映画『椿三十郎』(黒沢明)

いきなり加山雄三が、チョンマゲ姿で若大将の口調で話しているのには驚いた。「さすが○○さんだ」とか。あっ、青大将(田中邦衛)もいるですよ。小林桂樹(クーデター企画派に捕らえられた武士)が話しはじめると、さらにすごいことに。登場人物みんな「○○さん」って言ってるし。武士は「○○殿、××でござる」って言うんじゃないのか(←偏見)。
1962年の映画なんで、劇場公開当時はともかく、今見る人間は「チョンマゲだけどサラリーマン映画」という解釈の呪縛から逃れられないでしょうな。話の眼目はお家騒動だけど、別に今の会社にして、城代家老とか大目付を、副社長とか専務にしても全然通じる話だし。仲代達矢切れ者の社長秘書室長ですか。
『用心棒』『隠し砦の三悪人』『七人の侍』といった大作に比べると小振りな印象が、見る前はあったんですが、下っぱのエキストラとか沢山出て来て、見てみると無駄に豪華です。三船敏郎も無駄に人を叩き殺すし。殺陣は野趣だがめちゃくちゃかっこいい。最後の「血がドバーッ」というリアリズムがこの映画について語られるポイントなんでしょうが、実はそのシーンだけがこの映画の殺陣的には異色で、三十郎、人を数十人、あっという間に斬って、その刀を何事もなかったかのように鞘に納めます。この人なら南京に行って中国軍兵士を100人斬るのなんかも簡単ですね。
俺にとって黒沢映画というのはどうも、様式美に流れすぎる傾向を感じるので、そこに三船敏郎という「破」なキャラクターがいないと、なんか退屈な印象があります。黒沢は三船を「大根」と思ってたらしいんですが、監督と役者の名コンビとして、これ以上の組み合わせは、世界中を見てみても希なんじゃないでしょうか。