は、慰安婦問題で昭和天皇を弁護人なしに裁いた民間法廷を取り上げた企画だ。この番組が公共放送として妥当なものだったかどうかも問われた。NHKも、番組の再検証を忘れてはならない。
近年、新聞記事やテレビ番組に対する読者や視聴者の目は厳しくなっている。平成六年の松本サリン事件で、各紙は当初、第一通報者の会社員が容疑者であるかのように報じた。後に、オウム真理教の犯行と分かり、各紙は相次ぎ謝罪記事を載せた。
今年五月、フィリピン・ミンダナオ島で旧日本兵が生存しているとする情報を、産経は一面トップで報じた。産経は家族らに負担をかけたことを反省し、六月十二日付で旧日本兵生存情報の経過などについて検証した。NHKの番組「プロジェクトX」で、取材対象の高校から「一部事実誤認がある」と抗議を受け、NHKは「行き過ぎた表現があった」と謝罪した。
一昔前なら、問題の朝日記事も、時の経過とともに、うやむやに終わったかもしれない。今は、頬(ほお)かむりは許されない。日本のジャーナリズムの信頼を取り戻すためにも、朝日は自ら記事の真偽を確かめ、全国の読者と視聴者に納得のいく説明をしてほしい。