産経新聞社説・【主張】番組「改変」問題 朝日には立証責任がある(2005年1月21日)

産経新聞社説・【主張】番組「改変」問題 朝日には立証責任がある(2005年1月21日)(←Sankei Webより転載)

 慰安婦問題を扱ったNHKの番組が政治介入によって改変されたと朝日新聞が報じた問題で、同紙の取材を受けたNHKの元放送総局長が「発言をねじまげられた」と記者会見で朝日を批判した。これに朝日が再反論し、メディア同士の論争になっているが、立証責任は最初にこの問題を報じた朝日新聞にあるといえる。

 発端となった朝日の十二日付記事は「中川昭一・現経産相安倍晋三・現自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼んで『偏った内容だ』などと指摘していたことが分かった。NHKはその後、番組内容を変えて放送していた」などと報じた。

 これに対し、NHKは、中川氏と会ったのは放送三日後で、安倍氏とは放送前日に会ったが呼ばれたのではない、と朝日報道を否定した。面会日の食い違いはともかく、問題はNHK幹部が安倍氏らに呼ばれて説明に行ったかどうかだ。「政治的圧力」の有無を判断するうえで、一つの重要な材料になり得る。

 これについて、朝日は十八日付朝刊の取材経過を含めた検証記事で、取材相手のNHK幹部の実名を伏せ、「この幹部は一貫して『自民党に呼ばれた』との認識を示し、これを『圧力と感じた』と証言した」と書いた。しかし、これだけの材料では、安倍氏らがNHK幹部を呼んで圧力をかけたとする証明にはなっていない。

 しかも、NHK元総局長は朝日のいう幹部は自分だとし、「『圧力を感じた』とは言っていない」と朝日の検証記事も否定した。朝日は記事の信憑(しんぴょう)性を裏付けるためのもっと説得力のある材料を示す必要があろう。

 朝日新聞社会部長は検証記事で、NHKが取り上げた民衆法廷女性国際戦犯法廷)やNHK番組そのものへの批判について、「今回の報道とはまったく別次元の問題だ」としている。

 この法廷は昭和天皇はじめ死者を弁護人なしで一方的に裁いた一種の人民裁判である。それをNHK教育番組で放送した是非は、この問題の本質にかかわることである。決して別次元の問題ではない。

 今回の問題は、メディア全体の信頼性を失墜しかねない問題をはらんでいる。朝日の適切な対応が問われる。