いくつかの疑問点に回答をいただく・その1

過去の俺のテキストで、疑問を持ったテキストを公開しているお二人のかたにメールをさしあげまして、その回答と掲載許諾をいただきましたので転載します。
まず、国会の「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法特別委員会」で「参考人意見陳述書」を出されました、藤田祐幸様です。
↓俺の日記の言及テキストは、以下のところにあります
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20040106#p1
↓俺が出しましたメールの本文は、以下の通りです


はじめまして、私は劣化ウランに興味を持っている人間です。

藤田祐幸様が、国会での「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法特別委員会・参考人意見陳述書」でおこないました陳述に関しまして、少しお伺いしたいことがありましてメールを差し上げました次第です。ご多忙のところ申し訳ありません。お伺いしたいことは2つあります。

1・
陳述書の内容は、以下のサイトで拝見できるようですが、

http://www.jca.apc.org/DUCJ/siryo/sanko-fujita030701.html

この中で藤田様は、以下のようにおっしゃっておられます。

 私たちは、バクダッド市内のマンスール(Mansur)地区、および郊外のラシッド(Rashid)イラク軍基地において、バンカーバスター攻撃によると思われるクレーターの調査も行ないました。クレーターは直径20メートル程度、深さ7〜8メートルほどの大きさで、その底部からは0.1マイクロシーベルトほどの放射線を検知しました。これは環境放射線の1.5倍程度のもので、有意の差であると認識しています。

この、「0.1マイクロシーベルト」というのは、「毎時」の意だと思いますが、以下のサイトでは、「わが国に住む人たちが 1 年間に受ける線量は,ざっと 1 ミリシーベルト(mSv)である.」と書かれております。(1ページ目)

http://www.nv-med.com/jsrt/pdf/20005610/04.pdf

これは、「毎時」に換算しますと、0.114マイクロシーベルトほどになると思うのですが、クレーターの調査時において、調査結果を「有意の差である」と認識した根拠は何でしょうか?

2・
同じく、陳述書の中の記述ですが、

子供たちの悪性腫瘍のうち、その約半分が白血病で、リンパ腫、神経芽細胞腫、幼児性腎腫瘍などが続いております。また、早産、死産も多く、その中には数多くの先天的機能不全、いわゆる奇形児が多く見られます。これは、広島・長崎・チェルノブイリの経験から推測される事態と一致しております。

チェルノブイリにおける子供たちの悪性腫瘍のメインは、「ガン」としては「甲状腺ガン」が多く、またガンよりもそれ以外の疾患が多いようですが、

http://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/JHT/JHT9502.html

イラクの子供たちの、それらの症状に関しますデータは何かありますでしょうか。また、「奇形児」に関しましても、「広島・長崎・チェルノブイリの経験」とは異なったデータが見られるように思えますが、「広島・長崎・チェルノブイリの経験から推測される事態と一致」している、という具体的なデータの根拠はありますでしょうか。

念のため、一応私は、怪しい右翼や反左翼の人ではありませんし、反・反劣化ウラン弾の人でもありません(ないつもりです)。劣化ウラン弾に対する私の私的な考えは、日記の以下のところに明言してあります。

http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20040108#p2

実名を公にすることで若干の被害を受けたため、ハンドル(愛・蔵太)で失礼しますが、私の携帯の電話番号(はてなダイアリーでは公開してないので略)は公開しております。

ご多忙のところ、大変申し訳ありません。

↓これに対しまして、いただきましたメールは、以下の通りです

藤田です

お尋ねの件について簡潔にお答えいたします。

これは、「毎時」に換算しますと、0.114マイクロシーベルトほどになると思うのですが、クレーターの調査時において、調査結果を「有意の差である」と認識した根拠は何でしょうか?

自然放射線強度はそれぞれの地域で異なります。バクダッドにおけるバックグランドは市内で米軍による爆撃の影響が少ないと見られる公園(ZAWRA PARK)の草むらで測定しました。その結果、この地域の自然放射線強度は0.0641μSiであることを確認しました。バンカーバスターのクレーター底部では0.105前後の数値が得られ、1.5倍以上あることから有意の差があると判断しました。

イラクの子供たちの、それらの症状に関しますデータは何かありますでしょうか。また> 、「奇形児」に関しましても、「広島・長崎・チェルノブイリの経験」とは異なったデータが見られるように思えますが、「広島・長崎・チェルノブイリの経験から推測される事態と一致」している、という具体的なデータの根拠はありますでしょうか。

バスラ州の15歳以下のこどもたちの悪性腫瘍発生に関するデータは、時系列・地域別に明らかにされており、私はそのデータを元に発言しております。
被曝による発ガンについては、広島・長崎のデータに見るように、5年ほどで白血病が増加し、10年前後でその他のがんが増え始めます。チェルノブイリでは放出された放射性ヨウ素による小児甲状腺がんが予想を超えて発生しました。イラクではアルファ線による内部被曝という特殊な事情があります。それぞれ被曝の形態により影響の特徴は異なります。しかし、私のこれまでの広島・長崎・チェルノブイリなどの調査の経験から、イラクで出会った子供たちの情況、これまでバスラ州で先天的障害で亡くなった子供たちのカルテ、などを見れば、全体像としては、被曝影響であることを否定する根拠は見当たりませんでした。

確認できたところで納得したのは、「バグダッドの自然放射線強度」をちゃんと実測しているところと(国会の証言でもこの件に触れていたら、俺の余計な質問は少なくなったような気がします)、「バスラ州で先天的障害で亡くなった子供たちのカルテ」を確認しているところでした。また、結語の「全体像としては、被曝影響であることを否定する根拠は見当たりませんでした」という部分も、いかにも科学者らしい、言葉づかいに対する慎重さが感じられて好感を持ちました。
ただ、私感ではありますが、劣化ウラン弾が明らかに使われたとされている場所では、もっと高い数値が出てたりしているみたいなので、1.5倍を「有意の差」と言えるかどうかには疑問は残ります(が、バグダッドの自然放射線強度よりは高い数値だ、ということは分かりました)。
また、イラクの子供の状況に関しては、子供たちのカルテの実物を見ないと俺には何とも言えないんですが、それを見て理解するには、医学的知識に加えて英語・ドイツ語ではなく、現地の言葉に対する読み能力が必要でしょうから、カルテを見る機会があったとしても、それの分析は俺の手を越えています。「バスラ州の15歳以下のこどもたちの悪性腫瘍発生に関するデータは、時系列・地域別に明らかにされており」という部分には、フセイン政権下でどの程度正確な情報公開がなされたのか、という疑問があることも、一応添付しておきます。やはり戦争終結後、イデオロギー的な縛りのない状況での、放射線の専門家による実証的な調査研究結果を期待したいと思います(それも多分数年以内には実現できそうな気がします)。