ブッシュ大統領が言ってもいないことが聞こえる朝日新聞「素粒子」のソラミミ度について

2005年11月10日の朝日新聞夕刊コラム「素粒子」に、以下のテキストが載ったわけですが、

ブッシュ大統領と会見した本紙記者によれば、大統領は「小泉首相靖国参拝による日中、日韓の 関係悪化がアジア戦略の阻害要因となり、アジアにおける米国の国益に反する」とみているらしい。さあ、どうする、忠実なる追従者にして参拝命の君としては。
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国会議員へ酒政連による現金攻勢。「法律を金で買うという判断だった」と元理事。金さえつかませりゃ何でもするのが政治家、と判断されとるんだな、やっぱり。

ブッシュ大統領の発言に対する朝日新聞の記事は以下のところにあるわけですが、
ブッシュ米大統領会見要旨朝日新聞
この記事の中で「靖国」に言及しているテキストは以下の通りです。

日中関係
――日中関係ですが、中国側からは小泉首相靖国神社訪問への批判と懸念の声が出ています。関係悪化は米国のアジアにおける国益にも影響を及ぼしますが、米国は何ができますか?
私にできることは日中の両首脳に対話を促し、将来を見据えながら過去を過去のものとするよう働きかけることだ。韓国の指導者に対しても同じことがいえる。過去のいくつかの出来事の結果、大きな緊張を招いていることは分かる。日米も一時は不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だったが今では友人だ。過去を忘れることは難しいが、可能だ。
私が役に立てるとすれば、「各国が過去の相違を克服して将来に焦点を当てれば、いかに(地域の)将来が希望のもてるものになりうるか」ということを話すことだ。日中間の資本の流れをみれば、相当量の投資がある。関係が改善する可能性がある。

これを見る限りでは「小泉首相靖国参拝による日中、日韓の 関係悪化」、要するに「小泉の靖国参拝が悪い」とは一言も言っていないようですが、それは俺のテキスト解釈が悪いんでしょうか。
同じような内容の記事は、産経新聞にも掲載されていましたが、そちらはこんな感じ。
日中悪化 靖国問題と区別 ブッシュ大統領が見解産経新聞

【ワシントン=古森義久】米国のブッシュ大統領がアジア歴訪の前のアジア各国の一部マスコミとの会見で、小泉純一郎首相の靖国参拝のために日中関係が悪化した」という見解を排したことが九日、明らかになった。
ブッシュ大統領アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席などのためのアジア歴訪を前にした八日、訪問先の日本や中国の一部マスコミとの一連のインタビューに応じ、そのうちNHKとの会見で日中関係に関連して「日中関係小泉首相靖国神社参拝のために悪化しているが、この参拝をどうみるか」との質問を受けた。
同大統領はこれに対し、「日中関係は単なる神社への参拝(をめぐる論議)よりもずっと複雑だと思う」と述べて、日中関係悪化をすべて靖国問題に帰する質問者側の見方を明確に排除した。
ブッシュ大統領はそのうえで、「日本の多額の対中投資も両国関係の一面であり、(一方で)もちろんいま緊迫している政治的な側面もある」と述べ、日中関係の緊迫も「政治的」という表現で総括して、靖国と関係悪化を直接にリンクさせる質問者側の前提を最後まで排する形となった。

素粒子」の解釈、産経新聞は全面否定しています。
ということで、元のテキストを探してきたので、ここにおいておきます。
アメリカの大統領の記者会見は、原則としてすべてオフィシャルなものなので、オフィシャルな形で公開しています。
公開している場所はこちらです。
Latest News
いろいろな国に同じようなことを毎日言わなければならないブッシュ大統領(多分世界一忙しい元首)も大変だとは思いますが。
で、問題の「アジア歴訪の前のアジア各国の一部マスコミとの会見」のテキストは、以下のところにあります。
Roundtable Interview of the President with Foreign Print Media
この中の「靖国」に関する言及部分は、こんな感じです。

Q Okay, Mr. President, thank you. It seems the relationship between Japan and China is currently at an all-time low. We have heard criticism, concern voiced by China about Prime Minister Koizumi's recent visit to Yasukuni Shrine. This is, Mr. President, historically, a sensitive issue between the two countries. As poor relations between Japan and China have a significant impact on U.S. national interests in Asia, I suppose, what can the United States do to address the worsening relationship between the two countries -- I mean, Japan and China -- and how would you like to rebuild U.S., Japan and China relations as a part of your comprehensive diplomacy towards Asia?
THE PRESIDENT: What I can do is to urge the leaders of not only China and Japan to dialogue, and to try to get the past behind them as we move forward, but also to do the same with the South Korean leader. I think the issue that you described goes beyond just Japanese-Chinese relationships, it's probably Japanese-South Korean relationships, as well. And my point to not only the Prime Minister of Japan but to the respective Presidents is that, look, I understand that there is great tension as a result of some events that took place in the past. But the United States and China -- I mean, the United States and Japan at one time were sworn enemies. And now here we are sitting down as friends. In other words, it's possible to forget the past -- it's difficult, but it is possible.
So I think a useful role for me will be to paint a -- talk about the future and talk about how optimistic the future can be, particularly as nations are able to work out past differences and focus on what's -- and focus on the future. No question that there's tension. On the other hand, if you look at capital flows between Japan and China, there is a significant amount of investment taking place, which indicates to me that there is a possibility for the relations to improve over time. In other words, not all aspects of the relationship is negative.

「result of some events」が「靖国参拝」のことだと解釈するのは、いささか無理があるように、俺には思えます。
ちなみに、この記者会見でこの質問をした人間は「Mr. Nishimura」という人物のようですが、もしこれが朝日新聞の記者だとしたら、それは「朝日新聞米国総局長の西村陽一」で間違いないでしょう。
西村陽一 朝日新聞 - Google 検索
なおこの記者会見とは別に、NHK独自の会見にもブッシュ大統領は応じたようで、そちらのテキストは以下のところにあります。
Interview of the President by NHK Television, Japan
その中での靖国に関する質問と回答は以下のとおりです。

Q -- in economics and military power. I see in many aspects Japan and the United States is cooperating. But Japanese relationship with China is aggravating because of Prime Minister's visit to Yasukuni Shrine. How -- what do you -- how do you view this visit?
THE PRESIDENT: Well, first of all, I think the relationship between China and Japan is more complicated than just a visit to a shrine. In other words, there's a lot of Japanese capital investing in China, which is one indication of the relationship, and, of course, there's the political side which I understand is strained right now.
And so it seems like a proper role for me is to remind our friends in the region that it takes work to overcome the past. But overcoming the past is going to be necessary to have a bright future. I remind people that the United States and Japan were sworn enemies at one time. And we worked -- we've worked to overcome that. And now we're close allies. And the same is possible with other countries in the region between Japan and those affected by World War II.

靖国神社参拝程度の単純なことではない」と、NHK側の誘導尋問に対してまっこうから反論を述べています。要するに「日中、日韓の 関係悪化は、小泉首相靖国参拝によるものではない」というのがブッシュ大統領の考えのようですね。
で、また朝日新聞素粒子」の引用に戻りますが、

ブッシュ大統領と会見した本紙記者によれば、大統領は「小泉首相靖国参拝による日中、日韓の 関係悪化がアジア戦略の阻害要因となり、アジアにおける米国の国益に反する」とみているらしい。さあ、どうする、忠実なる追従者にして参拝命の君としては。

と、他の人には見えたり聞こえたりしないものが見えたり聞こえたりする上に、それをコラム記事にしてしまうような朝日新聞の人(多分小池民男河谷史夫という記者というか論説委員の人だと思いますが)による、「どうする」という質問の回答としては、以下のような回答が割といいのではないか、と思いました。
政府、インターネットTV開設・10日から動画配信日本経済新聞

政府は10日から、首相官邸の動きをインターネットで紹介する「政府インターネットテレビ」を開設する。小泉純一郎首相の公務や安倍晋三官房長官の記者会見を無料で動画配信する。アドレスは(http://nettv.gov-online.go.jp/)で、首相官邸ホームページなどにあるリンクからも移動できる。 (21:00)

このテキストは、2ちゃんねるの以下のスレッドの記述をだいぶ参考にしました。
☆朝夕の娯楽★天声人語&素粒子。41的に引用中★