NHK番組改変問題 「会長了承していた」と告発者会見(朝日新聞)(2005年1月13日)

NHK番組改変問題 「会長了承していた」と告発者会見(朝日新聞)(2005年1月13日)(←朝日.comより転載)
※これは、以下のテキストで言及されているため、元記事を転載。
長井氏の会見に関する「朝日新聞」記事中の事実誤認について(2005年1月14日)(DOCUMENTARY JAPAN)

 NHK番組の放送前に、自民党の有力政治家がNHK幹部と面談し、番組内容がその後、大幅に改変された問題で、内部告発をしていたNHKの幹部職員が13日午前、東京都内のホテルで記者会見した。内部告発者が実名を明かして会見するのはきわめて異例。この幹部は「放送現場への政治介入を許した海老沢勝二会長らの責任は重大。退陣すべきだ」と訴えた。

 会見をしたのは、番組制作局教育番組センターのチーフ・プロデューサー長井暁さん(42)。問題の番組は、旧日本軍慰安婦問題の責任者を裁く市民団体開催の民衆法廷を取り上げたもの。01年1月30日に放送され、長井さんは同番組の担当デスクだった。

 長井さんによると、番組を企画した下請け会社の視点が主催団体に近かったため、「戦争を裁くことの難しさ」や歴史的な位置づけ、客観性を強調して現場を取りまとめてきたという。事前に右翼団体などから「放送中止」の要請はあったが、放送2日前の夜には通常の編集作業を終え、番組はほぼ完成していた。

 長井さんによると、01年1月下旬、中川昭一・現経産相らが当時のNHKの国会担当の担当局長らを呼び、番組の放送中止を求めた。NHKの予算審議前だったこともあり、担当局長は放送前日の午後、NHK放送総局長を伴って再度、中川氏や安倍晋三・現自民党幹事長代理を訪ね、番組について説明。放送総局長は「番組内容を変更するので、放送させてほしい」と述べた。

 同日夜、ほぼ完成した番組をNHK局内で局長らが試写。その後、長井さんらに対し、番組内容の変更が指示された。

 さらに翌日には、元慰安婦の証言部分など3分間のカットが指示され、通常44分の番組は40分という異例の形で放送されたという。

 番組改変の指示について、長井さんは「これまでの現場の議論とはまったく違う内容。現場の意向を無視していた。政治家の圧力を背景にしたものだったことは間違いない」と述べた。

 また、長井さんは「海老沢会長はすべて了承していた。信頼すべき上司によると、担当局長が逐一、海老沢会長に報告していた。会長あてに作成された報告書も存在している」と説明した。その上で、「制作現場への政治介入を許した海老沢会長や役員、幹部の責任は重大です」と訴えた。

 長井さんは、NHKの「コンプライアンス(法令順守)通報制度」に基づき、昨年12月9日に内部告発した。だが「通報から1カ月以上たった今日にいたっても、聞き取り調査さえなされていない」と話した。

 長井さんは87年に入局。ディレクターやデスクとして、NHKスペシャル「朝鮮戦争」「毛沢東とその時代」「街道をゆく」などを手がけてきた。

 中川経産相と安倍幹事長代理は「偏った内容だ。公正な番組にするように」などと指摘したことは認めているが、安倍氏は「NHK側を呼びつけた事実はない。番組の中止などは求めていない」としている。

 また、NHK広報局は海老沢会長が了承していたとの指摘について「そうした事実はない」とコメントした。

 〈NHK広報局の話〉 当時の担当者が様々な国会議員に対して、事業内容などを説明した際に、この番組について話題になったことは事実。しかし、これによって、番組の公正さ・公平さが損なわれたということはない。編集責任者が自主的な判断に基づいて編集して放送した。コンプライアンス推進室は通常の手続きに従って調査をしている。調査の途中経過については通報者に知らせている。

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 「私もサラリーマン。家族を路頭に迷わすわけにはいかない。告発するかどうか、この4年間悩んできた。しかし、やはり真実を述べる義務があると決断するに至りました」。そう言って長井さんは涙声になり、言葉を詰まらせ、ハンカチで目をぬぐった。

 「告発による不利益はないか」と尋ねられ、「不利益はあるでしょう」と答えてからだった。

 現場のスタッフ全員が反対したという、放送直前の3分間の番組カット。その中には中国人元慰安婦の証言も含まれていた。「被害者の声だけは何とか守りたかった。最後まで闘えなかったことを反省している」。そう言って長井さんは、再び目を赤くし、唇をかんだ。

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 〈NHKのコンプライアンス(法令順守)通報制度〉 放送法などの法令やNHK倫理・行動憲章などの内部規範に違反または違反しそうな事実があるとき、職員らが通報できるようNHKが04年9月から整備した内部告発制度。一連の不祥事を受けて整備された。通報窓口は外部の法律事務所に置かれている。通報があるとNHKの専門部署がその内容を調査し、必要な場合には不正行為の停止を命じることができる。職員は調査に協力する義務を負い、通報者に不利益な取り扱いは行わないとの規定がある。


(01/13 14:27)