「収賄罪の部下の依願退職を認め、退職金支給した小泉氏」というのは本当か

まぁ、こういうネタを求めるために「JANJAN」の会員になったようなものですが、以下の記事の「ご意見板」でのやりとりから。
補足:JANJANより要望がありましたので、俺のテキスト以外の引用部分は削除し、見出しと内容の要約を掲載します(要約にあたっては、若干の俺の主観が入るかもしれませんが、なるべく入らないようにします。
小泉首相の夏休み〜休暇優先で、国民の生命・財産は守れるのか!
http://www.janjan.jp/government/0408/0408258367/1.php
このJANJANの記事に補足する形で、次のようなご意見を書かれたかたがおりました。


[3146] 収賄罪の部下の依願退職を認め、退職金支給した小泉氏


収賄罪の部下」というのは小泉氏が厚生大臣だったときに問題を起こした岡光序治(のぶはる)氏で、そのテキストを書かれたかたは事件の経緯を記述し、「私は、この時から、小泉純一郎氏は信用していないし、言動に注目して来た」と書きました。
反・小泉という思い込みが強すぎるような気がする、俺が興味を持った書き込みだったので、このような質問をしてみました。
↓[3147] 別に小泉氏を擁護する意図はありませんが

名前:愛蔵太
日時:2004/08/30 00:09


はじめまして、最近JANJANに顔を出すようになりました愛・蔵太と申します(システムの関係で、表記は「愛蔵太」になってますが、まぁどちらでもかまいません。


岡光序治氏の汚職事件につきまして、記事検索などあれこれしてみたんですが、これに関する小泉氏(当時の厚生大臣)の発言として、北誠様が挙げられました、

私の信頼する部下が腹を切ると言っているのだから、辞表(依願退職)を受理して当然

と言った、というソースが、どうもうまく見つかりませんでした。大変申し訳ありませんが、北誠様はこのテキストをどこでどう読まれて入手されたのでしょうか。


俺が見た限りで比較的近いのは、こんな感じの奴でしたが。


第138回国会 厚生委員会 第1号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/138/1210/13811281210001c.html

国務大臣小泉純一郎君) 去る十八日の新聞の朝刊で岡光前事務次官に対する疑惑が報道されました。その朝から省内においても大変動揺いたし、わけても事務方の最高責任者の疑惑でありますので、その動揺も一方ならないものがありました。そうこうするうちに夜になりまして、茶谷氏が逮捕されたという報道があり、その深夜、十九日未明、いろいろな判断があったと思います、岡光前事務次官は当初新聞に出ております報道に対しましてはほとんど否定しておりました。また就任後、わずか短期間の間でこれからもやり得べきことがたくさんあると大変意欲的な姿勢を見せておりましたけれども、諸般の情勢から、自分の存在といいますか自分が事務次官にとどまってやるよりは、むしろ身を引いた方が今後の厚生行政を進展させるためによいのではないかという判断をされて辞表を提出したのだと思います。
 私は、大臣と事務次官という関係から、岡光事務次官を信頼しておりました。これから部下として、大事な厚生行政を二人三脚となって進めていかなければならない信頼すべき部下でありました。その次官が疑惑を否定し、しかしながらこれだけ世間を騒がせている。辞職をするというのは男として一つの責任のとり方だと思いました。そして、一日も早くこの動揺を静め、新次官を決定し、信頼回復策を講じ、本来の厚生行政を進める上において早く措置した方がいいと判断し、私は辞表を受理し、そして直ちに新次官の選任にかかり、二十二日の閣議で新次官の御了承をいただきました。
 その間、私の決定に対しまして、十九日の未明、そして当日の閣議で岡光前事務次官の辞任を御了承いただき今日に至っておりますが、辞任前、辞任後、総理から私の決定に対して批判とか疑念の声は一切受けておりません。
 このとおりであります。

このテキストと、「私の信頼する部下が腹を切ると言っているのだから、辞表(依願退職)を受理して当然」というテキストとでは、ニュアンスが若干異なっている気がしましたので、このような質問をさせていただきました。大変申し訳ありません 。

俺の日記を以前から読まれているかたには周知の、「本当は何と言ってたのか」に関する話ですね。今回はそれに「退職金は本当に出されたのか」という疑問と調査が加わります。
↓[3162] 引き続き調べてみましたが

名前:愛蔵太
日時:2004/08/30 08:19


小泉氏の、国会における岡光序治氏擁護(のようにいろいろな人には思えるだろう)発言について少しだけ調べてみたんですが、どうも調べた部分と世間一般的に受けとめられている(解釈されている)部分の違いが気になりました。


1・まず、国会で俺が引用した発言があったのは、1996年11月28日
2・岡光序治氏が辞表を提出したのは、1996年11月19日(議事録による)
3・岡光序治氏が逮捕されたのは、1996年12月4日(諸々の報道による)


つまり、小泉氏の国会での発言は、諸般の状況を考えると、まだ容疑者でも刑事被告人でもないキャリア官僚で、自分の直接の部下(ナンバー2)である人間の弁明を聞き(岡光序治氏本人は、金についてはどうも「借りただけで返すつもりだった」という弁明をしていたみたいですが、判決の記録を見てみないとそこらへんは不明です)、マスコミの錯綜する情報もあれこれ入手した上で(その中には岡光序治氏を、まだ容疑者でもないのに被告人扱いしている報道もあったんじゃないかと推測します)、11月19日に岡光序治氏の弁明を信じて、辞表を受理した、というようなものだ、と俺は判断しました。要するにマスコミ報道より岡光序治氏の弁明を「正しいもの」と判断していた(1996年11月19日の時点では)ということですね。


まぁ実際はその後、キャリア官僚としては前代未聞の「実刑判決」になっちゃって、小泉氏の岡光氏擁護発言は結果的には間違ったものとなり、時間が経つにしたがって「犯罪者を擁護した小泉」とかいう形で反・小泉な人が取り上げ(これは時系列を無視した、事実の歪曲・捏造でしょう)、また擁護発言も微妙に違ったニュアンスのものに変えられてるんじゃないかなぁ、と思いました。


ただ、前に引用しました議事録では、次のように言っている部分もあるので、


第138回国会 厚生委員会 第1号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/138/1210/13811281210001c.html

○説明員(近藤純五郎君) 前次官の退職金の関係でございますけれども、小泉大臣の方から、現在報道されております事態の推移を見て慎重に対処するように、こういう御指示を受けているところでございまして、恐らく前次官の方から要求はないと思いますけれども、仮にございましても今後の事態の進展を見てある程度の見きわめがつくまでは私どもは慎重に対処すると、こういう考え方でございます。

北誠様が挙げられました、

私の信頼する部下が腹を切ると言っているのだから、辞表(依願退職)を受理して当然

という、小泉氏が言ったとされている発言のソースがますます気になります。それはいつごろ、本当にこの発言の通りに小泉氏が言ったものなのでしょうか。岡光序治氏の逮捕・起訴の時期と、この発言の出たとされる時期、またそれを報道したメディアなどに興味を持ちました。


また、あれこれ過去の報道を見てみると、辞表の受理はされたみたいですが(ていうか、一度しちゃったもんは取り消せないのかな)、退職金の6000万円については、どうも世間とか小泉氏の親族(信子さん)の意見などもあって「凍結」されたみたいですが、もう少し調べてみると、支払ったという事実も出るのかな、よく分かりませんでした。


ていうか、俺の個人的な感想としては、調査で浮かび上がる岡光序治氏の人生に悲哀を感じました。「おねだり妻」と女性週刊誌にまで書かれた家族(お子さんは今いくつぐらいで、どのように生きてるんでしょうか)、妻と母との確執、田舎から出てきてキャリア官僚の頂点に至るまでの軌跡などなど。ここらへんに関しても、何か本で読んだ記憶はあるんですが忘れてしまったんで、思い出したらあれこれするかもしれませんが、まぁこの「ご意見板」に書くと方向がどんどん違ってきちゃうので。

岡光序治氏の行為は国家を背景にした犯罪で、その罪は今の日本の法律では許せないものではありますが、物語とか人間の悲哀とかいう面で見ると、切なくて哀しいものがあります。
で、この書き込みに関するアンサーは、こんな感じでした。


↓[3167] 岡光の利益擁護した小泉厚生大臣。の図式は変りません。


細かな内容は省略しますが、小泉氏が言ったと言っているテキストは「強い印象と記憶に下づくもので、一言一句正確なものではありません」「腹切り」発言は想像の付くところだと思います」退職金は「支払ったと見るのが妥当だと思います」という内容のテキストでした。
俺には「収賄罪の部下の依願退職を認め」たのも、「退職金支給した」というのも、思い込みが前提となっている嘘にしか思えなかったんですが。依頼退職を認めたのは、岡光氏が「収賄罪」という犯罪にからむ事件の被告どころか容疑者ですらない時点のことですし、退職金を支給したという事実があったことは確認できませんでした。そこで俺はこのような返答をしました。
↓[3171] 「捏造・歪曲してでも批判します」というのは、ちょっと

名前:愛蔵太
日時:2004/08/30 22:11

従って、強い印象と記憶に下づくもので、一言一句正確なものではありません。
全てが、インターネットで裏付けられるものではない事をご承知下さい。

「一言一句正確なもの」でないと、俺のようにつっこむ者も出てきますので、今後はそのようなことのないようにお願いします。


少なくとも俺の感じでは、「私の信頼する部下が腹を切ると言っているのだから、辞表(依願退職)を受理して当然」という発言と「辞職をするというのは男として一つの責任のとり方だと思いました。そして、一日も早くこの動揺を静め、新次官を決定し、信頼回復策を講じ、本来の厚生行政を進める上において早く措置した方がいいと判断し、私は辞表を受理し、そして直ちに新次官の選任にかかり、二十二日の閣議で新次官の御了承をいただきました。」とでは、全然ニュアンスが違うのですが。


また、この発言は「収賄罪の部下」に対してではなく、容疑者ですらない時点のものであることを、北誠さんは故意に隠していたように俺には思えたのですが(ご意見板の発言のタイトル「収賄罪の部下の依願退職を認め、退職金支給した小泉氏」は間違った記述でしょう)、そういうやりかたは俺にとってはむしろ「批判している側の、情報を流布するに当たっての不誠実さ」のほうが気になります。

法律の遵守を義務づけられている官僚は支払ったと見るのが妥当だと思います

「妥当だと思います」ではなくて「支払われました」という、何か証拠になるようなものをいただけないでしょうか。


ちなみに、小泉氏は以下の通り断言してますが。
平成09年01月28日 衆議院予算委員会

○小泉国務大臣 岡光次官の件について御質問が出ましたので、総理の前に答弁させていただきたいと思います。
 十一月十九日の時点で新聞に疑惑の報道が出ました。その時点で岡光自身は否定しておりました。そして、事務次官という事務方の最高責任者の立場、そしてこれからの厚生行政を進める、そういう観点から、私は、岡光氏が判断して、それでは自分が身を引いた方が厚生行政推進のためにいいだろう、その判断を尊重して辞表を受け取り、認めました。退職金は速やかに支給しなきゃならない規定がありました。私は支給を停止いたしました。そして、介護保険法案を初め、山積する厚生行政を推進するためにいち早く体制をとらなきゃならないと思いまして、三日後に新次官を決定しました。退職を認め辞表を受け取ったこと、退職金支給を停止したこと、新次官を決定したこと、すべて私の政治判断であります。
 そして、それでは、皆さんが言われるように、疑惑が本当だろうと。本当だったらば、私は司法当局が判断すると思います。しかし、本人が否定しているとおり、疑惑がもし事実でなかった場合に、どのような名誉回復があるんだろうか。それはあり得ないと思いますね。しかしながら、それではということで官房付に万が一したと思います、次官が官房付になった例は今までないと思いますけれども。そういう場合に、逮捕の時点で懲戒免職にすべきだという意見がありました。逮捕されたのは十二月四日であります。その場合においてもボーナスは全額支給されます。
 和田審議官の場合は、審議官でありますから、疑惑が報道され、本人も認めるような発言をしていたから、私は官房付にしました。そして結果的に、いろいろな判断から、何人か懲戒処分の対象におりましたから、その他の者と含めて総合的に判断するということで、本人は懲戒処分にしました。しかし、懲戒処分でもボーナスは支給されます。これは給与の一部だということであります。
 そういう観点から、私は、何が不公平なのかと。和田審議官は懲戒処分にして、逮捕されない。岡光氏は次官として身を引いた、そして逮捕された。退職金は支給していない。そういう観点から、いろいろな議論が起きましたから、もし退職しても在任中にも懲戒処分に当たるような行為が出てきたらば、退職後懲戒処分できるように法律改正するのは、それは一つの見識ではないかというのは私自身も思っております。そういう観点から今いろいろな議論が出ているんではないかと私は感じております。

「退職金支給を停止した」(逮捕されたので)「退職金は支給していない」と明確に述べてますね。この事件以後の法律改正がどうなったかは不明ですが(多分調べれば簡単に分かるような気がします)。諸般の事情があったとしても、冷酷に近いクールな人という評判がある小泉氏にしては、「辞表は受領したが、退職金はすぐには支払わなかった」というのは、状況を見た判断だったと思います。報道などが間違っていた場合の名誉回復の方向として、その年のボーナスがもらえるような職に留めていたことも、賛否両論はあるでしょうが(結果的にそれを否定する側の言い分が正しかったわけで)。


ついでに、実はやはり気になったので、本日の午後に現・厚生労働省の庶務課の人に電話で確認してみたんですが(そのかたのお名前を出すことも可能ですが、それは出してもいいか確認してからにします)、「古いことなので記録は残ってないが」という前置きつきではありましたけれども、「退職金は出してないと思います」って言ってました。俺は記録は絶対残ってると思うんで、もう少し調べてみたいところですが、「出した」としたなら、「出した」という記録はあっても「出してない」という記録は残らないわけで、調査の難航が予想されます。


しかしまぁ、この話を続けるのはおしまいにします。俺としては、


1・小泉氏は「私の信頼する部下が腹を切ると言っているのだから、辞表(依願退職)を受理して当然」とは言っていなかった。
2・「収賄罪の部下の依願退職を認め」たわけではなかった(結果的に収賄罪という罪にはなりましたが)
3・「退職金支給した」ということもなかった(あったかもしれないが、あったという証拠はみつからなかった)


という事実が確認できたのでもう十分です。


他になにか、小泉氏の過去の行状で面白いようなことはありませんか。

さて、ここを読んでいる皆さんにお伺いしたいのですが、「岡光序治氏はちゃんと退職金を受け取っている」というような、何か証拠になるようなテキスト(国会での証言など)をご存じのかたはいらっしゃらないでしょうか。これについては、俺自身の中で調査に納得がいかない部分が多いうえ、行き詰まっている感があるもので。申し訳ありませんが、ご存じのかたはコメント欄でよろしくお願いします。


このやり取りは、2004年9月5日現在、まだ続いています。