『レイチェル レイチェル・カーソン『沈黙の春』の生涯』(リンダ・リア、東京書籍)(→bk1)(→amazon)(→書籍データ)

たまには本の感想を書いてみます。
エコロジーを扱った、というかそういうジャンルを作ったといっても多分間違いではない、農薬の危険性を訴えた『沈黙の春』で有名な、レイチェル・カーソンに関する評伝。
レイチェル・マニアというか、レイチェル・オタクとしか思えない著者による長大な本で、ほとんど彼女の全著作に匹敵するんじゃなかろうかと思えるぐらいの量がありました。読むのはヘトヘトになったけど、妙なところでいろいろ収穫がありました。アメリカにおける出版戦略の、当時においても今の日本よりはるかに進んだ「マス・セールスとしてのプレゼンテーション(広告)」の打ち具合とか。それには○○賞を取らせる(これは文学ではなくて自然科学の本なので、そちら方面ですけどね)とか、有名雑誌にその抜粋やら要約やらを発売前に掲載するとか、発売直前・直後には著者の顔を積極的に出す、とか。要するに発売直前〜ひと月後ぐらいまでがなかなかの勝負、ということです。
で、その出版プロデューサーというか、エージェントとして、マリー・ローデル(女性です)という人の名前が出ているんだけど、この人は「ミステリーの書き方」みたいな本を出してMWA賞を受賞しているミステリー関係の人だというのが面白いですね。意外なところのミステリーつながり。データベース見てみたら(http://64.57.86.186/edgarsDB/edgarDB.php)1949年の受賞。「for her editorship of the Regional Murder series」ってコメントがあるんで、編集者としての賞でしたか。この本には「ミステリー小説の研究に対して贈られた」(p237)と書いてあるけど、少し違いますね。で、「Regional Murder series」について少し興味を持ってネットで調べてみると…みたいなことを書いていると、いつまで経っても終わらない。
もの静かで内に秘めた情熱を持った少女〜研究者時代、文学的才能によって自然を科学的に、一般読者に分かりやすく書き、その名を高めたベストセラー作家(というより、ベストセラー本を出した人)の時代、『沈黙の春』という時代を超越した名作を生み出した前後の苦闘と苦悩の時代、などなど、評伝として、物語・読み物としても面白く読めます。
しかし1962年の秋に刊行された『沈黙の春』をめぐるフィーバー状況は、もう少し知りたいな、と思ったり。ビートルズとかグレン・グールドとか、興味深い「時代の人」が1960年代には多すぎるようです。