読売新聞社説・NHK番組問題「疑惑が残れば公共放送の危機」(2005年1月23日)

NHK番組問題「疑惑が残れば公共放送の危機」(2005年1月23日)(←YOMIURI ON-LINEより転載)

1 月23日付・読売社説(2)


 [NHK番組問題]「疑惑が残れば公共放送の危機」

 「女性国際戦犯法廷」を取り上げたNHKの番組は、はたして政治家の圧力によって改変されたのか否か。

 この問題は、NHKの朝日新聞に対する十八項目の公開質問状の発表、朝日新聞の「法的措置」も辞さないとしたNHKへの通告書送付という展開になった。

 事実関係については、問題の核心部分で「言った」「言わない」という“水掛け論”の様相を呈している。

 たとえば、朝日新聞の取材を受けた当時のNHK放送総局長は「『圧力と感じた』とは語っていない」と記者会見で述べているのに対し、朝日新聞が「発言内容を翻したことは誠に遺憾」としている点などである。

 日本のジャーナリズムの在り方にもかかわる問題だ。両者の論争が、事実関係の解明につながるよう望みたい。

 事実関係の解明が中途半端な形に終われば、とりわけNHKにとって深刻な事態となりかねない。

 NHKを始めとするラジオ・テレビ局は、放送法で中立・公正であることを義務づけられている。事実関係が曖昧(あいまい)なままに終わっては、視聴者の間に中立・公正であるべきNHKの報道機能に根本的な疑念を残すことになる。

 事実関係の解明に際し、問題の焦点を拡散させてはならない。ことの本質は、発端となった朝日新聞の一月十二日の報道内容が「事実」かどうかである。

 当時の安倍官房副長官の方からNHKを呼んだのか、あるいは、中川現経済産業相が当時、番組放送前にNHKに圧力をかけたのか。仮に「圧力」があったとしても、それによって番組内容が変わったのか……などの、最初に報道された内容の真偽である。

 事実関係の確定を抜きに、一般論としてNHKと政治家の「距離」が、ことの本質だ、とする論調もあるが、論理のすり替え・争点ずらしのように見える。

 NHKによると、番組の改変作業自体は、朝日新聞が安倍、中川両氏の政治的圧力があったとする日時の、ずっと以前から始まっている。

 担当の部長が編集試写を見て、「取材対象との距離が近すぎる」と改変を指示したという。昭和天皇を「強姦などの罪で有罪」とするような「法廷」の内容をそのまま番組にしたのでは、上司が改変を指示するのは、当たり前だろう。

 NHKは、職員の金銭不祥事で受信料不払い件数が増大し、海老沢会長が近く辞任する、と伝えられるような危機的状況にある。これに、報道機能に対する不信を重ねてはならない。

(2005/1/23/01:39 読売新聞 無断転載禁止)