コンプライアンス推進室調査結果報告(2005年1月19日)

(報道資料)コンプライアンス推進室調査結果報告(平成17年1月19日)(←NHKオンラインより転載)

(報道資料)
平成17年1月19日
コンプライアンス推進室調査結果報告書
日本放送協会
コンプライアンス推進室

1. 調査対象
  ・ NHKの放送番組「ETV2001」のシリーズ「戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」(以下、「本件番組」)に関して、放送前に中川昭一氏および安倍晋三氏による2度にわたる政治的圧力を背景とした本件番組の改編が行われるという事実があったのか否か。
  ・ また、かかる事実が認められる場合、これが放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか否か。
2. 調査の概要
  ・ 中川昭一氏および安倍晋三氏から本件番組の放送を中止するようにとの強い求めを受けたとされる松尾武放送総局長(当時)および野島直樹担当局長(当時)、この求めに伴い番組内容への変更を制作現場に指示したとされる伊東律子番組制作局長(当時)、番組制作を担当した吉岡民夫教養番組部長(当時)および永田浩三担当チーフプロデューサー(当時)に対してヒアリングを行う方法により行った。
  ・ なお、松尾氏、野島氏、伊東氏の3名は、当室のヒアリングに応じることが現在東京高等裁判所で審理中の裁判に何らかの影響を与えるのではないかという点を懸念し、ヒアリングに応じることを留保していたが、通報者の記者会見および本件に関する各種報道が事実と異なるものであったことなどから事実が明らかにされるべきとの認識に至り、ヒアリングに応じるに至った。
  ・ 上記ヒアリングを中心に、訴訟資料などを基に調査を行った。
3. 調査の結果
  (1) 中川氏からの番組放送中止の求めの有無について
  ・ 松尾氏、野島氏のいずれについても、本件番組の放送に先立って、中川氏と面談等をした事実は認められない。
  ・ 念のため伊東氏についても中川氏と事前に面談等をした事実の有無を確認したが、そうした事実は認められなかった。
  ・ なお、伊東氏、野島氏については、本件番組放送後の2月2日に、中川氏と面談していたという事実が認められた。
  (2) 安倍氏からの番組放送中止の求めの有無について
  ・ 松尾氏、野島氏について、本件番組の放送前である1月29日ころに安倍氏と面談していた事実が認められた。
  ・ 松尾氏、野島氏の面談の目的は、協会の予算および事業計画を説明するためであった。
  ・ この時、松尾氏は、当時本件番組および本件番組で取り上げる予定の「女性国際戦犯法廷」に関し、国会議員の間で様々な議論があることを認識していたので、この機会に安倍氏にも本件番組について説明しておこうと思い、番組の趣旨について概略説明をした。
  ・ この説明に際して、まだ編集途中であった本件番組の内容について、安倍氏は全く認知していなかった。
  ・ 安倍氏は概略の説明を受けた上で「番組は公平・中立であるべきだ」との感想を述べた。
  (3) 放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するのか否かについて
  ・ 中川氏との関係については、放送前に野島氏、松尾氏、伊東氏と面談等を行ったという事実がなく、中川氏との関係では倫理違反等については検討を要しない。
  ・ 安倍氏との関係については、本件番組放送前に野島氏と松尾氏が面談をしていたという事実が認められたが、まず、面談したことそのものについては、国会議員に対して予算及び事業計画を説明するに際して担当局長が役員を同行することは通常行われていることであることを考え合わせると、このこと自体は通常の業務遂行の範囲内であり、これをもって放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。
  ・ 本件番組についてその概略を説明したことについては、事業計画の説明等に付随して今後放送される放送番組についての説明を行うことも通常行われていることを考え合わせると、このことについても業務遂行の範囲内であり、これをもって放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為に該当するとは言えない。
  ・ 安倍氏の発言については、それ自体NHKに対する不当な圧力といった内容とは認められず、安倍氏の発言をもってNHKが不当な政治的圧力を受けたとの根拠とは言えない。
  ・ 更に、念のために最終的に放送された本件番組について見ると、国民の間で様々な議論のあるいわゆる従軍慰安婦問題について、ある特定の立場のみを殊更支持するような内容とはなっておらず、また、女性国際戦犯法廷に対する肯定的評価と否定的評価も公平に扱われている。公平中立性の観点から問題のある番組とは言えず、不当な圧力に基づく改変等が行われたことは伺われない。
4. 当室の結論
  ・ 当室の調査の結果、放送法第3条およびNHK倫理・行動憲章に違反する不法行為は認められない。