悪書追放運動について

1954年2月21日

“軍国”復活に著効
近藤日出造
 
「トホッつよすぎる」「いのちあってのいもだね、わしゃにげるよ」「フワフワこしがぬけた」「ゴニョゴニョ」「イテテテ」「フンニャフンニャ」「なんてまがいいんでしょ」
 右は、豪傑後藤又兵衛と題する漫画本の中の、登場人物の口から出た言葉の抜粋である。
 痛快熱血時代絵物語、剣豪近藤勇なる付録をつけて大々的に発売されている「少年少女冒険王」という絵本の目次には、砂漠の魔王、平原王、と王が並び、大平原の秘密、テラトンの秘境、と、秘の字が二つ、息をころした物思わせぶりだ。そして、各小説絵物語のうたい文句が、西部熱血であり西部怪奇であり、痛快読物であり、時代痛快であり、怪奇探検であり時代怪奇であり…。
 こう並べれば何もいうことはない、民主主義も平和主義も科学する心もlクソ食らえといったたくましさで、教養の政治活動制限なぞというたわけた事を考えている暇があったら、かかる赤本漫画本の制限をこそたくらむのが教育のための本道だと思うのだが、かかる俗悪低級本を伸張させることこそ侵略的軍国的旧日本を復活させる屈強な手段、ともし御当局が意図されているのなら、たしかにその効果は期して待つべきものがあろう。
 きちんとして読む学校の教科書よりは、寝転んで読める絵本をずっと好む、という子供の本領を知ると、内容的に、文学的に、絵画的に、寒気を覚えざるを得ないこうした絵本類のはんらんを憤るのであるが、子供の本能、興味を忘れた、物語性とリアリティのまったく乏しい童話や童画が、これこそ本格でござい、芸術でござい、気品でございとばかり、あほうな文学青年のようにボーッとしている現状では、やむを得ない、とあきらめるのである。