イラクの子どもたちの白血病(小児白血病)の増加について

「アルモーメンホテルの子どもたち〜がんと闘うイラクの家族」という番組については、以下のところの紹介がくわしいでしょうか。
BLOG IN PREPARATION: 劣化ウランによる人民の解放

NHK BSドキュメンタリー
「アルモーメンホテルの子どもたち」 〜がんと闘うイラクの家族〜
 
ヨルダンの首都アンマン。そこには「キングフセインがんセンター」という、がん治療では高い水準の医療技術を持つ施設がある。この数年、この施設でがん治療を受けるイラクの子供たちが急増しているそうだ。母国で家や家財道具を処分し、アンマンのアルモーメンホテルに滞在しながら治療を受けているイラク人親子が紹介されていた。
91年の湾岸戦争を境にして、イラクではがんや白血病を患う子供たちが急増している。小児がんの患者数は、1990年が19人であったのに対して2003年は183人と、約10倍に増加している。その原因は明らかにされてないが、米軍が使用している劣化ウラン弾の影響が大きいのではないかと指摘されている。
アメリカ政府はその影響を否定している。それはそうだろう。そしてこのイラク戦争においても劣化ウラン弾は使用されている。その使用量は微小なもので危険はないとしている米政府に対して、国連では放射能による悪影響を指摘している。イラク戦争でどのくらいの量の劣化ウラン弾がどの地域で使用されたのかは公開されていない。しかし市街地でもこの兵器が使用されていることが既に指摘されている。湾岸戦争時ではなかったことらしい。この影響から、数年後にはさらにがん患者数が増えることが懸念されている。
目にがんを患い、両目を摘出しなければならない少年。複数の内臓にがんが転移している少女。ある少女は白血病の影響で鼻血が止まらなくなっている。家財道具を売り払い、母親だけが子供に付き添っている。父親は他の家族とイラクに残っているが失業している。母親は独りで自分の子供に突きつけられている厳しい現実と向き合わなければならない。

まず、イラクの人が示した資料など。
’04平和考・京都:劣化ウラン弾の危険性認識を /京都(MSN-Mainichi INTERACTIVE 都道府県ニュース)(キャッシュ)

ハッサン医師によると、バスラでの小児のがん発症は湾岸戦争前の90年に19例(白血病15例)だったが、03年は183例(同94例)に=表参照。先天的奇形は90年の出生1000人当たり3・04人が、01年には同22・19人に増えた。「以前、出産した母親は赤ん坊が男か女か私に尋ねた。今は『普通か普通ではないか』と聞く」。そして、今回のイラク戦争で米軍が使ったDUは2000トンとも言われる。

「表」はこんな感じです。

◆バスラの小児がんの症例数

 (ハッサン医師まとめによる)

年  15歳未満人口総数 患者の数 10万人当たりの患者数
90  476549    19    3.98
93  518929    27    5.20
94  533877    21    3.93
95  459234    36    7.83
96  565055    38    6.72
97  581332    42    7.22
98  627754    42    6.69
99  605045    65   10.74
00  704015    92   13.06
01  792017   100   12.62
02  863909   160   18.52
03  824109   183   22.20

「先天的奇形」に関しては、韓国では2001年は「100人中1.7人(1000人中17人)」という話。
国内新生児、100人中1.7人が先天的奇形東亜日報
日本の場合は「約2〜3%(1000人中20〜30人)」
よく見掛ける小児の先天性疾患
日本のデータは、死産も含めての数字でしょうか。とりあえずイラクの人の「先天的奇形は90年の出生1000人当たり3・04人が、01年には同22・19人に増えた」という声は単純に、「90年の医学統計がおかしくて、01年のほうが正常」という判断をすべきでしょう。
で、「小児のがん発症」に関しては、このような資料もあります。
劣化ウラン弾による被害の実態と人体影響について

2002年12月1日、広島で開催された「イラクの医師を囲む集い」に講演者として招かれたバグダット大学医学部のジョルマクリー医師は、最新のデータを用いてそのことを明らかにしました。特に白血病の増加が特徴的で、バスラでの小児白血病(悪性)の発生数は、1994年〜1998年は24〜25人ですが、1999年は30人、2000年は60人、2001年は70人となっており、増加傾向が顕著に見られます。

そのデータを、「表」に加えてみると、こんな感じ。

年  15歳未満人口総数 患者の数(小児白血病の数) 10万人当たりの患者数
99  605045    65(30)       10.74
00  704015    92(60)       13.06
01  792017   100(70)       12.62
02  863909   160(?)        18.52
03  824109   183(94)       22.20

99〜01年の「患者の数」の増加は、ほとんど小児白血病の患者の人の増加だということがわかると思います。
あと、こんなのも。
小児がんの生存率

小児がん、すなわち15歳未満で診断された悪性腫瘍は、小児の死因として重要な位置を占めてきた。ところが、小児におけるがん死亡は、死亡数・率ともに減少する傾向にある。例えば、大阪府において1972-95年の24年間を6年ごと4期間に分類して観察すると、小児人口100万人あたりのがん死亡率(粗率)は第1期48.5から第4期32.6に減少した。一方、同期間に、がん罹患率(粗率)は109.7から134.0に増加しているため、この期間の小児がん死亡率の減少は、診断・治療技術の改善による影響と推察される。

アメリカの子どもと環境

小児がん

新たな小児がんの発症件数は1990年以来一定となっている。年齢調整した年間の小児がん発症率は1975年から1998年の間に子ども100万人当り128人から161人に増加した。がん死亡率は1975年から1998年の間に子ども100万人当り51人から28人に減少した。(P.79)
白血病は1973年から1998年の間では、小児がんの約20%を占める最もよく見られる小児がんであった。急性リンパ芽球白血病は1974年から1978年の間では100万人中24人であったが、1994年から1998年の間では100万人中28人であった。急性リンパ脊髄白血病は1974年から1998年の間では100万人中5人であり、1994年から1998年の間も同程度であった。(P.81)

日本(大阪)とアメリカの違いはありますが、
1・小児人口100万人あたりの小児がん発症率は、120人から150人ぐらい(10万人計算だと12〜15人ぐらい)
2・そのうち、白血病は20%ぐらい
ということのようなので、イラクのデータにおいては、99〜01年は、小児白血病の数(%)を20%と考えると想定の範囲内になります(実際にはそれより多いのが問題です)。
03年の「183例」から、「白血病」の「94例」を引いて(89例)、それが全患者の「8割」(白血病が2割)だという数字を出してみると、推定できる数字は「111例」で(10万人あたり13.5人)、これも想定の範囲内です。
要するに、ここ数年のイラクの状況で気になるのは、小児白血病だけ、ということになります。
というと、「やはり小児白血病の増加は、劣化ウラン弾のせいではないか」と思う人も多いかもしれないですが、実は小児白血病の原因は、はっきりしていません。正確にいうと、複雑な要因があって、その中に「放射性物質」の影響を入れることも不可能ではない(可能性は否定できない)ですが、具体的・直接的な影響ははっきり否定されています
白血病原子力百科事典 ATOMICA)

白血病の原因は殆ど解明されていない。ごく一部だが電離放射線ベンゼンやアルキル化剤などの化学薬剤、ヒトT細胞白血病ウィルスなどのウィルスによって、白血病の発症率が増加することが報告されている。現在のところ白血病は「遺伝的素因のうえにウィルス、化学物質、放射線などの環境因子が重なりあって誘発される」と推定されている。

そのあとにこういうテキストもありますが、これは成人の白血病なわけで。

白血病放射線被ばくとの相関性について次に述べる。放射線および放射性物質の管理が行き届かなかった時期にはかなりの発症があったと推定されており、放射性同位元素ラジウムの発見者であったキュリー夫人白血病で亡くなったのではないかと言われている。白血病放射線との相関性はヒトでは被ばく者集団における疫学的調査において、線量・反応関係が樹立された場合のみ関連ありとする。その中で、広島、長崎の原爆被ばく生存者の調査研究が最も大規模であり、その他に強直性脊椎炎 X線 治療患者、胸腺肥大X線治療児などの調査研究がある。原爆被爆者を対象にした研究結果では推定全身被ばく線量が0〜20cGy(センチ・グレイ)のほぼ8500人では発症は非被ばく者発症予測値の1.1倍、21〜80cGyでは、ほぼ13000人のうち発症は同予測値の2倍、81〜320cGyでは、ほぼ8600人のうち発症は同予測値の12倍と、被ばく線量に応じて発症が予測値より増加していることが認められる。

以下のテキストでは、「化学物質」に重きを置いた検証をしています。
有毒化学物質と小児がん:証拠の検証

農薬曝露に関するある研究では、白血病の子どもたちは病気でない子どもたちに比べて、4〜7倍、庭や公園で殺虫剤に曝露していた可能性があることを示している。他の研究では、白血病の子どもたちは健康な子どもたちに比べて、11倍、妊娠中に殺虫剤の噴霧に曝露した母親を持っているらしいことを示した。父親が曝露していない子どもたちに比べて、父親が職業上、工業製品中に使われているベンゼンやアルコールに曝露している子どもたちは、父親の曝露が妊娠前なら、6倍近く、白血病になりやすい。ニュージャージー州ドーバー・タウンシップでは、白血病の子どもたちは、白血病ではない子どもたちより5.4倍、ライヒ農場汚染地(Reich Farm Superfund)、あるいは近くの工場施設からの工場廃水により汚染されたことのある地下水範囲にある個人の井戸水を飲んでいた。他の研究では、急性非リンパ球白血病(ANLL)の子どもたちは、ANLLではない子どもたちより2.4倍、その親たちが職業上、石油化学品に曝露していた。

ということで、「小児白血病 原因」でgoogle検索すると、
小児白血病 原因 - Google 検索
実は一番多いのが「電磁波」だったりするので、それは置いておいて(ちょっとデンパなサイトがいろいろあります)。
テキストとして読んだのでは、以下の奴が参考になりました。
クラスターする子どもの白血病(2)医学書院/週刊医学界新聞)

〔第27回〕クラスターする子どもの白血病(2)
 
作家マーク・トウェインは,世の中には3種類のウソがあると述べています。1つは単なるウソ,もう1つは本当のことを黙っているウソ,そして統計学を使ったウソ。つまり,統計学を中途半端に用いると,もっともらしくウソをついてしまうことになりかねません。特に陥りやすい過ちは,相関関係をもってして因果関係とすりかえてしまうことです。
 
ウーバンで集積する癌−住民の訴え
ウーバンはボストンから17キロの距離にある人口3万7000人の町です。130年以上も前から工業地帯として栄え,大きな化学工場や革加工センター,駆虫剤用の砒素工場,織物,紙,にかわ工場などがありました。ウーバンの水は8つの市営の井戸より供給されていましたが,そのうち2つはウーバン東部に位置し,同一の水源でした。この2つの井戸水より,ダイオキシンなどを含む有害物質が見つかり,問題となりました。この地区では,以前から水が濁っていたり臭ったりで,住民から「何とかしてほしい」と訴えが続いていたため,騒ぎとなりました。そして,有機化合物の発見された井戸の付近に穴が掘ってあり,化学廃棄物が放棄されているのが発見され,さらに1979年10月に地区の牧師が,「最近15年間で町のある地区の子どもに10人もの白血病患者が発生している」と報告したことにより,大問題に発展しました。そこで,マサチューセッツ州の公衆衛生局はCDC(米国疾病管理・予防センター)と協力してウーバン住人の健康に何が起こっているのかを調査することにしました。
 
確かに癌発生率が高い
それぞれの疾患に対する期待値は国の行なったデータ(年齢と性を含む)から得ました。本調査において1969−1979年の間,ウーバンにおける小児白血病の頻度は明らかに高くなっていました。5.3人の期待値に対して12人が実際観察されたのです。その傾向は男児に強く,3.1人の期待値に対して9人の白血病が観察されました。特に小児白血病はウーバン東地区に多発しており,その頻度は少なくとも期待値の7倍であり,男児に限ってみれば12倍と非常に高くなっていました。腎癌でも同様で,19.4例が期待値であるのに対して30例が観察されました。やはり男性でその傾向が強く認められました。腎癌患者さんの20年前の居住地を調査したところ,ウーバンのある地区に多発していることが確認されたのです。

化学物質の次に興味深いのが、ウィルス仮説です。
英国における原子力施設周辺の小児白血病原子力百科事典 ATOMICA)

1994年の論評(文献8)によると、父親の受胎前被ばくとその子供の白血病の発生率との間には関連性があるという仮説は、放射線遺伝学の知見においても、小児白血病の遺伝性に係わる知見においても、またその他の放射線および白血病リスクに関する研究からも支持できず、おそらく父親と白血病との関連性は偶然による可能性が高いこと、またもう一つの可能な説明としては、Kinlenのいう都市部、或いは農村部からの人口流入説もあるが、この説だけでは説明できず、恐らく種々な原因の中の一つであろうとしている。
スコットランド北部のドーンレイ再処理施設から25km以内で、1968〜1991年にわたり、0〜24歳の年齢層での白血病非ホジキンリンパ腫の発生率の期待値5.2に対して、観察値12と約2.4倍で有意(p=0.007)な集積性が観察された。さらに1985〜1991年では観察値/期待値は4/1.4で約3倍で有意(p=0.059)であった。しかしながら、セラフィールド施設で見られたような、高い発生率と父親被ばくとの関係は見られなかった(文献9)。
イングランドウェールズにおける原子力施設周辺25km圏と6つの対照地域の発症率を調査した。このうち子供の白血病が有意に高かった施設は2つで、1つはセラフィールドで、もう1つはアルダーマストン・バーグフィールドで観察値/期待値=219/198.7=1.10(p=0.031)であった。これらから、すべての原子力施設近辺で白血病の過剰発生があるとは言い切れない(文献10)。
イングランド北部で1968〜1985年の間に急性リンパ性白血病と診断された15歳未満の小児について地域集積性について調査したところ、5地域に集積が認められたが、放射線以外の環境要因による可能性が高いと報告されている(文献11)。

小児白血病をめぐる永い話も漸く結末か?

1991年〜:広島・長崎の原爆例では早速親子の関係で再調査がなされたが、ガードナー仮説を支持する結果は得られなかった。その後いろんな原子力施設でその従業員の子供についての調査がなされたが、いずれも答えはNoであった。では一体シースケールでの白血病多発の原因は何か。これについてガードナー仮説が出された時に、別の解釈としていろんな説が出された。そのなかにキンレンのニュータウン説というのがあった。それは、新しい核施設では、人里離れたところにいろんな所から人を集めてニュータウンが作られる。このような場所では、免疫のない人々(特に感染しやすい乳幼児)と、感染因子(例えばウイルス)を保持した人とが接触し、その結果小児白血病が多発するのではないか、というものである。キンレンはこの考えのもとに、新しい工業団地と大都会周辺の町について調べて工業団地のニュータウンでのみ小児白血病の多発を認めたので、この説が正しいとしていた。

ここで気になるのは、イラク(バスラ)の人口増加です。

年  15歳未満人口総数 患者の数(小児白血病の数) 10万人当たりの患者数
99  605045    65(30)       10.74
00  704015    92(60)       13.06
01  792017   100(70)       12.62
02  863909   160(?)        18.52
03  824109   183(94)       22.20

「15歳未満人口総数」が、5年間で20万人も増えている都市は、大都市だったらともかく、人口100万程度の都市ではあまりないと思うのですが。
バスラの人口は不明な部分も多いんですが、以下のところだと、「人口約154万人」(2003年)で、
バスラの市民と子どもたちが危機に瀕している
俺が見た限りではこれが一番多い数字だったですが、そうすると全体の50%ぐらいが「15歳未満」でしょうか。そんな国・都市が他にあるかどうか、ちょっと調べてみたんですがわかりませんでした。
日本の場合だと、現在はとても少なくて総人口の15%ぐらい。
統計局インフォメーション(NO.156)

平成11年4月1日現在のこどもの数(15歳未満人口。以下同じ。)は1888万人で,前年より31万人減少し,1900万人を下回った。男女別では,男性が968万人,女性が921万人で,女性100人に対する男性の数(性比)は105.1となっている。
総人口に占めるこどもの割合は14.9%で,前年より0.3ポイント低下し,初めて15%を下回った。

一番子供の割合の多かった(と思われる)1950年あたりで35.4%。
「こどもの日・こどもの数」27年連続の低下−総務省15歳未満人口推計−

年齢区分別人口の割合の推移を見てみると、50年前の、1950年には15歳未満人口は、全体の35.4%、65歳以上人口は4.9%だった。

バスラの「15歳未満人口総数」の増加は、とても自然増とは思えないぐらいの増えかたなので、小児白血病の子供の増加は、「劣化ウラン弾」の影響だけではなく、「ウィルス」や「化学物質」の影響も同程度に考慮に入れないといけないでしょう。俺個人は、ウィルス・化学物質の影響が主だと思いますが。
いずれにしてもともかく、充分な治療が受けられないという、これはイラクの子供たちに限らない、全ての難病な子供たちに対して想像力を働かせなくては、です。
 
これは以下の日記に続きます。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050920#p2