NHK番組改変問題2―取材の総括

NHK番組改変問題2―取材の総括朝日新聞2005年07月25日06時01分)

1月12日付記事のきっかけとなったのは、「政治家の圧力で番組が改変された」というNHKの担当デスクの内部告発でした。告発内容を政治家や番組関係者らに確認し、NHKの内部文書など他の取材結果と照らし合わせ、一致する範囲で記事としました。
特に記事の支えとなったのが、直接の当事者である中川昭一安倍晋三衆院議員と、NHKの放送総局長だった松尾武氏の取材結果です。政治家とNHKの最高幹部という責任ある立場にあった人の発言であり、その内容が大筋で相互に一致したことから「信じるに足る」と判断しました。
ところがその後、松尾氏が発言の一部を翻すなど、3人は記事内容を否定しました。このため、本紙はもう一度、当時の政治家の動きと番組づくりの過程を調べ直すことにしました。
その追加取材の結果は、この特集で詳細にお示しした通りです。最も重要な点は、安倍氏ら政治家と会ってきたばかりの国会担当局長が、番組の修正を細部にわたって指揮していたことです。その修正内容は、番組を問題視していた政治家たちの主張に重なるものでした。
当時、予算承認権を握る国会議員の言動に、NHKは神経質になっていました。NHKが予算説明の際に、予算と関係のない番組について説明をしたのは、番組に関する自民党内の不快感がさまざまなルートで伝わったためであることも分かりました。
松尾氏は今年1月の取材に、政治家の発言を「圧力」と受け止め、それから番組を守ろうとした、と述べています。今回の取材でも、国会対策の幹部による修正指示を、番組制作スタッフの多くが「政治介入」と受け止めていたことが確認できました。
NHK側はあくまで自主的な修正だったとしていますが、今回の再取材で、記事の描いた「政治家の圧力による番組改変」という構図がより明確になったと考えます。
一方、記事中の(1)中川氏が放送前日にNHK幹部に会った(2)中川、安倍両氏がNHK幹部を呼んだ、という部分に疑問が寄せられていました。
1月の取材で、記者たちはこの2点を含む内部告発の内容を説明し、3人とも大筋で認めるか、あるいはそれを前提に質問に答えています。しかし、記事掲載後、いずれも否定しました。本紙はその都度、その旨を報じてきました。
当初の3人の証言は、相互に矛盾がなく、具体的・迫真的な表現が随所にあり、重い、と今でも考えています。したがって現時点では記事を訂正する必要はないと判断します。
しかし、当事者が否定に転じたいま、記事が示した事実のうち、(1)(2)については、これらを直接裏付ける新たな文書や証言は得られておらず、真相がどうだったのか、十分に迫り切れていません。この点は率直に認め、教訓としたいと思います。
私たちは、番組への賛否の視点で、この問題を扱ってきたのではありません。問うたのは、特定の政治家の影響で番組を改変することの是非であり、ひいては「公共放送と政治との距離」でした。今後も、この問題を考えていく姿勢は変わりません。(東京社会部長・横井正彦)