江藤議員発言への公開質問状

↓以下のところから転載
http://www1.jca.apc.org/aml/200307/35007.html


2003年7月15日

自由民主党総裁 小泉 純一郎様
衆議院議員 江藤 隆美様

移住労働者と連帯する全国ネットワーク
共同代表 大津恵子 丹羽雅雄 村山敏 
もりきかずみ 由井滋 渡辺英俊
東京都文京区小石川2-17-41 TCC2−203
Tel 03-5802-6033 Fax 03-5802-6034

公開質問状

 2003年7月13日付けの各新聞で、貴党に所属しておられる衆議院議員江藤隆美議員が、7月12日に福井市内で開かれた党支部定期大会で講演し、「朝鮮半島に事が起こって船で何千何万人と押し寄せる。国内には不法滞在者など、泥棒や人殺しやらしているやつらが100万人いる。内部で騒乱を起こす」(毎日新聞)。「新宿の歌舞伎町見てみなさい。第三国人が支配する無法地帯。最近は中国やら韓国やらその他の国々の不法滞在者が群れをなして強盗をやってる」(毎日新聞)、「南京大虐殺の犠牲者が30万人などというのはでっちあげのうそっぱち」(朝日新聞)、「教科書問題でも中国大使にいんちき言うなと。犠牲者30万人などというのはでっちあげのうそっぱち。違うと私が説明してやる」(毎日新聞)、「両国が調印して国連が無条件で承認したものが、90年たったらどうして植民地支配になるのか誰も説明できない」(朝日新聞)、「無宗教の記念塔のような妙なものが建てられれば、われわれ遺族は靖国神社にもう参れなくなる。日本人が日本人を手厚く祭ることに何が文句あるのか」(朝日新聞)などの発言をしたと一斉に報道されまぁ頃靴拭(引用者注:文字バケは元テキストのまま)

 私たちは、外国籍市民等を支援するNGO、労組、キリスト教団体、当事者組織、個人で形成する全国ネットワークです。私たちは在留資格の有無に関わらず同じ人間として、これまで、外国籍市民の人権の擁護を行ってきました。その立場から下記の質問を自由民主党および江藤隆美議員にいたします。つきましては、文書にて1週間以内(7月23日まで)にご回答をいただけるようお願い申し上げます。


―記―

1.上記のような発言があったのは事実であるのか、明らかにされたい。

2.事実であるとしたら、具体的にはどのような発言であったのか、発言録もしくは発言の要旨がわかる資料を提供していただきたい。

3.「国内には不法滞在者など、泥棒や人殺しやらしているやつらが100万人いる。内部で騒乱を起こす」とのことであるが、100万人とは、どのような根拠に基づく数字なのか明らかにされたい。

4.「教科書問題でも中国大使にいんちき言うなと。犠牲者30万人などというのはでっちあげのうそっぱち。違うと私が説明してやる」とのことであるが、実際に中国大使に申し入れに行かれるご予定があるのかどうかを伺いたい。

5.「両国が調印して国連が無条件で承認したものが、90年たったらどうして植民地支配になるのか誰も説明できない」とのことであるが、当時、国際連盟はまだ設立前(1920年設立)であると思われるので、当然として誰も説明できないと考えるが、再度、発言の主旨を説明されたい。

6.2000年4月に石原慎太郎東京都知事がいわゆる「三国人発言」をし、大きな社会問題となったことをご存知であるか伺いたい。

7.上記の石原発言を受けて、国連人種差別撤廃委員会から「委員会は、高官による差別的発言及び、特に、本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念を持って留意する。締約国に対し、将来かかる事態を防止するために適切な措置をとり、また本条約第7条に従い、人種差別につながる偏見と戦うとの観点から、特に公務員、法執行官、及び行政官に対し、適切な訓練を施すよう要求する。」との勧告を日本政府が受けていることをご存知か伺いたい。

以上

うわぁ。
1&2については、報道したマスコミにたいしてするような質問じゃないかとは思いますが。
↓この「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」のサイトは以下のところです
http://www.jca.apc.org/migrant-net/
しかしまだこの「公開質問状」は公開していないようです(2003年7月18日午前現在)。
俺が興味を持ったのは6&7の、「いわゆる「三国人発言」」が世界にどう伝えられてるか、でしょうか。「三国人」がそもそも「差別語」で、石原発言が文脈的に「(高官による)差別的発言」をしたのかどうか、に関しては、それを差別的発言とするには無理がある、というふうに、一部の饒舌な人たちを除いては結論が出ているような気もしてたんですが。まぁ、「支那」とか「中共」とか「三国人」とか、昔のお年寄りが使っていたような言葉を、石原慎太郎は差別的・挑発的な意図はまったくなく、自分が若いときに使っていた感覚で口にしがちな人だとは思いますが。そして、俺もそこらへんもう少し考えてもらえると、「言葉の一部」ではなく「発言内容」に関する異論・反論といった意見交換もスムーズに行くと思うんですが。
「国連人種差別撤廃委員会」の件に関しては、NGOとか市民団体が掲載しているサイトもあるんですが、公式なものとして、外務省のサイトより引用してみます。「高官による差別的発言」に関する「見解」と「回答」は以下の通り。
↓人種差別の撤廃に関する委員会 第58会期人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解(仮訳)はこちら
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/saishu.html
これの「13」が、「公開質問状」の「7」と文面はまったく同じなので、引用ははぶきます。
で、外務省はちゃんとこれに公式回答をしています。回答はこちら。
↓人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/iken.html

8:
パラ13の「委員会は、高官による差別的発言及び、特に本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念をもって留意する。」に関し、

(1) 第4条柱書は、締約国が非難すべき対象を、ある人種の優越性等の思想若しくは理論に基づく宣伝等又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てる宣伝等に限定していることからも明らかなように、同条は、人種差別の助長等の意図を有する行為を対象として締約国に一定の措置を講ずる義務を課しており、そのような意図を有していない行為は、同条の対象とはならないと考えている。

(2) かかる解釈をとっている国は我が国のみではなく、例えば英国の1986年の公共秩序法第18条第5項には、「人種的憎悪を扇動する意志があったことが証明されなかった者は、その言葉、行動、筆記物が脅迫的、虐待的、侮辱的であるとの意識がなくかつそれに気づかなかった場合には、本条の下の犯罪として有罪にはならない。」と規定している。

(3) また、「人種主義とメディア」に関する共同声明(意見と表現の自由に関する国連特別報告者、メディアの自由に関するOSCE(欧州安保協力機構)代表及び表現の自由に関するOAS米州機構)特別報告者による共同声明)の中でも、差別的な発言に関する法律は、「何人も、差別、敵意ないし暴力を扇動する意図をもって行ったことが証明されなければ、差別的発言(hate speech)のために罰するべきではない。」とされている。

9:
パラ13の「公務員、法執行官、及び行政官に対し適切な訓練を施すよう要求する。」について、

 従来より国家公務員に対して各種研修においても人権に関する科目をカリキュラムに積極的に取り入れ、その中で人権諸条約及び人権尊重を謳っている我が国憲法の理念を徹底して教育している。
 警察官については、新たに採用された警察官や昇任した警察官に対して各級警察学校で行う研修において、人権の基本法である憲法又は職務倫理、社会等の授業の中で、人権の尊重や人権関係諸条約等人権の擁護に関する授業を行っている。
 また、警察業務が人権に深く関わりを持つ職務であることから、職場における研修等あらゆる機会をとらえ、人権関係諸条約及び憲法の趣旨を踏まえ、人権に配慮した職務執行が行われるよう教育を行っている。
 裁判官についても、検察官及び弁護士とともに、司法研修所において修習を受けた後、法曹資格を取得するが、修習中の講義において、国際人権規約や外国人の人権に関する諸問題が取り上げられている。また、裁判官に任官した後も、司法研修所での各種研究会において、国際人権規約等人権問題に関するカリキュラムが設けられている。
 このように我が国では、公務員や法執行官及び行政官に対し、人種差別撤廃を含む人権教育を行っており、今後とも更に右教育の充実に努めていく所存である。

なかなかちゃんとした回答のような気がします。
「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」の公開質問状・7に関しては、江藤氏は「それに対しては政府の公式回答が出ていることを知っているか。知っているのなら何も私自身としては言うことがない」というだけでいいのかもしれません。
「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」のほうも、別に江藤氏の発言のどこかに「ある人種の優越性等の思想若しくは理論に基づく宣伝等又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てる宣伝」のようなものがある、と具体的に箇所を挙げて非難しているようでもないみたいですし。江藤氏が「○○人は泥棒や人殺しばかりの劣等民族」とかいったりしてたら、そりゃ問題かもしれないですが。
なお、ここで語られている「条約」とは「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(通常「人種差別撤廃条約」)のことらしいです。
↓条約の全文は、以下のところから読むことができます(英文・日本文とも)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/
↓そのなかから「第四条」だけを引用してみます

第4条

 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

↓また、「Q&A」の、以下の部分も参考になるかもしれません
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/top.html

Q6 日本はこの条約の締結に当たって第4条(a)及び(b)に留保を付してますが、その理由はなぜですか。

A6 第4条(a)及び(b)は、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づけるものです。
 これらは、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広い概念ですので、そのすべてを刑罰法規をもって規制することについては、憲法の保障する集会、結社、表現の自由等を不当に制約することにならないか、文明評論、政治評論等の正当な言論を不当に萎縮させることにならないか、また、これらの概念を刑罰法規の構成要件として用いることについては、刑罰の対象となる行為とそうでないものとの境界がはっきりせず、罪刑法定主義に反することにならないかなどについて極めて慎重に検討する必要があります。我が国では、現行法上、名誉毀損や侮諮J等具体的な法益侵害又はその侵害の危険性のある行為は、処罰の対象になっていますが、この条約第4条の定める処罰立法義務を不足なく履行することは以上の諸点等に照らし、憲法上の問題を生じるおそれがあります。このため、我が国としては憲法と抵触しない限度において、第4条の義務を履行する旨留保を付することにしたものです。
 なお、この規定に関しては、1996年6月現在、日本のほか、米国及びスイスが留保を付しており、英国、フランス等が解釈宣言を行っています。

(c)についてはなにもいってませんが。
ところで、ついでなので「人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解」に関して、英文を掲載しているサイトもあったので、そこから問題の箇所のみを転載します(本当は公式サイトを確認したいんだけど、時間がない)
↓Concluding Observations of the Committee on the Elimination of Racial Discrimination:Japan
http://www.imadr.org/geneva/cerd.2001.japan.html

13. The Committee notes with concern statements of discriminatory character made by high-level public officials and, in particular, the lack of administrative or legal action taken by the authorities as a consequence in violation of article 4 (c) of the Convention and the interpretation that such acts can be punishable only if there is an intention to incite and promote racial discrimination. The State party is urged to take appropriate measures to prevent such incidents in the future and to provide appropriate training of, in particular, public officials, law enforcement officers and administrators with a view to combat prejudices which lead to racial discrimination, in compliance with article 7 of the Convention.
「notes with concern」は「懸念を持って留意する」と訳すのが通常のようですが、ニュアンス的には「ここが気になるので記録(メモ)しておく」ぐらいの感じみたいな気もします。要するに、勧告とか要求レベルのものでは全然ありません。