「the dose」って何よ

↓さて、昨日見つけた「Use of Radioactive Materials as a Military Weapon」ですが
http://www.mindfully.org/Nucs/Groves-Memo-Manhattan30oct43.htm
俺が気になったのは、邦文で次のように書かれていたテキストなどでした。


そこには、「ウランの吸引によって,数時間から数日のうちに気管支に炎症が発生する」と報告されていました.
(引用元:劣化ウラン弾:その人体への影響 http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/du.htm。他にもあったみたいです)
↓そこに該当する原文は、以下の通りです

While only fragmentary information is available, it is felt that the injury would be manifest as bronchial irritation coming on in from a few hours to a few days, depending on the dose.
この「the dose」というのは、辞書的意味としては「線量(放射線量)」でしょうか。要するに、放射性物質として使うなら、断片的な情報だけど、こんなのもあるです、という報告メモですか。
全文をご覧になればお分かりのとおり、「Use of Radioactive Materials as a Military Weapon」というのは要するに、核兵器の開発中に、核爆弾ができなかったとしても(1943年当時なら、核爆弾に至る道はまだとても長いものだったでしょう)、「放射性物質の利用法としては、こんなのもあるよ」という、それも「ガス兵器の一変種」的な利用を軍事関係者に示唆した科学者の参考メモです。そして、そのテキストの中には「uranium」「uran」という単語は一つも出てきていません。出ているのは「radioactive material(放射性物質)」という語だけです。まぁ、当時の技術で、ウラニウム以外の放射性物質が、ガス兵器的に使われるようなノウハウがあったとは思えませんが…。今だったら、プルトニウムを筆頭に、相手にダメージを与えるための「放射性物質兵器」はいくらでも考えられそうな気がします(自軍もダメージをくらいすぎるでしょうが)。
さて、原文は次のように続きます。

It would not be immediately incapacitating except with doses in the neighborhood of 400 or more r [roentgens] per day.
この部分を訳してしまうと、「劣化ウラン弾は第二次大戦中に考えられたものである」というようなことを主張しているかたがたの主張(たとえば、昨日紹介しました弁護士の伊藤和子さんは、このメモを「劣化ウラン弾の原型となった「放射能兵器」」に関するものだ、と言ってます)が、根本部分から崩れるような気がするんですが…。ここでは「1日あたり400レントゲンもしくはそれ以上の放射線量でないと、速攻のダメージは与えられないかも」って書かれてます。要するに、「速攻のダメージ」を与えるための、放射性物質の使いかたですね(そのあたりからすでに「劣化ウラン弾」の使用目的とは異なります)。で、それは「400レントゲン以上」が一基準。「レントゲン」という単位そのものが、x線およびγ線の線量をはかるための基準で、劣化ウラン弾についてメインに語られるα線については何も言っていないみたいです。
要するに、劣化ウラン弾というのは、放射性物質の兵器的利用としては、発生する放射線が微弱すぎて、その目的で使われる兵器ではない、ということのように思われます(人体に影響がない放射線とは思えませんが、その影響力は不明です)。
左寄りの人が劣化ウラン弾の元になったと言っている(ように俺には思える)「Use of Radioactive Materials as a Military Weapon」は、読めば読むほどその根拠を否定するだけのテキストのように思えます。劣化ウラン弾はあくまでも、その比重と入手の安易さのために使われるようになった兵器で、その放射性物質としての特性のために使われるようになった兵器ではありません。