朝日新聞社への抗議文(2005年1月14日)

朝日新聞社への抗議文(2005年1月14日)(←NHKオンラインより転載)

NHKが4年前に放送した番組をめぐり、朝日新聞が1月12日に掲載した記事は、事実誤認に基づいており、NHKの信用が著しく傷つけられたとして、NHKは1月14日、朝日新聞社に文書で抗議し謝罪と訂正記事の掲載を求めました。
抗議文は次のとおりです。
平成17年1月14日
朝日新聞社 
代表取締役社長 箱島 信一 様
NHK放送総局長
関根 昭義

 NHKが、平成13年1月30日に放送した「ETV2001〜シリーズ戦争をどう裁くか〜第2回 問われる戦時性暴力」について、この番組を担当した職員への取材に基づき貴紙が報じた記事は、あたかもNHKが政治的な介入を受けて番組を変更したかのごとく事実を歪曲しており、NHKの番組制作の原則である公正・中立性に関して甚だしく誤解を招き、NHKの信用を著しく傷つける内容になっています。ここに、厳重に抗議するとともに、謝罪と釈明を、そして訂正記事の掲載を求めます。
 今年1月12日付の貴紙朝刊は、当時、この番組が放送される直前の経緯について、「29日午後、当時の松尾武・放送総局長(現NHK出版社長)、国会対策担当の野島直樹・担当局長(現理事)らNHK幹部が、中川、安倍両氏に呼ばれ、議員会館などでそれぞれ面会した。」と記載しています。

 しかし、実際には、NHKの松尾は中川氏とは一度も面会しておらず、野島が中川氏に面会したのも、番組が放送された3日後の2月2日が最初で、29日に中川氏に面会した事実はありません。また、2月2日にNHKの幹部が中川氏に面会したのは、NHKの事業計画について事前に説明するためで、NHK側から出向いたものです。その中で、この番組の趣旨やねらいを説明しました。記事には「中川氏はやりとりの中で、『それができないならやめてしまえ』などと放送中止を求める発言もした」とありますが、上記の事情からして、事前に放送中止を求めることができるわけもなく、明らかな事実誤認です。
安倍氏については、1月29日頃に松尾と野島が面会しましたが、これも安倍氏に呼ばれたものではなく、同様に予算説明のため、本人に面会を求め実現したものです。

 また、記事には、「放送2日前の1月28日夜には44分の番組が完成」し、「松尾、野島両氏も参加して『異例の局長試写』が行なわれた」そして、「番組は40分の短縮版が放送された」とあります。しかし、1月28日の段階では番組は制作の途中でまだ完成しておらず、その後、試写や編集をして放送しました。この番組のように議論の分かれる問題を扱う場合には、しばしば行なわれることで、決して「異例な試写」というわけではありません。編集作業の過程の中で最終的に放送時間が40分になったものです。

 また、紙面では、見出しや記事中に「番組改変」という言葉が使われていますが、放送に向けて何度も試行錯誤を重ねて編集をするのは通常行なわれていることであって、内容や構成に手を加えながら放送の直前まで検討を続けていくことは、まさに通常の「編集」であり、「改変」ではありません。こうして放送した番組の内容は、平成16年3月24日の東京地方裁判所の判決でも「番組が取り上げた女性法廷は、フェミニズムの問題を含む公平性や中立性や多角的立場からの番組編集が必要とされるものであったから、NHKは、編集過程を経て番組を完成させ放送したものであり、放送事業者に保障された放送番組編集自由の範囲内のものであると認められる」と認定されています。

 さらに、記事では「番組改変指示は、中川、安倍両議員の意向を受けたものだった」とありますが、これまで述べたように、両氏とNHK関係者との面会の時期や内容、さらに番組に至るまでの編集の過程からしても、この番組が中川、安倍両氏の意向を受けて編集し直したものではないのは明らかです。したがって、見出しにあるような、「中川昭一・現経産相安倍晋三・現自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼んで『偏った内容だ』などと指摘していたことが分かった。NHKはその後、番組内容を変えて放送していた。」という記述は、事実関係の重要な誤りです。

 このように、貴紙の記事は、あたかもNHKが政治的な介入を受けて番組を変更したかのごとく、事実を歪曲しています、ここに、厳重に抗議し、謝罪と釈明、そして訂正記事の掲載を強く求めます。


以上