噂の一人歩きと「尿から劣化ウランが出た」という話でよくわからないことについて

横山きっこさんの、(俺にとっては)既知の外なエントリーが大爆発しているみたいなので、困ったなぁ、という感じ。

論談:目安箱 自衛隊員に起きた悲劇
M BBS 7093・サマワで被爆した自衛隊員たち
Bra-net:サマワで被爆した自衛隊員たち、から
にぶろぐ:ジャーナリズムの役割
俺は音楽家!:自衛隊員がサマワで被爆。
 
まぁ、パニックな人は、ここらへんでもあちこち見ておちつけ、と。

はてなダイアリー - 「劣化ウラン弾」を含む日記

金田一輝のWaby-Saby:[時事]劣化ウラン弾

ネット俳句作者として有名な方で、以前から名前は知っておりましたが、俳句の世界に少々足を突っ込んでいる人間として恥ずかしいかぎりです。
非核三原則を無視した劣化ウラン弾」という事実認識の誤認(劣化ウラン弾核兵器)はまあいいとしても、完全に陰謀論に脳内が支配されているのをいかんせん。本当に劣化ウラン弾による放射能被害が深刻ならば、そのことでイラク派遣について非難されるのは必至なのだから、事実を隠蔽(なんでカタカナで書いているのかね?)もへったくれもないじゃん。

天漢日乗:[Iraq][Japan][health][politics]イラクから帰国した自衛隊員の健康に関する噂
You Know You’re Right -Football blog-:横山きっこさん

劣化ウラン弾の危険性は何となくゲーム脳と一緒で話だけ先走りしていて事実とかけ離れていると思うんですが劣化ウラン弾に粘着している人の様で危険性を訴えています。

日本は自由な言論の国なので、ネットで意見を言うことは、政府批判も政府擁護もいいことだと思います(どちらか一方だけになったら目も当てられない)が、前にも「ひめゆり部隊に関する青学高等部の入試問題」に関するエントリーで述べたように(http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050615#p1)正確な情報は、可能な限りなるべく得るようにしてから発信するようにしましょう。インターネットやブログは「噂の増幅システム」ではありません。情報の入手・流布に関しては、「噂」レベルのものではない正確な情報を入手し、その情報を非マスコミ的(非センセーショナル)な方法で不特定多数に流すことによって、より文化的な生活を営むための道具です。逆に言うと、インターネットで噂を増幅させて流す人は、俺基準では非文化的な生活を望んでいる人のように思えてしまいます。
政府が何かを隠していたり、都合のいいことだけを公開している、ということはあるかもしれませんが、反政府的な組織・団体が本当の情報を流しているということもないわけで。
 
たとえば「尿から劣化ウランが」というネタだと、以下のことぐらいはネットで少しあちこち見ていけば、それなりの判断力のある人間なら調べて判断する材料が得られるはずです。
 
1・「イラクに行った兵士(あるいは、取材した人間、あるいは現地の人間)」の尿から劣化ウランが検出された、と言っているのは世界でただ一人(ただ一箇所)、ドラコビッチ博士の「UMRC」という研究所だけ。おまけにどういうやりかたをしているのか皆目不明。誰かその研究所のやりかたをご存じのかたは教えてください。また、そこ以外の研究所で、尿から劣化ウランが検出された記録が、ちゃんとあるとするなら、そのデータに関する情報つきで教えてください。現状では、湾岸戦争で何か不明の原因で体の不調を訴えている人に、「UMRC」という組織が「ガンに効く奇跡の水」(ただし成分は不明だし、他のどのメーカーも売っていないもの)を売っているようにしか、俺には見えないのです。
2・たとえば、イラクの人の尿を調べた金沢大学の「金沢大学低レベル放射能実験施設」では、尿から出たウランが劣化ウランである、という結論は出せなかったし、その量に関してもイラクの人とそうでない人との有意の差は得られなかった様子(→放射能兵器=劣化ウラン弾廃絶のために)。
3・「通常の数十倍」という数字の「通常」というのがそもそも非常にレンジ(許容幅)が広いです。
たとえば以下のところでは、以下のようなことを言っていますが、
放射能兵器=劣化ウラン弾廃絶のために

ヒロシマが持ち帰り検査された、イラク白血病及びリンパ悪性腫瘍の子どもの24時間分の尿サンプルの一部の分析結果であるが、尿1リットル当たりのU238の濃度は、急性リンパ性白血病の子どもの251.0ナノグラムを最高に196ナノグラム、195ナノグラム、149ナノグラム、127ナノグラムと尿18例の分析のうち100ナノグラム以上の濃度で含有する症例が5例あり、日本人平均の13倍から25倍、平均で72.6ナノグラムというかなり高い数値を示しています。

すみません、この「日本人平均」の数値がどこから出てきているかは俺には調べられませんでした。どなたかご存じのかたは教えてください。
それに対し、たとえば以下のところでは、以下のようなことを言っています。
劣化ウランFAQ集 - 国際原子力機関

水中のウランの大部分は岩石や土壌から溶け出したウランに由来している;空気から沈殿したウラン塵に由来するものは非常に僅かである。飲料水中の U-238 および U-234 の放射能濃度は 10分の数 mBq 毎リットルから数百 mBq 毎リットルの間であるが、フィンランドでは 150 Bq 毎リットルという高い放射能濃度が計測されたことがある(UNSCEAR 2000)。U-235 の放射能濃度は一般的に 20 倍以上低い。

すべての人は毎日、少量の天然ウランを経口摂取し吸引している。一般公衆が 1 日に経口摂取するウランは 1.3 μg(1 μg = 1 マイクログラム = 0.000001g)(0.033 Bq)、すなわち年摂取量は 11.6 Bq と見積もられている(UNSCEAR 2000)。

1マイクログラムというのは、1ナノグラムの1000倍です。
まず、イラクの水(飲料水)や通常の食物に含まれるウランの量がどれくらいであるのか、そこらへんあたりから調べてみるといいのではないかと思いました。また調べてみて「日本の○十倍のウランが。アメリカ軍のせいだ」などと思ってはいけません。ウランと劣化ウランの違いを、その含有されるウランの比率からちゃんと確認することが必要でしょう。
 
しかし、中国新聞の記者による、このテキストにはちょっと驚きました、というかあきれました。
知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態

不発弾がどれだけ埋まっているのか。イラクでもユーゴスラビアでも、検討がつかないのが現実だ。劣化ウランU238)の半減期は四十五億年。微量とはいえ、大地にばらまかれたU238は永遠に放射線を放出し続ける。

U238は劣化ウランではありません。
ウランには「U238」と「U235」があって、「U235」を抽出したため、それの含有率が少なくなっているウランが「劣化ウラン」です(少なくなっているとはいえ「U235」も入っています。
また、当たり前のことですが、四十五億年もかかって放射線を放出するようなものが半減期が四十五億年もあるようなものが人体に与える放射線の影響は、宇宙線や土壌に含まれる放射性物質のことを考えると、まるっきり考慮する必要はありません。