バスラの病院統計によると、日本はイラクよりガンのリスク高いです

こういうテキストがあるわけですが、
イラクレポート 2002〜2003 #2 森住 卓

1998年にバスラの厚生省の支部がガンの発生率の調査結果を発表した。その結果によると88年1万人に15人だった。98年の調査では75人で5倍化。昨年は116人。年々増加している。しかし、この数は実際の45%ぐらいではないかと思われている。イラク全土のガン死亡率の12から14%はバスラに集中している。これは人口に比べるとすごく高い率だ。イラク全土では18エリアがあり、全土で5000人がガンで死んでいる。バスラだけで603人(2001年)の死亡数。

そこで、イラクとバスラの人口を調べます。
世界の国々 / アジア / イラク

人口 2400万1816人(2002/7推計)

ジョン・ピルジャー Six Days of Shame日本語訳(2003年3月26日)

今日この日は英国軍にとって恥の日である。英国軍は,60万もの人口を抱えるイラクの都市バスラを,「軍事標的」としたのである。

オンライン・イラク辞書・事典 #3

ペルシャ湾とイラン国境の近くシャトルアラブ川沿いに在るバスラは人口140万人イラク第二の都会で
(最終更新:04/07/05)

Basra. The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. 2001-05

city (1987 pop. 406,296),

イラクの人口はまぁ「2400万人」でいいような気がするんですが、バスラの人口は幅がありすぎてよくわかりません。140万と60万の間をとって「100万人」ぐらいにしておきましょうか。
日本の人口はここのところずっと「1億2千万人」ぐらいで、
人口推計月報・平成17年3月確定値,平成17年7月概算値
2004年の、ガンによる死亡者数は「309,465人」。10万人あたりだと「242.5人」です。
いろいろな事項についての10万人あたりの年間死亡数 2004年度版
日本の人口がイラクなみ(2400万人)だとすると、
2400÷12000×309465=61893で、約6万2千人
「全土で5000人がガンで死んでいる」というイラクのほうが、日本より全然ガン死亡率少ないんですが。
で、「バスラだけで603人(2001年)の死亡数」とのことですが、バスラの人口が「100万人」で計算すると、人口10万人あたり「60.3人」。
日本の死亡率の4分の1しかないんですが。
バスラの死亡数(603人)を24倍(100万人×24=2400万人=イラクの人口)してやると、14472人。
これでもまだ、人口比を同じにして計算すると日本のほうが4.3倍ほど多いんですが。
バスラの人口が60万人ぐらいだとすると、イラク全土のガン患者が2万5千人ぐらいになるんですが、それでもバスラのガン患者の数は、人口10万人あたり100人ぐらいで、日本の4割ぐらい
バスラの人口を25万人ぐらいにすると、バスラのガン発生率は日本と同じぐらいになりますが、イラクの人口が2400万人だとすると、ガン患者の数は「全土で2万5千人」ぐらいいないと、数が合わないです。
イラクの全人口を「206万人」(バスラが25万人)と考えればいいんでしょうが、
1・それだけの人間しか住んでいない、というデータは、あちこち探しても見つからなかった
2・その場合でも、イラクでのガンによる死亡率が、日本以上にはならない
ということで。
その他、イラクのガンの人について。
8・6ヒロシマ平和へのつどい2003

1988年にはガン発症は10万にたいして11人だったのが、2002年には123人も発症している。死亡も1988年には 340人が、2002年には6044人死亡している。

この「死亡」は「イラク全土」の死亡者でしょうか。ちょっと不明です。それにしても対日本比で少なすぎます
あと、森住さんのテキストでは、ガンの発生率は「88年1万人に15人だった。98年の調査では75人で5倍化。昨年は116人」と、ケタが違っています。
話している人が「ジュワード医師」と「イラクからきた医師のアル・アリさん」という違いはあるんですが、同じ国の統計なので、どちらかのイラクの人が嘘を言っているか、森住さんとそれ以外の日本の人とのどちらかが聞き間違えたんじゃないか、と思います(追記:すみません、「ジュワード・アル・アリ」という名前の、一人の人でした)。
ちなみに日本の大阪府ではこんな感じです。
大阪府がん登録:がんの罹患と予後

人口10万人当たりの罹患率(粗罹患率)は男434.3、女290.4でした。

10万人に対して発症率が「123人(2002年)」というのは、日本の場合の「ガンで死ぬ人(242.5人)」より少ない率になってしまいますが(いくらイラクでも、そこまで住み心地よくないと思います)、「1万人に対して116人(10万人に対して1160人)」という森住さんの数字は少し多すぎるような気がします。
以下のテキストは意味不明です。
イラク医師来広スケジュール

主な点は、アリさんによると、バスラでは、前回湾岸戦争前のがん発生率は10万人あたり11人(88年)だったのが、98年75人、2001年116人と激増していることを指摘。
死亡したこどもも、34人から603人に激増したことを報告しました。

「死亡したこども」なんて誰も言ってないみたいですが。空耳コンテストか何かですか。
結論。
なんか日本のほうが、「全土が劣化ウラン弾で汚染されている」らしいイラクより、はるかにガンのリスクは高いみたいなんですけど、イラク劣化ウラン弾が使われたことに抗議している人は、これでいいんでしょうか。
真面目にこのデータを考えると、イラクの「過去のデータ」はそもそもとてもちゃんとしたものではなかった(最近になってようやく信頼できる数値に近づいてきた。それもバスラのような都市部のほうが先行して)ということだと思います。
で、多分「ガンによるバスラの人の死亡者数・死亡率」は、今後数年で2001年の数字(603人)より4倍ぐらい上昇しても、それは絶対に劣化ウラン弾のせいではありません。統計データの収集が、正確なものに近づいた、というだけのことです。
バスラの人口が100万ぐらいだったとしたら、バスラで毎年2000〜3000人ぐらいガンで死んでも、それは普通です
イラクの人口が2400万ぐらいだったとしたら、イラク全土で毎年4万〜5万人ぐらいガンで死んでも、それは普通です。
ハンガリー国民のガンによる死亡率は、もっと高いです。
いろいろな事項についての10万人あたりの年間死亡数 2004年度版
ガンになる人は、ガンで死ぬ人より1.5倍ぐらい多いみたいなので、イラク全土で毎年6〜7万人ぐらいがガンになっても、それは普通です。