テロリストに関する二つの意見

↓[3邦人人質]「卑劣な脅しに屈してはならない」(読売新聞社説・2004年4月8日)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040408ig90.htm


 卑劣な脅しに、絶対に屈することはできない。毅然(きぜん)として対処しなければならない。

 イラクで活動していたフリーライターや民間活動団体(NGO)のメンバーなど三人の日本人が、「サラヤ・ムジャヒディン」と名乗る武装勢力に拉致された。

 拉致グループは、現在、イラク南部サマワを拠点に復興支援活動を続ける自衛隊が三日以内に撤退しなければ三人を殺害する、と脅している。

 身を守るすべを持たない民間人を人質にし、理不尽な要求を突きつける。典型的なテロの手口だ。

 グループはカタールの衛星テレビ局「アル・ジャジーラ」に寄せた手紙で、「米国を支援した」という理由で、日本を非難し、三人の拉致を正当化した。まさに筋違いだ。

 日本は、かつて日航機を乗っ取った日本赤軍による仲間の釈放と巨額の資金要求に屈し、テロの国際的拡散を助長した苦い経験がある。

 その過ちを繰り返してはなるまい。テログループによる自衛隊の撤退要求などに屈するわけにはいかない。

 また政府は、米軍など現地の駐留連合軍などの協力も得て、三人の人質の救出に全力を挙げる必要がある。

 事件は、「アル・ジャジーラ」に届いたビデオテープなどでわかった。テープには、銃を持ち覆面をしたグループに囲まれた三人のほか、パスポートや身分証明書をアップした映像が映し出された。

 フリーライター二人にはそれなりの覚悟はあったのかも知れない。NGO活動家は、自らの信条に基づく活動を続けるためのイラク滞在だったようだ。

 テロリストに、そうした活動を区別する気持ちなどはない。無差別の身柄拘束が改めて、その卑劣さを示した。

 昨年のイラク戦争の直前から、外務省は渡航情報の中で危険度の最も高い「退避勧告」を出していた。三人の行動はテロリストの本質を甘く見た軽率なものではなかったか。

 今回の事態がもたらした状況は、国際社会の中で日本が果たすべき責務としてイラクで繰り広げている復興支援活動を、結果として妨げることになる。

 イラクでは、駐留連合軍とイスラム過激派との激突が拡大し、六月に予定するイラク側への主権移譲に向けた安定、復興の推進が危うくなっている。

 そうした時だからこそ、米欧各国や日本が連携した努力がこれまで以上に重要だ。そのさなかに人質事件が起きた。安定、復興の努力をくじくたくらみは断固、排除せねばならない。

(2004/4/9/02:10 読売新聞 無断転載禁止)

はてなダイアリー・「独善的日常」(2004年4月9日)
http://d.hatena.ne.jp/cyzo/20040409

最近は『テロに屈するな』という勇ましい声がそこかしこで聞かれる。今回の事件を受けた世論や政府がオーバーヒートの末にそうした主張に傾く可能性も十分考えられる。しかし『テロに屈する』事はそんなにいけない事だろうか?私には『テロに屈した』スペイン国民の反応は、人間としてとても自然なものだった様に思える。青くなって、しりごんで、にげて、かくれる事がそんなに悪い事だとはどうしても思えないのである。

ナイーブな奴だと思われるかもしれない。しかし小心で臆病者の私は、自衛隊撤退という選択肢があっても良いのではないか?命はひとつ、人生は一回な訳だし、と思ってしまう。とにかく、勇ましい掛け声を叫び続ける内に、引っ込みが付かなくなって人質に危害が及ぶ、という最悪の事態だけは起きて欲しくない。

77年のダッカ・ハイジャック事件では当時の福田総理(現官房長官の父)は悩み抜いた末『人命は地球より重い』と述べ、『超法規的措置』をとってテロリストの要求に応じた。日本の決断は『テロに屈する』ものとして世界中から非難を浴びた。しかし私はこの『臆病』ぶり、『弱腰』ぶりをこそ支持したい。それはとても『勇気』の要る決断だったと思うからだ。あれから四半世紀を経た今、息子である福田官房長官が正に同じ様な境遇に置かれているというのも考えてみれば因果な話である。

『撤退』という本当の意味で『勇気』ある選択肢を選び取ることができるか、『臆病者』になる『覚悟』を持つことができるか。今回の事件は日本にとって一つの試金石となる筈である。

どっちの意見も、どっちか一つだけ読むともっともに思えるところが何とも。
これに関して俺自身が、もう少しマシな判断をするためには、「77年のダッカ・ハイジャック事件」に関するもう少しくわしい情報が必要のようです。
ウィキペディアの「ダッカ日航機ハイジャック事件」に関する記述
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%83%E3%82%AB%E6%97%A5%E8%88%AA%E6%A9%9F%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E4%BA%8B%E4%BB%B6

しかし、この事件における日本の対応は、欧米の「テロリストや過激派と交渉せず」という姿勢の反対であり、国際的非難を受け、「日本はテロまで輸出するのか。」と言われた。日本はこの事件を受け、ハイジャックに対応する特殊部隊としてSATを設置した。
この記述の「国際的非難」とは、どのメディアがどのように論評したか、みたいなことです。しかし、「乗員14名、乗客137名」の人質がみんな殺されてしまったら、内閣総辞職せざるを得ないですか。人質の人数およびその性質の問題(無垢な一般人か、危険を承知で行った左寄りの人か)、それに当時と今の政治的状況の違い(野党が社会党で、それなりに元気だった時代と、今のような「なんちゃって野党」の時代)もあるので、過去の例はあまり参考にはならないと思います。