『虫たちの化学戦略 盗む・欺く・殺す』

lovelovedog2004-11-20

『虫たちの化学戦略 盗む・欺く・殺す』(ウイリアムアゴスタ、青土社)(→bk1)(→amazon)(→書籍データ

昆虫を中心に、海の生物や微生物など、生活や生存においてフェロモンその他の化学物質に依拠する部分が多い生物は、人間の目に触れない世界でどのようなことをやっているか、というセンス・オブ・ワンダーに満ちあふれた書。ファーブルの昆虫記あたりでそういう「虫たちの世界」に関する知識が止まっていながらも、そういうものに興味がある人には絶対おすすめな本でありました。

1980年代以降の、商業的な分野でのその手の化学物質の利用というのはこれはもう、驚くばかりに進んでたりしているわけで、たとえば熱いところでもへいちゃら、な細菌の持っている酵素とかを使って、DNA鑑定という犯罪法医学分野の技術が容易になったとか(正確にはそのための「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」という実験ですが)。医学・薬学を中心に、農業関係(特に防虫)とか様々な分野にその生き物たちの特殊能力は使われているのです、みたいな有益情報とは別に、生き物たちの単純な、ある種謎の生物行動にも驚かされます。

たとえばある種のチョウ(マクリネア・レベリ)は幼虫が孵化して蛹になるまで、ある種のアリ(ミルミカ属)に面倒を見てもらいます。そのために、そのチョウの幼虫は特殊なフェロモンを出して、養育係のアリをごまかします。ところが、その幼虫専門に卵をうみつける、ある種の寄生バチ(イクネウモン・エウメルス)というものもいて、それはフェロモンにだまされず、的確に獲物を探し出します。このチョウの生態系も特殊ながら、それに依拠しているハチの存在もものすごく特殊なんですが、それでも生存(種の繁殖)に必要なだけのアリとか、チョウの幼虫を獲ることができるというのがとても不思議です。

この調子で紹介していくとなにしろこの本、1ページに一つぐらいはそういった謎の生態系について語っているので、いくらテキストの容量があっても足りません。残念なことは、文章よりももっとヴィジュアル(絵とか画像・図版など)で見たいようなものが多いところで、日経サイエンス社あたりで、大判のカラーイラストとか多用したヴァージョンでも出してくれないかな、と思いました。一般人が科学というか、科学を中心にした驚異を考えてみるにはとてもいい本だと思います。