社説:朝日VSNHK メディアには謙虚さが必要だ(毎日新聞)

社説:朝日VSNHK メディアには謙虚さが必要だ毎日新聞

旧日本軍の従軍慰安婦を扱ったNHK特集番組の改変問題を今年1月報じた朝日新聞が25日の朝刊で、取材過程などを検証する記事を掲載した。この問題は朝日新聞とNHK、介入したとされる自民党安倍晋三自民党幹事長代理らが激しく対立し、国民の大きな関心事となっていた。ところが、半年以上経過して掲載された記事は拍子抜けするほど新事実に乏しく、国民が知りたかった点に真正面から応えているといえない内容である。
改変問題について、毎日新聞は当初から、本質は「政治に弱いNHKの体質」にあると指摘してきた。朝日新聞も「公共放送と政治の距離」を問いたかったという。
確かに、改変問題は、その典型例となり得るケースだった。しかし、「政治介入を許した」というNHK番組担当者の内部告発情報をいち早く入手したことで、かえって「始めに結論ありき」の取材となって、詰めが甘くなったきらいがあるように思える。
圧力があったかどうかは、元々水掛け論になりやすい。その点、朝日新聞が当初報じたように、政治家側がNHK幹部を「呼んだ」かどうかは核心の一つだった。だが、検証ではそれは明確にならなかった。掲載された取材のやり取りを読む限り、記者は「政治家側が呼びつけた」という内部告発を前提に質問しており、その場で事実確認の詰めをしていない。
朝日側は「教訓としたい」と認めているが、なぜ当初、詰めなかったのか、「相手も否定しなかったから」というだけでは丁寧さを欠く。一方で、「多くの番組スタッフが『政治介入』と受け止めていたことが確認できた」点をもって、「政治家の圧力による番組改変という構図がより明確になった」と結論づけるのも、我田引水と言われても仕方なかろう。
関係者の取材の際、テープに録音していたかどうかも注目を集めていたが、あるともないとも一切言及していない。また、今回の問題が激しい朝日批判につながったのは、批判者の多くが「朝日新聞の取材記者は、特番で扱った女性国際戦犯法廷を支持しており、番組に介入したとされる安倍幹事長代理らの歴史認識自体も批判したかった」と見ているからだ。こうした疑問にも検証では何ら応えていない。
朝日新聞は、財界人など第三者機関の委員会を作り、社内報告をもとに「評価や意見」を求めるという。だが、国民が期待しているのは、評価や意見ではなく、テープの有無など社内で把握している事実だ。この際、朝日新聞は早急に記者会見を開き、社外からの疑問に応える時期だ。
一方、NHKは検証記事に「到底理解できない」と反論している。こちらも反論する時は威勢がいいが、「政治との関係」が変わったとは聞かない。間違いだと思えば素直に改める。メディアは、もう少し批判に対して謙虚でありたい。自戒も込めて、そう考える。当然、朝日、NHKとも、これで幕引きとはいかない。
毎日新聞 2005年7月26日 1時37分