サマワの劣化ウラン弾など(毎日新聞の見出しの問題・他)

劣化ウラン弾イラク戦争で米軍使用、オランダ国防相認める(毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20040219k0000e030023001c.html


 【ブリュッセル福原直樹】オランダのカンプ国防相は17日、オランダ軍や自衛隊が展開するイラク南部・サマワ付近で、イラク戦争の際、米軍が劣化ウラン弾を使用したことを正式に認めた。同弾はコソボ紛争(99年)などで使われ、白血病などとの因果関係が問題になっていたが、国防相はこれまで「米軍の情報によればイラク戦争では劣化ウラン弾は使用されていない」と説明していた。だが、最近オランダ軍兵士がサマワ付近で同弾を発見、議会で追求が続いていた。

 オランダ国防省によると、国防相が同日、議会に提出した書簡で明らかにした。それによると、イラク戦争中の03年春、サマワ市近辺の数カ所で米軍が他の弾丸と共に劣化ウラン弾を使用した。

 書簡などで、国防相は「現場の兵士にはガン(白血病)などの危険はない」と主張。国防省によると、米軍などが同弾を使用した地域は現場の兵士に知らされている。また現地のオランダ軍兵士らの尿検査も実施したが、異常はなかったという。

 オランダでの報道によると、最近、同軍がサマワで発見したのは劣化ウランを使用した30ミリ弾だった。

 一部の議員によると、国防相側は昨年12月、少数の議員に内々に「米軍から懸念すべき量は使っていないという報告があった」と連絡していた。だが、これまで公式には認めなかったことから、オランダ軍人の労働組合は「国防相は米軍にだまされていた」と批判していた。

毎日新聞2月19日] ( 2004-02-19-12:23 )

これは少し分析してみたくなるニュースです。
まず、「国防相はこれまで「米軍の情報によればイラク戦争では劣化ウラン弾は使用されていない」と説明していた。」とありますが、去年の夏の時点では、このようなことがあったみたいです。
イラク派遣後も部隊監視 サマワでの安全策で、政府を追及−−オランダ議会(毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/afterwar/art/031230M041_0706001D10DT.html

 イラク南部サマワで8月から展開中のオランダ軍(約1200人)の安全確保をめぐり、オランダ議会は派遣以降もさまざまな議論を続け、政府も対応策をとってきた。サマワでは27日も群衆がオランダ軍に発砲する騒ぎが起きるなど、治安情勢は必ずしも平穏ではない。「議会が監視しないと最大限の安全が保証できない」(与党議員)というオランダの議論は、同じ地域に自衛隊を派遣する日本にとっても参考になりそうだ。【ハーグ(オランダ)福原直樹】

 ■劣化ウラン弾

 派遣当初に問題になったのは、米軍がイラク戦争中、劣化ウラン弾を使用したかどうかだ。同弾は、天然ウランから核兵器などの原料(濃縮ウラン)を抽出した残りを使ったもの。湾岸戦争(91年)やコソボ紛争(99年)で使われ、白血病との因果関係が問題になった。イラク戦争中、米兵が「サマワ劣化ウラン弾を使用した」と故郷に書き送った手紙が公開されたことで、議論に火がついた。

 「政府は当初、米軍が現地で劣化ウラン弾を使用したのは湾岸戦争の時だけだと説明していた」

 オランダ軍派遣に賛成した野党・労働党はこう反発。英政府がイラク戦争中の使用を認めたため議会でも追及された。結局、政府が米に確認、約1カ月後に米から「懸念すべき量は使っていないという報告」(与党議員)があった。議論は落ち着いたが、「米は初めから情報を提供すべきだった」(同)との批判が残った。

 ◇必要なら航空機増派

 ■英から機密情報

 「米英軍が(イラク南部)サウジアラビア国境の情報を提供しないなら、自分たちの偵察機で監視するしかない」。11月下旬、国防委員会でビルダース議員(与党・自民党)が主張した。現地に派遣した議会調査団の調査でオランダ軍に「国境付近の動きがおかしい」と出動を要請した米英軍が詳細な情報の提供を拒んだことが問題となった。

 「情報不在は軍の死活問題だ」。最大与党・キリスト教民主勢力と、野党・労働党も同調。現地のオランダ軍が「我々は偵察能力に欠けている」とオライオン偵察機の派遣を政府に要請していたこともわかった。

 政府は今月、国境監視のため現地に特殊部隊約80人を増派。英側と折衝、機密情報の提供も確約させた。議会の執拗(しつよう)な追及に、カンプ国防相が「南方の国境監視より、北方からのテロリスト侵入を防ぐほうが重要だ」と反論する一幕もあった。

 ■過去の経験

 「我々にはボスニア紛争の教訓がある。議会の追及も理解できる」。オランダ軍派遣前の6月、国防相は語った。

 「教訓」とは95年、ボスニア東部スレブレニツァで起きたイスラム教徒惨殺事件だ。当時、現地に駐屯中のオランダ軍は、保護を求めるイスラム教徒を敵対するセルビア軍側に引き渡し、数千人規模とされる惨殺を招いた。原因としてオランダ軍の装備・訓練不足が指摘された。この反省から、議会は軍の装備なども討議。ビルダース議員は「政府は必要な場合、航空機の増派も約束した。犠牲者が出た場合、政府は責任を取らねばならない」と話した。

毎日新聞2003年12月30日東京朝刊から)

「8月から展開中」で、「約1カ月後に米から「懸念すべき量は使っていないという報告」(与党議員)があった。」とのことなので、この時点(秋ぐらい)でもまだ国防相は「米軍の情報によればイラク戦争では劣化ウラン弾は使用されていない」と説明していたのでしょうか。この記事を書いた福原直樹さんは、自分の書いた記事を忘れてしまったのかな。まぁ「公的には」とのことなんで、うちうちの政府・野党での話し合いとしては認めていた、ということでしょうか。
あと、見出しに騙されないように読んでおきたいのは、「公的に認めた」のは「イラク南部・サマワ付近で、イラク戦争の際、米軍が劣化ウラン弾を使用したこと」なんで、ひょっとしたら他の場所で使われたということは、オランダ政府も公的に認めていた可能性はありますし、オランダ政府が認めていても、カンプ国防相だけは一人公的に認めていなかった、という可能性がないわけでもありません。日本だとまぁ、そんなことはないと思うが、オランダ政府の事情まで理解するには、オランダ語が理解できないと無理。
ということで、少しオランダ国内の政治事情について興味を持ったので調べてみる(こういうとき、本当にネットは便利です)。
↓最近のオランダ情勢と日蘭関係
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/netherlands/kankei.html

(1) 1998年5月の下院選挙の結果成立した第2次コック連立内閣(労働党自由民主国民党(VVD)、民主66党)は堅調なオランダ国内経済を基盤として安定的に推移してきたが、2002年5月15日の下院選挙で連立与党はいずれも大敗。右派ポピュリストの新党リスト・オブ・ピム・フォータイン(LPF)が大躍進(150議席中26議席)し、野党中道右派キリスト教民主同盟(CDA)も選挙前の予想を超えて議席増(同43議席)。LPFの躍進は、移民問題等に関する国民の不満を代弁する形で訴えていたフォータイン党首(5月6日に暗殺)の人気に負うところが大。右選挙後、約2箇月の組閣期間を経て、7月22日にCDAを第一党とし、LPF及びVVDをパートナーとする中道右派連立内閣が成立(新内閣の重点事項は、移民問題、犯罪対策、保健医療、教育問題等)。
(2) 他方、連立内閣成立後、EU政策等を巡りCDAとLPFとの間に摩擦が生じ、また、LPF内でも同党の指導権を争って対立が起こり、LPFから離党する者が続出する事態となっていたところ(5月の選挙では26議席を獲得したが、10月には9議席まで減少)、10月16日のLPF所属のボムホフ保健・福祉・スポーツ大臣及びハインスブルック経済大臣による辞意表明を受け、バルケネンデ内閣は総辞職した。次回下院選挙は2003年1月22日に実施される。
このテキストが書かれたのは2002年(平成14年)12月なので、2003年の選挙結果を見たいと思いました。ここらへんが少し面白かったです。
↓Oude Molen (古い風車) No.93 2001年3月
http://www.pref.gifu.jp/s11444/holland/flowerinfo/200301/oudemolen/oudemolen115.htm

 1月22日、オランダ下院の総選挙が行われた。実は昨年の5月に総選挙が行われていて、現行内閣が発足して約半年の早期解散・総選挙であった。その上はっきりとした争点が無いまま行われた総選挙だが、その投票率は約80%と驚異的なまでに高かった。選挙結果としては、大きく政権が変わる事になるであろう展開だったが、昨年の総選挙があまりに劇的であったために、争点がはっきりしない分、ややかすれて見える。
長いのでさすがにテキスト全文引用を避けて、中略して続けます。しかし諸外国の投票率って、普通に日本と比べるとどこも高いですね。

 ここで面白いのはバルケネンデ首相率いるキリスト教民主同盟と、自由民主国民党は、今解散総選挙をすればこの2党で大勝ちして政権を執ることができ、ピム党が抜けることとによってより安定した政権運営ができることになるだろうという、大甘な見通しのもとに行われた早期解散だったこと。結局この見通しははずれ、前政権の舵を取った労働党が見事大復活を遂げてキリスト教民主同盟とほぼ肩を並べたため、連立政権がどう組まれるのか未だに不透明なままだ。それにしても、劇的な選挙の前後に与党と野党の第一党で争ったキリスト教民主同盟労働党が、今度は連立を組むのではないかという話がまことしやかにささやかれるのは、政策よりも政権争いに明け暮れるどこかの国の政党も真っ青の手のひら返しである。
で、実際に組まれた連立政権は、選挙結果とかと併せて、こんな感じ。
↓外務省・オランダ王国
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/netherlands/data.html

政党名 下院 上院




キリスト教民主同盟

自由民主国民党

民主66党

44

28

6


23

15

3




労働党

社会党

グリーンレフト党

フォルタイン党

キリスト教連合

カルビン党

無所属

42

9

8

8

3

2

0

19

4

5

1

2

2

1

 2002年10月の第一次バルケネンデ内閣総辞職を受け、2003年1月22日下院選挙が実施された結果、バルケネンデ首相率いるキリスト教民主同盟が第1党の座を維持、野党第1党の労働党が大幅に議席を回復し、他方、連立与党のフォルタイン党が少数政党に転落する等、キリスト教民主同盟労働党及び自由民主国民党というかつての「三大政党時代」に戻った形となった。上記選挙結果を受けて、連立組閣交渉が継続された結果、2003年5月27日、キリスト教民主同盟自由民主国民党及び民主66党から成る第二次バルケネンデ内閣が発足した。
↓もう少しくわしい内政事情は、「オランダ大使館」を見れば分かるかな
http://www.oranda.or.jp/index/japanese/netherlands/index.html
今のところ分かることは、現在のオランダ内閣が2003年の5月に成立し、それは3党の連立政権で、野党第一党労働党は、ほぼ与党第一党のキリスト教民主同盟に匹敵する議員数を持っており、政権的には脆弱なものである、ということです。
さて、ここで俺が知りたいのは、いったい現オランダ内閣の国防相・カンプ氏はどの政党に属している人物で、過去にどのような経歴があって、どういう思想(というか、ものの考えかた)を持っている人物か、ということです。何となく「野党の叩き台」になっているイメージがあるんですが…。
ここまでニュースに興味を持つのは単に俺の趣味なんですけど、毎日新聞の記事(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20040219k0000e030023001c.html)でそこまで俺があれこれ考えてみたくなる要因になったのは、末尾の「オランダ軍人の労働組合は「国防相は米軍にだまされていた」と批判していた」という部分でした。日本の軍人(というか、自衛隊の人)にも労働組合があるのか、あったとしたらそれは野党とどのような関係にあるのか、とか。なんかなさそうな気がするんですが…。
まぁ毎日新聞の「イラク戦争で米軍使用、オランダ国防相認める」という見出しは、「劣化ウラン弾イラク戦争サマワ付近に米軍がごく少量使用、オランダ国防相が公的に認める」と脳内変換すべき見出しだと、本文を読んで思いました。
この件で、官房長官に関する共同通信の記事だと、こんな感じ。
サマワ周辺で劣化ウラン弾 福田氏、影響には否定的(共同通信

 福田康夫官房長官は19日午後の記者会見で、陸上自衛隊やオランダ軍が活動するイラク南部のサマワ周辺でイラク戦争の際、米軍が劣化ウラン弾を使用した、とオランダのカンプ国防相が認めたことを明らかにした。
 福田氏は放射線レベルは低く、オランダ政府も「オランダ軍兵士に懸念はない」としていると指摘したが、日本政府が米側に使用状況などを照会し、事実関係を確認していることを明らかにした。
 福田氏によると、昨年12月にオランダ軍がサマワ周辺で劣化ウラン弾とみられる「りゅう弾」を発見。オランダ国防省サマワのあるムサンナ州で使用された劣化ウラン弾の概要を問い合わせたのに対し、米政府が「サマワ周辺の複数の場所でも使用されたもようだ」と回答したという。
 オランダ軍兵士は最大0・005ミリシーベルト放射線を浴びた可能性があるが、同軍の派遣部隊基準である0・5ミリシーベルトは下回っていた。オランダ軍駐留地では定期的に測定されているが、懸念が必要な結果ではないとしている。カンプ国防相が書面で回答した内容として説明した。

共同通信

「りゅう弾」というのが笑いどころでしょうか。これは共同通信が「○○は××と言った」と言っているだけのことで、本当は何といったか不明なので(首相官邸ホームページの「記者発表」にも見当たりませんでした→http://www.kantei.go.jp/。探せばどこかにあるのかな)、福田官房長官を笑うつもりはありませんが…。毎日新聞の記事(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20040219k0000e030023001c.html)によると、見つかったのは「劣化ウランを使用した30ミリ弾」とのことなので、米空軍A10攻撃機の30mm砲によるものだと思うんですが、それは徹甲焼夷弾徹甲弾)で、徹甲弾榴弾の違いはまぁ、検索であれこれ調べてみると分かります。
↓しかし、情報量が少ない「NHKのニュース」をもとに
http://www.nhk.or.jp/news/2004/02/20/k20040219000162.html

サマーワに駐留するオランダ軍が劣化ウラン弾を発見したことを受けて、福田官房長官は、日本として、アメリカ政府に事実関係を照会していることを明らかにする一方、自衛隊が活動するうえで問題はないという認識を示しました。
02/19 21:09
↓「問題ないわけないでしょう?」と言ってるサイト(葉っぱのひとりごと)はいささかどうかと
http://ukiha.jugem.cc/?eid=124
これも一つのメディアリテラシー
とりあえず、「最大0・005ミリシーベルト放射線を浴びた可能性がある」程度のどこらへんに「問題ないわけない」という結論を見たのか、あちらのエントリーにコメントつけている人も含めて、詳しくそのかたがたのご意見をお伺いしたいと思いました。劣化ウランの粉塵を山ほど浴びたりしたのなら、そりゃ(化学的毒性の面その他で)問題ありすぎだと思いますが。
まぁ、俺も「カンプ国防相が書面で回答した内容」を見たわけではないので断定はできませんし、それを否定するような具体的なデータがあれば別ですが。オランダ側の調査の方法も不明だし。
たとえば、NGOのかたがたのデータとして、具体的な調査法と、「最大○○ミリシーベルト放射線を浴びた可能性がある(ゆえに、それはこの程度に危険である)」という情報を公開していそうなサイトもあるような気がします。