「世界」って、岩波書店の「世界」でした

劣化ウラン弾に言及しています俺の日記については、以下のところにリンクがまとめてあります
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20021001
俺のダイアリーの上部にある「検索」窓で「劣化ウラン」と入力しても、関係テキストを読むことができます。


↓以下のテキストの補足
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20040127#p1
以前に日記で言及した「世界」というのは、岩波書店の「世界」で、問題のテキストは2003年10月号、「劣化ウラン弾は明らかに大量破壊兵器です」(ローレン・モレ×藤田祐幸、通訳・きくちゆみ)でした。
しかしこれ、「記事・論文」というには、元テキストに当たれるような「注釈」が明記・添付されておらず、単なる「読み物」といった印象で、どうにもこうにも。司馬遼太郎の「物語」に注釈というか元ネタの明記を求める人は多分多くはないでしょうが、似たようなテキストでもそれが歴史の学術書(ノンフィクション)だったりした場合は、「どこの誰による史料・資料を利用してそのテキストは書かれたのか」というのは、当然情報として読み手が要求するでしょう。モレさんの話は、「○○と言われています」という、ソースが示されていない情報提供の面では興味深いものも多かったんですが、「劣化ウラン弾放射能兵器」的な、軍事知識にいささか欠ける発言が多く(そうでない場合は、読み手に具体的な「兵器」のイメージを喚起しにくいような書きかたで)、こういう人の発言をソースにして、「Use of Radioactive Materials as a Military Weapon」(第二次大戦中に書かれたメモ)が「劣化ウラン劣化ウラン弾の祖である」的なことを言っている人がいたら、少し問題があるんじゃないかと思いました。
たとえば、


湾岸戦争に従軍したアメリカ兵約70万人のうち、23万人が一生後遺症の残る障害によって、軍の障害保険を申請しています。
とあるんですが、湾岸戦争に従軍したアメリカ兵は、州兵・予備役10万3622人を含む約54万人(陸軍31万人、海兵隊9万人、空軍5万人、海軍8万人)ということに、公式にはなっています。多国籍軍の合計は、他の37か国24万人をあわせて、全78万人。数千人程度の差はありますが、いろいろな資料を読み比べる限りではだいたいこんなものでした(とりあえず、河津幸英『軍事解説・湾岸戦争イラク戦争アリアドネ企画)。劣化ウラン弾の影響を受けた可能性がもっとも大きいと思われる地上部隊は28か国14個師団(米軍9個師団)で58万人(米軍40万人)です。「従軍した兵士の数」と「障害保険を申請している人の数」については、俺が目を通した資料(複数)とは別の公式な、軍・政府による発表があったりするんでしょうか。
科学者とは言っても、ローレン・モレさんの基盤は「地質学」で、それから推測すると彼女の守備範囲は、「放射性物質としてのウラン」ですらないのでは、と思います。プロ市民活動家としてのプロパガンダもいいんですが、他人からの伝聞情報を拡大して別の多くの人間に知らせる場合は、元資料・テキストに当たれるような方法を、常に期待したいところです(要するに、「講演」や「対談」ばっかりやってたのではダメ、ということです)。
岩波の「世界」を見てみても、「米国ミシシッピ州での湾岸帰還兵251人の調査では帰還後に生まれた新生児の67%に深刻な障害があった」という伝聞情報を、彼女は伝えるだけの人でした。
それよりも湾岸戦争関係の資料に目を通していて気になったのは、環境破壊としては、劣化ウラン弾よりも、クウェートにある油田のイラク軍による破壊行為でした。『軍事分析・湾岸戦争』(鳥井順・第三書館)という資料によると、それによって失われた(燃焼や流出によって失われた)石油量は、クウェートの推定埋蔵量(1000億バレル)の2%弱で、20億バーレル弱。日本の消費量の1.5年分。これがガンの増加を含む、環境の悪影響をもたらしていないとは、とても思えないんですが…単にイラク国内だけではなく、クウェート・イラン・サウジアラビアといった周辺諸国のガン発生率は、湾岸戦争後どうなっているんでしょうか。これについてはプロ市民活動家は、反米・反核的な姿勢が取りにくいため、あまり調査が進んでいないのでは、と気になります。どこの国の、誰がおこなったものであっても、環境破壊は環境破壊だと思うんですが。