『古代末期の世界 ローマ帝国はなぜキリスト教化したか?』

lovelovedog2004-11-23

『古代末期の世界 ローマ帝国はなぜキリスト教化したか?』(ピーター・ブラウン、刀水書房)(→bk1)(→amazon)(→書籍データ

ローマ帝国が黄昏をむかえ、イスラム国家が興隆するまでの3世紀〜7世紀という、約400年の間に、古代ローマとその周辺諸国では何が起こっていたか、について、多面的かつペダンティックな分析をする、薄いながらも密度の濃い良書。もともとは専門書や教科書ではなくある種の読み物として書かれたもので(それも1970年)、歴史研究の昨今の進歩から考えるとかなり定説的な部分での変化もあるでしょうが、まずそもそも、ローマ帝国はどうして崩壊したか、それに対してキリスト教がなぜ勃興したり栄えたりしたのか、に対する基礎知識が、高校生の歴史教科書程度の知識しかない(俺を含む)ほとんどの現代日本人にとって、知的興味を断片的断定で満たしてくれるというある種驚異の書です。キリスト教が教会という組織で個人を守る存在となっていたり、古代ローマの大地主が世俗から離れて自分たちの世界にこもったり、あるいはペルシア帝国とか非ローマ(ラテン)系民族の存在(末期にはイスラムの存在)による軋轢などなど、西洋のSF作家による「銀河帝国」のイメージの原型を見るような気がします(アシモフ先生がファウンデーションを書かれた時代には、これほど分かりやすいイメージ造形のもとになりそうなテキストがあったかは不明ですが)。とりあえずSFとかファンタジーとか、架空世界を構築したい人はそのモデルの一つとして読んでみる、というのも意外にいい感じかも知れません。