人権擁護法関連で少し間違ったことを言っているように思える小倉秀夫弁護士のことなど

別に炎上とかそんなの望んでるわけではありませんが、ちょっとだけコメントを。
小倉秀夫の「IT法のTop Front」:人権擁護法案

 日本は、人種差別撤廃条約に参加した関係で、人種差別撤廃委員会(CERD)に条約の実施状況を報告しなければならなくなり、実際報告をしました。これを受けてCERDはこの報告書を審査し、2001年3月に「日本政府報告書への最終見解」を発表しました。この中でCERDは、「特に本条約第4条及び第5条に適合するような、人種差別を非合法化する特定の法律を制定することが必要であると信じる。」「人種的優越や憎悪に基づくあらゆる思想の流布を禁止することは、意見や表現の自由の権利と整合するものである。」「人種差別の禁止全般について、委員会は、人種差別それのみでは刑法上明示的かつ十分に処罰されないことを更に懸念する。委員会は、締約国に対し、人種差別の処罰化と、権限のある国の裁判所及び他の国家機関による、人種差別的行為からの効果的な保護と救済へのアクセスを確保すべく、本条約の規定を国内法秩序において完全に実施することを考慮するよう勧告する。」との見解を述べています。つまり、我が国においても、人種差別等を禁止するために積極的な立法を行うことは避けられない状況にあるわけです。

いやその、人種差別撤廃委員会(CERD)の「日本政府報告書への最終見解」に対しては、日本政府のほうが2001年の7月に「人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出」というのを出しているわけですが、それはご存じでしたか。
↓こちらです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/iken.html
↓一応、小倉さんのところで語られている、人種差別撤廃条約はここにあって、
人種差別撤廃条約 全文(和文
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html
↓それの「第4条及び第5条」はこんな感じです

第4条

 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

第5条

 第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。

(a)裁判所その他のすべての裁判及び審判を行う機関の前での平等な取扱いについての権利

(b)暴力又は傷害(公務員によって加えられるものであるかいかなる個人、集団又は団体によって加えられるものであるかを問わない。)に対する身体の安全及び国家による保護についての権利

(c)政治的権利、特に普通かつ平等の選挙権に基づく選挙に投票及び立候補によって参加し、国政及びすべての段階における政治に参与し並びに公務に平等に携わる権利

(d)他の市民的権利、特に、


(i)国境内における移動及び居住の自由についての権利

(ii)いずれの国(自国を含む。)からも離れ及び自国に戻る権利

(iii)国籍についての権利

(iv)婚姻及び配偶者の選択についての権利

(v)単独で及び他の者と共同して財産を所有する権利

(vi)相続する権利

(vii)思想、良心及び宗教の自由についての権利

(viii)意見及び表現の自由についての権利

(ix)平和的な集会及び結社の自由についての権利
(e)経済的、社会的及び文化的権利、特に、


(i)労働、職業の自由な選択、公正かつ良好な労働条件、
   失業に対する保護、同一の労働についての同一報酬
   及び公正かつ良好な報酬についての権利

(ii)労働組合を結成し及びこれに加入する権利

(iii)住居についての権利

(iv)公衆の健康、医療、社会保障及び社会的サービスについての権利

(v)教育及び訓練についての権利

(vi)文化的な活動への平等な参加についての権利
(f)輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利

で、実は、日本政府は「「人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出」の中で、人種差別撤廃委員会の最終見解に対し、明確に反論しています
↓こんな感じです。

5.「最終見解」パラ10について

(1) 第4条及び第5条に関して、まず、第4条の(a)及び(b)については、処罰立法することを義務づけているが、以下6.で述べるように、わが国は憲法と抵触しない限度において第4条の義務を履行する旨留保を付している。第4条(c)については、締約国がとるべき具体的な措置について何ら規定されていないことから、各締約国の合理的な裁量に委ねられているものと解される。また、第5条においてはその柱書に「条約第2条に定める基本的義務に従い...」とあり、第2条の定める義務の範囲を超えるものではないと解されるが、一方、第2条1では、すべての適当な方法によりと規定されていることから明らかなように、立法措置は、状況により必要とされ、かつ立法することが適当と締約国が判断した場合に講じることが求められていると解される。我が国の現状が、既存の法制度では差別行為を効果的に抑制することができず、かつ、立法以外の措置によってもそれを行うことができないほど明白な人種差別行為が行われている状況にあるとは認識しておらず、人種差別禁止法等の立法措置が必要であるとは考えていない。

(太字は引用者=俺)
要するに、小倉さんは「我が国においても、人種差別等を禁止するために積極的な立法を行うことは避けられない状況にある」と言っていますが、日本政府は違う意見を持っているみたいです。
これに関しては、ずいぶん前の俺の日記でも言及しましたが、日弁連がこの「人種差別撤廃委員会の最終見解」に関して、どうせ原文には当たれないだろう(ていうか、原文に当たるのは面倒くさいから、誰もしないだろう)と思って、「人種差別を非合法化する特定の法律を制定することが必要であると信じる」という部分を、「日本政府は、国連人種差別撤廃委員会から人種差別禁止法制定を要請されていながら」という間違った情報を流したこともありました。
くわしいことは、俺の以下の日記を読んでみてください。
日弁連まで嘘書いてる「外国人の人権基本法」など
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20041010#p1
この日記に追記すると、こんなものが出ていたみたいです。これは、俺が前の日記を書いたときには、日弁連のサイトにはありませんでした。
↓多民族・多文化の共生する社会の構築と外国人・民族的少数者の人権基本法の制定を求める宣言
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/jinken/00/2004_5.html

↓これは以下の日記に続きます
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050308#p1