アナン国連事務総長が国連総会冒頭演説で言ったことの、朝日新聞のすごい訳(解釈)について

↓以下の日記の続きです
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20041004#p2

その後の調べで、さらにすごいことがわかりましたのでご報告。

↓アナン国連事務総長による「冒頭演説」は以下のところにありますが
http://www.un.org/News/Press/docs/2004/sgsm9491.doc.htm

これを朝日新聞は以下のように報道した様子。

↓「法の支配」の重要性強調 国連総会でアナン氏演説(朝日新聞
http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/TKY200409210353.html

 第59回国連総会の一般演説が21日午前(日本時間同日深夜)、ニューヨークの国連本部で始まった。各国首脳に先立って冒頭演説を行ったアナン国連事務総長は「法の支配はいま、世界中で危機に直面している」と訴え、イラクで続く民間人の殺害などを例に挙げて、弱者を守るための法の支配が無視されていると警告した。イラク戦後の世界で、事実上の無法状態が広がっているとの認識に立ち、安全保障理事会を含む国連の機能強化による法の支配の復活を呼びかけた。

 この日はブッシュ米大統領も演説し、イラク戦争は正当だったと改めて訴えた。

 アナン氏は昨年の総会演説で、米が明確な安保理決議なしにイラク戦争に踏み切ったことを厳しく批判し、「法を逸脱した武力行使が拡散するのではないか」と懸念を表明した。今年は、法の支配が各地で崩壊しているとの認識を表明した。

 その例として、イラクで多くの市民が戦火の犠牲になっていることを挙げた。アブグレイブ刑務所でのイラク人虐待にも触れ、米の名指しは避けつつも、多国間協調を無視したイラク戦争が、現地を混乱に陥れている実情を指摘した。

 さらに、スーダンでのアラブ系民兵による黒人住民迫害▽ウガンダでの子ども虐待▽ロシア南部の学校テロ事件▽パレスチナ過激派による自爆テロイスラエル軍の報復、などに言及。「こうした惨状の蔓延(まんえん)は、私たちみんなが法を支え維持するのに失敗したからだ」と強調した。

 安保理については「法の支配を強制できる力が公平または効果的に使われていないと多くの人が感じている」と指摘したが、改革の必要性を示唆しながらも、具体的な方策には触れなかった。

 21日午後(同22日未明)には小泉首相の演説がある。首相は常任理事国入りをめざす日本の立場を表明する。一般演説は10月1日まで開かれ、191の加盟国首脳らと、オブザーバーのパレスチナバチカンの代表が参加する。

(09/22 00:58)

(太字は引用者=俺)
…戦火の犠牲? 多国間協調を無視したイラク戦争が、現地を混乱に陥れている?

このテキスト(朝日新聞の記事)の中には「法の支配の危機」という言葉が使われていなかったので、「法の支配の危機 アナン」で検索した時には見つからなかったのです。少し範囲を広げて、朝日・毎日以外の、産経・日経・読売(五十音順)の記事から、そこらあたりをどう訳しているか見てみたいと思います。

↓国連の存在意義訴え 事務総長演説(産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/040922/morning/22int003.htm

 【ニューヨーク=長戸雅子】アナン国連事務総長は二十一日、国連総会一般演説の冒頭で「中東やイラク、長期化する世界中の紛争解決の手段となるのは安保理決議を含めた法律である」と述べ、国際社会での「法の支配」の回復と定着を訴えた。また、人類共通の問題を解決する機関は国連以外にないとし、イラク戦争をめぐって問われた国連の存在意義を改めて強調した。

 アナン氏は「法の支配」が世界で危機に直面していると指摘。具体例としてイラクでの外国民間人の拉致、殺害や市民の犠牲、イラク人収容者への虐待、アフリカ東部スーダンの住民迫害、ロシア・北オセチア共和国で起きた学校占拠事件に言及した。同氏は「民間人や弱者、子供の尊重を定める法が恥ずかしげなく無視されている」として、法秩序回復への国際社会の責任を訴えた。

イラクでの外国民間人の拉致、殺害や市民の犠牲、イラク人収容者への虐待。

国連事務総長「法の支配が危機に」・NYの国連総会 (日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20040921AT2M2102N21092004.html

 【ニューヨーク=朝田武蔵】第59回国連総会の一般討論演説が21日午前、ニューヨークの国連本部で開幕した。アナン事務総長は冒頭演説で、混迷が続くイラク情勢を念頭に、「今日、法の支配が危機にひんしている」と懸念を表すとともに、存在意義が問われている安保理改革の重要性を訴えた。

 事務総長は大国にも小国にも公正であるべき国際法の枠組みが「あまりにも選択的に適用されている」と述べ、暗に米国を批判。米国の対テロ戦についても「不必要な人権侵害が許されている」と批判した。そのうえで国際法の理想を実現する場が安全保障理事会であることを強調し、「多くの人が(安保理について)公正かつ効果的に機能していないと感じている」と懸念を表した。来年は国連創立60年の節目にあたり、事務総長の提唱で昨年11月に発足した国連改革に関する高級レベル委員会が、テロなどの「新しい脅威への取り組み」をテーマに協議を続けている。 (00:04)

混迷が続くイラク情勢。

読売新聞は見つかりませんでした。

前に引用したアナン事務総長の、イラク関係に言及している部分を、俺がつたなく訳すとこんな感じです。

In Iraq, we see civilians massacred in cold blood, while relief workers, journalists and other non-combatants are taken hostage and put to death in the most barbarous fashion. At the same time, we have seen Iraqi prisoners disgracefully abused.
イラクでは、市民が虐殺され遺体となるのを見る。救援者やジャーナリストその他の非戦闘員が人質となり、もっとも野蛮なやりかたで処刑される。同時に我々はイラクの囚人が卑劣な虐待を受けているのを見た)

ということで、JANJANのこの記事に戻りますが、

↓法の支配の危機を市民の手で打開しよう!
http://www.janjan.jp/world/0410/0410029397/1.php

国連事務総長は、今回の戦争に関し、「法の支配の危機」であるとしています。

前にも言いました通り「法の支配の危機」という言葉は、ブッシュ大統領とその戦争(イラク戦争)を裁くための「イラク民衆法廷」が使う要件を満たしているようには思えないのですが。

アナン氏の冒頭演説でイラクに関して触れているのは、

1・市民の虐殺は、イラクのテロリストと米軍双方に対する非難
2・人質の処刑は、イラクのテロリストに対する非難
3・囚人の虐待は、米軍に対する非難

なので、反米的な姿勢だけでは必ずしもありません。テロリストも批判していますし、世界中の非人道的行為も批判しています。

それにしても驚きなのは、朝日新聞超訳(超解釈)です。朝日の「戦火の犠牲」だとか「多国間協調を無視したイラク戦争」という記事を見ると、アナン氏が国連総会でアメリカを大罵倒しているような印象ですが、そのようなことは言っていません。確かに、名指しではないにしろ暗にアメリカを指して非難していると解釈できる部分もありますし、折々のマスコミのインタビューでアナン氏がイラク戦争に対して批判的な言動をしている例もあるようですが、「2004年国連総会の冒頭演説」では、露骨にアメリカ・イラク戦争を批判した部分は存在しません。

まったく、新聞報道だけではなく原文(元テキスト)読まないと、捏造・歪曲報道にだまされるばかりなのです。