[NHK特番問題]「説得力に乏しい朝日の『検証』」(読売新聞・社説7月26日付)

[NHK特番問題]「説得力に乏しい朝日の『検証』」(読売新聞・社説7月26日付)

NHKの特集番組が政治家の圧力で改変された、と朝日新聞が報じ、NHK側が「歪曲(わいきょく)記事だ」と抗議していた問題で、朝日が検証記事を掲載した。
朝刊の2ページを割き、「検証 番組改変の経緯」「取材・報道への指摘について」などの特集記事を組んでいる。NHK、総務省自民党議員ら150人以上に取材をして、「番組をめぐって何があったのかを改めて調べ」たという。
記事を読む限り、朝日報道の真実性を補完するような新事実は、ほとんど示されなかった、と言うしかない。1月の報道から半年。時間がかかった割には、期待はずれである。
ニュース報道としての問題の本質は、朝日報道の事実関係が真実か否か、にあった。番組の放送前日、当時の安倍晋三官房副長官中川昭一・現経産相がNHK幹部を呼び出し、「偏った内容だ」などと圧力をかけた結果、番組が改変された、という内容だ。
「検証 番組改変の経緯」では、「女性国際戦犯法廷」を取り上げた特番をめぐる政治家の動き、NHK幹部や番組担当者らの対応を時系列で追っている。
匿名の「総務省幹部」らの新証言は登場するが、安倍、中川両氏の直接の「圧力」を裏付ける新たな事実はない。
この記事を受けて、朝日の社会部長は「幹部による修正指示を、番組制作スタッフの多くが『政治介入』と受け止めていたことが確認できた」「『政治家の圧力による番組改変』という構図がより明確になった」と“総括”している。
その上で「問うたのは(中略)『公共放送と政治との距離』。今後も(中略)姿勢は変わりません」と結んでいる。
朝日は、安倍氏らに報道を全面否定された直後から、「事の本質はNHKと政治との距離」と、論点をそらすような主張を繰り返してきた。社会部長の結語も、その延長線上の“自己完結”としか受け取れない。
「取材・報道への指摘について」の記事の中でも、「呼び出し」や「中川氏の放送前日の面会」を裏付ける新たな情報やデータは得られなかったと、朝日自身が認めている。
にもかかわらず、報道の前後に、安倍氏らが取材に語った内容が「相互に矛盾がない」などとして、記事の訂正の必要性を否定した。
「検証記事と言いながら、当初の思い込みから抜け出ていない。全く理解できない」。NHKの反発もうなずける。
「第三者機関」による、朝日の検証記事の再検証が必要ではないか。
(2005年7月26日1時29分 読売新聞)