「ブッシュ大統領就任演説」から、メディアリテラシーを考えてみる。

ブッシュ大統領は、本当は何と言ったのか、という話です。

mixiのコミュニティ、「戦争反対!」に掲載した、俺のテキストから転載してみる。あー、mixiに興味あって、参加してみたい、というかたがいましたら、遠慮しないで俺までメールください(lovelovedog@nifty.ne.jp)。

メディアリテラシー(情報の読み書き能力)というのは、いくらでも難しいことは言えるんですが、単純に言っちゃうと可能な限りオリジナル(元ソース)に当たれってことになるんじゃないかと思ってます。もちろん、いろいろな事情で「新聞・雑誌の伝える情報」「友人の伝える情報」というような伝聞情報しか手に入らない場合もありますが、わかりやすい例として、たとえばあなたの友人が「○○くん(別のもう一人の友人)って××って言ってたらしいよ。ひどい奴だね」と言ったとしたらどうするか、みたいなことを考えてみます。

俺の場合は、「本当に××と言ったのか」という事実を、○○くんに確認してみます。すると、その時の状況や、正確には何て言ったのか、みたいなことや、ひどい場合には「そんなことは言っていなかった」ということすら確認できるかもしれません。もちろん、確認過程で○○くんが嘘を言っている、という可能性は生まれるかもしれないし、場合によってはその発言のウラを取る必要も出てくるかもしれませんが、まぁたいていの「伝聞情報」は、それを伝える人間の主観が入るのは当然のこと(しかたのないこと)です。しかし、これが新聞とかテレビのようなメディアが、ある人物や組織に関して「主観をもった二次情報」を提供することを、しばしばやったりするので、メディア・リテラシーを意識している人間は、ときどき「本当は何て言ったのか」の確認が必要になります。

前置きとしては長くなりましたが、今回の『ブッシュ大統領就任演説』は、当然のことながらホワイトハウスの公式サイトに全文が掲載されています。アメリカに住んでいなくても、あるいはテレビで全部を見なくても(日本のテレビで全部が放映されたとは思えませんが)、ブッシュ大統領がその席でどのようなことを言ったのか、については以下のとおり確認ができます。

ホワイトハウスの公式サイト
ブッシュ大統領の大統領就任演説

要するに、彼の言動を問題にするには「要旨」じゃなくて原文読まないと本当はまずいんじゃないか、少なくとも、それについて何かを語ろうと考える人間は、原文がどこにあるかを示さないとまずいんじゃないか、ってことです。全文の翻訳は、多分「在日米国大使館http://japan.usembassy.gov/tj-main.html)」に掲載されると思うんですが(前回の就任式演説は掲載されています→http://japan.usembassy.gov/j/amc/tamcj-084.html)、俺が見た段階では未確認でした。

で、まぁ語られている内容は英語的にはそんなに難しくないような気がするんですが、「要旨」と微妙に違う点として、ひとつだけ挙げてみます。ええと、英語、というか翻訳の勉強として、以下のサイトにも就任演説の全文が載っているのでこれなどを参考にして(実は俺は英語がそんなにスラスラ読めるわけではありません)。

ブッシュ大統領就任演説原文!

↓読売新聞の「要旨」で、以下の部分ですが、
ブッシュ大統領就任演説要旨(読売新聞)

一、我々は自国と友好国を守るため、必要ならば武力を行使する。

産経新聞に掲載された「要旨」では、その部分はこんな感じ。
米大統領2期目 就任演説「世界の専制政治を終わらせる」

われわれは必要なら自らと友好国を守るため武力の行使も辞さない。

産経新聞のほうには、もう一つの「要旨」がありますが、それは共同通信提供によるものなので、多分こちらは全国の地方紙に配信されていると思います。
「圧政国家」へ圧力強化 第2期ブッシュ政権

一、必要な時には、武力によって自らと友人を守る。米国は自分たちの統治の方式を押しつけることはしない。

↓ついでなので、毎日新聞
ブッシュ米大統領:2期目就任演説(要旨)

これは主として軍の仕事ではないが、必要な時には我々と友人を軍の力で守る。

↓原文ではこんな感じです。
President Sworn-In to Second Term

This is not primarily the task of arms, though we will defend ourselves and our friends by force of arms when necessary.

↑(太字は引用者=俺)
↓で、多分原文に忠実と思われる翻訳では、こんな感じになってます。
ブッシュ大統領就任演説原文!

武力がこれを解決する第一の手段ではありません。しかし、必要であれば、武力を使って自分たち、そして友人たちを守ります。

↑(太字は引用者=俺)
This is not primarily the task of armsという部分を省略して紹介しちゃまずいだろ、という感じです。ちなみに「これ」というのは、原文をご覧になればお分かりのとおり、「the ultimate goal of ending tyranny in our world(世界の圧政に終止符を打つ、という究極の目標」です。

そういう意味で、ぎごちない翻訳だとは思いますが、毎日新聞が比較的正確かな、と。

ということで、読売新聞の、

一、我々は自国と友好国を守るため、必要ならば武力を行使する。

というのは、正確に伝えてられない「ブッシュ大統領が言ったこと」で、これをもとに「ブッシュ大統領ってひどい奴だよね〜」とか言われても、俺としては納得できない部分がありますし(別にブッシュ大統領は俺の友人でも何でもありませんが)、それをさらに歪めて

1、そのために逆らうやつは武力行使する。

みたいなテキストにしてしまうのは、どうかなぁ、と思います。

俺の、ブッシュ大統領の就任演説に関する感想は、「なんかカッコつけてるなぁ」って感じでした。もちろん、どんな感想を言うのも個人の言論・表現の自由の範囲内なわけですが、伝聞情報(要旨)だけをもとに「なんかワルそうな感じ」「ヒトラーだよね」って言う前に、もう少ししなければならないことがあるだろ、ということです。つまり要するに、「元ソース(オリジナル)に当たれるようにする(リンクを貼る)」ということですね。新聞の記事ではなく、あくまでも公開されている元ソース、が原則です。

そういう意味で、影響力の大きい各新聞社のサイトに、「要旨」と「それに関する意見」しか載っていない(オリジナルに当たれるようにしている新聞社は一つもない)という状況は、メディア・リテラシー的にピンチというか、報道機関としての役割を果たしていないのでは、と思いました。これに関して言及すると、また違う話になってしまいますが。