NHK裁判 海老沢NHK会長宛公開質問状(2005年1月21日)

NHK裁判 海老沢NHK会長宛公開質問状(←VAWW-NETジャパンより転載)

公開質問状(2005年1月21日)
日本放送協会会長 海老沢勝二

公開質問状


先週来、NHKETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二夜、「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放映)の番組内容を巡る政治家の介入が問題になっております。当事者である安倍晋三自民党幹事長代理は、番組放送前の1月29日にNHK側の複数の人物と会っていることを認め、「公平・公正な番組にしてくださいとお願いしただけ」と話していますが、この件に関しては数々の疑問が浮上しております。


一方、1月18日付け毎日新聞朝日新聞は、自民党議員連盟日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が「放送前に議連幹部の多くがNHK幹部に面会を求められ、番組について説明を受けた」という古屋会長談話を報じました。これは、放送前に複数の政治家にNHKが番組内容を説明し、政治家の「意見」を聞いていたことを指し示しています。


これまでNHKは関根放送総局長の「見解」や、当時放送総局長であった松尾武氏の「コメント」を発表し、政治家の圧力否定を続けていますが、これらは異常な改変について何ら説明するものではありません。


いうまでもなくNHKは国民の受信料で成り立っている公共放送であり、数々の疑惑を明らかにし、国民の疑問に答えることはNHKの責務です。私たちは、NHKが勇気と決断を持って国民の前に全ての真実を明らかにすることを強く願い、以下、公開質問状という形をもって質問いたします。


安倍氏との面会について>


1、1月29日に安倍氏と会うアポをとったのは誰か? また、誰に対して、どのような用件(予算関係のことだけか?)を理由としてアポを入れたのか? 


2、この日、安倍氏に会ったのは誰か? 政治家とNHK側双方の名前を正確、明確に。


3、この日の面会場所はどこだったのか? また、何時から何時まで会ったのか?


4、安倍氏はNHKが「説明に来た」と話しているが、なぜ、放送前に、しかも放送日の前日という直前に、番組の内容について「説明」しなければならなかったのか?


5、安倍氏NHKの「説明」に対し、「公正・公平な番組にしてくださいとお願いした」と話しているが、これは、安倍氏が番組内容の説明を聞いて公正・公平ではないと思ったから意見を伝えたということになる。安倍氏は、29日の時点で、秦郁彦氏のインタビューが入ったことなどを知っているが、それら安倍氏の発言からして、この日のNHKの「説明」とは、様々に「編集」した結果、こういう番組になったと「報告」したものと受け取れるが、事実はどうか?


6、また、NHKの「説明」に対して、安倍氏ら政治家から他にどのような意見を言われたのか?


7、安倍氏は中学歴史教科書の「慰安婦」に関する記述を問題だと考える「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(代表:中川昭一氏)の元事務局長をつとめ、「慰安婦」問題に対し否定的立場にあり、また2001年1月当時に官房副長官という要職にあった。その安倍氏に放送前に面会し特定の番組に関して「説明」すること自体、放送法に反し、「公平・公正」「不偏不党」に反するとは考えないのか?


8、以上の一連の行為は、放送法に触れるものだとは考えないのか?


<「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」所属の国会議員との面会について>
9、番組放送前にNHKは「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の「多くの幹部」に面会し、番組の内容を説明したということは事実か? そうであればそれがいつで、どのようにアポをとり、どこで面会したのか? また、面会をした理由は何か? さらに面会したNHK側と政治家は誰であったか、どのような話をしたのか?


10、29日の事実関係を見ても、29日以前にも政治家とコンタクトがあり、番組内容について政治家からクレームがついていたことは明らかである。29日以前に、いつ、誰から、どのような「意見」がNHKに伝えられたのか?


11、放送前に、「慰安婦」問題に否定的な立場を明確にしている国会議員・政府要人に「面会」を求め、わざわざ番組内容について「説明」すること自体、政治家との癒着であり、不正常な関係だと考えないか?

<政治圧力について>
12、以上のような政治家の発言に対してNHKは「圧力ではない」と言っているが、こうした行為が放送法に触れるものとは考えないか?


13、NHKがいう「公平・公正」「不偏不党」とは何か?


14、朝日新聞の報道(1月18日朝刊)によると、28日に44分の番組ができていたが、安倍氏に会った29日に判決のナレーションカットなどが行われ、30日に1分カットの43分バージョンが完成。ところが、放送当日の30日夕方、更に3分カットが制作現場に「業務命令」として伝えられ、結局、本来44分で放送されるべき番組が40分番組として放送されたとある。このような「編集」が通常の編集作業を逸脱するものであることは、NHK関係者も述べているところであるが、この間の経緯について、前述の経過に誤りがあるか? あるとしたら、それはどこで、事実はどうであったのか?


15、この間の経緯などについては、総合企画室が海老沢会長宛てに出した「報告書」が存在しているというが、改ざんされない報告書を国民の前に明らかにするべきではないか。


16、長井氏の記者会見の後、NHKは関根放送総局長名で「通常の編集を行った」と言い、政治家の介入はなかったと圧力を否定するコメントを出したが、これを断定するために、どのような調査を行ったのか? 


17、このようにNHK安倍氏、報道サイド、内部告発者、それぞれの立場から異なる「事実」が語られている以上、外部の第3者機関による真相究明の調査が必要と思われる。こうした調査を受け入れる気持ちはないのか? 


18、これだけ社会的に大きな問題になっていてもなお、海老沢勝二氏が会長を辞任しないのはなぜか?


NHKが真の改革を進めるためには、これまでの政治家との不正常な関係を正し、本来の公共放送としてあるべき姿を、NHKが取り戻すことです。そのためには、政治家の反応ばかり気にしていた姿勢を改めて視聴者、国民に真に向き合い、今回の事件にまつわる全ての疑惑に対して、事実を隠蔽することなく、権力に臆せず勇気と決断を持って全ての真実を語らねばなりません。これ以上、国民、視聴者の信頼を損ねる行為を続けていくとしたら、それは自ら、憲法が保障する「表現の自由」「報道の自由」を放棄することであり、ジャーナリズムの自殺行為です。
以上の質問に対して、1月25日までに回答いただきますよう、強く求めます。

2005年1月21日
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
VAWW-NETジャパン)