『田島道治 昭和に「奉公」した生涯』

lovelovedog2004-11-22

田島道治 昭和に「奉公」した生涯』(加藤恭子、TBSブリタニカ)(→bk1)(→amazon)(→書籍データ

戦前は昭和銀行という一部では有名な金融機関の総裁、戦後は宮内庁長官とか日本育英会会長とかソニーの会長とか、とにかくえらくて有名な職についた割にはあまり知られていない人の評伝。描かれている世界や人物関係が世俗の人とはまったく異なっておりますが、仕事ぶりは地味で目立たず保守的で、性格も論語を血肉としているまっすぐな人。あまりこういう人の評伝というのは面白くなりそうにないですが、新渡戸稲造のところに押し掛け書生になったり、協明学寮という東大生専門の寮を作ったり(3回も)、天皇の退位問題とからんで「お言葉」を創案したり、ソニーの井深・盛田という、突っ走りがちな若者を抑制したり、息子の嫁に松岡洋右の娘をもらったり(松岡のほうは「あんな金持ちのところの嫁とは、身分違いだ」と言ったそうです)、いろいろなことをやっていて、なかなか楽しく読めました。登場する人物が多すぎて、あまりスラスラと読むわけにはいかなかったですが。こういう、あまり話題にならなかった(と思う)本に出会い、楽しみ、紹介するのは俺自身の快感です。しかしこの著者、ノンフィクションのジャンルとしてはあまり著者自身が得意そうなものとも思えず、かつあまり売れそうだとも思えない(失礼)こんな本を、よく書く気になったものです。書かれている内容は、まさに全力投球です。