国連人権委員会とその関係者を政治的に利用している人たち(1):石原慎太郎発言の歪曲報道について

こんな記事が例によって朝日新聞に載ったわけですが、
石原氏の演説、「差別的」と報告 国連人権討論朝日新聞

2005年11月08日13時20分
人権問題を扱う国連総会の第3委員会で7日、国連人権委員会の人種差別問題に関する特別報告者のディエン氏(セネガル)が、人種差別や外国人差別に関する調査報告を行った。ディエン氏は日本についても言及。質疑応答の中で「東京都知事外国人差別的演説」についても取り上げた。
ディエン氏は、今年7月に行った日本での現地調査の結果として「日本には外国人差別や外国人排斥が存在する」として、在日韓国・朝鮮人や中国人、新たにアジアやアフリカ諸国から来た人々が差別などの対象になっていると指摘。中国代表の質問に答えて「東京都知事外国人差別的発言に対して、日本の当局がよりはっきりした態度を打ち出すなど、人種差別と戦う政治的な意思が求められる」とした。
石原慎太郎都知事は2000年4月に「三国人(さんごくじん)、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、大きな災害では騒擾(そうじょう)事件すら想定される」と発言するなどしている。

で、例によって産経新聞がネタにしているわけですが、
【主張】国連人権委 理解に苦しむ「差別」指摘(産経朝刊 主張(11/10))

国連総会第三委員会(人権)で、ディエヌ特別報告者(セネガル)は日本に在日韓国人朝鮮人への差別や同和問題が存在すると指摘した。これを受け、近隣諸国が一斉に日本を批判した。
とりわけ問題だと思われるのは、中国代表の「悪名高い東京都知事らの人種差別主義的な発言がある」という発言である。ディエヌ氏も「外国人差別的な東京都知事の発言に日本政府がどういう立場を取っているのか、説明を求めたい」と中国に同調した。
石原慎太郎都知事を指すとみられるが、どんな発言が差別的とされたのか、よく分からない。日本の一部新聞は平成十二年四月の「三国人」発言を例示しているが、そうだとすれば、誤解を多く含んだ批判である。
石原知事は自衛隊の式典で、「不法入国した三国人、外国人」による凶悪犯罪が多発している事実を指摘したが、通信社が「不法入国した」という部分を省いて報じたため、「三国人」という言葉だけが誇張されて世界に伝えられた面が強い。
また、平成十五年十月の集会で、石原氏が日韓併合を「私は百パーセント正当化するつもりはない」と述べたのを、一部民放は「百パーセント正当化するつもりだ」と誤報した。
日本のマスコミの一部に、特定政治家の発言の真意を伝えず、片言隻句をとらえて批判する風潮がある。こうした一面的な報道に基づいて、日本に外国人差別があると指摘しているのなら、筋違いの批判である。
国連総会第三委員会では、欧州連合(EU)が拉致事件を含む北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を提出し、今月末までに採決に付される予定だ。第三委員会では、この問題こそ真剣に議論されるべきではないか。中国も国内で人権問題を抱えている。
日本は平等の思想が普及し、障害者らを思いやる意識も高まっている。日本代表も「何らかの形の差別が存在しない国はほとんどない」と述べ、教育分野での差別解消に向けた取り組みを強調したが、まだ反論が不十分だ。
日本側は中国などの批判の中身をただしたうえで、もっと具体的に反論すべきだった。日本の国や政治家の名誉にかかわる誤解を正すことも、外交官の重要な役割の一つである。

このネタは、いろいろツッコミどころが多いので長い&引用の多いテキストになります。
まず、石原慎太郎都知事の「三国人」発言は、以下のところに要旨が掲載されています。
00年4月9日、陸上自衛隊第1師団(練馬駐屯地)での「創隊記念式典」に出席して行った石原慎太郎知事の発言要旨
もう少しオフィシャルなものが見つかるといいのですが、こんなところがポイントでしょうか。

先ほど、師団長の言葉にもありましたが、この9月3日に陸海空3軍を使ってのこの東京を防衛する、災害を防止する、災害を救急するという大演習をやっていただきます。今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪をですね、繰り返している。もはや東京における犯罪の形は過去と違ってきた。こういう状況を見まして、もし大きな災害が起こった時には大きな大きな騒擾(そうじょう)事件すらですね想定される、そういう現況であります。こういうものに対処するためには、なかなか警察の力をもっても限りとする。ならぱですね、そういう時に皆さんに出動願って、都民のですね災災害の救急だけではなしに、やはり治安の維持も、一つ皆さんの大きな目的として遂行していただきたいということを期待しております。

日本国内では石原慎太郎のこの発言は、「三国人」という言葉に違和感を感じはするものの、人種的差別意識を背後に持ったものではなく、「不法入国した」を省略した報道の歪曲ぶりが問題になっていたと思うのですが、朝日新聞はこう書いていたので、

石原慎太郎都知事は2000年4月に「三国人(さんごくじん)、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、大きな災害では騒擾(そうじょう)事件すら想定される」と発言するなどしている。

世界的には間違った情報が流れている(流れ続けている)のではないか、という疑問を感じました。
なお、この件に関します、やはり国連人権委員会の意見については、こんなものもありますが、
人種差別の撤廃に関する委員会 第58会期人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解(仮訳)

委員会は、高官による差別的発言及び、特に、本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念を持って留意する。締約国に対し、将来かかる事態を防止するために適切な措置をとり、また本条約第7条に従い、人種差別につながる偏見と戦うとの観点から、特に公務員、法執行官、及び行政官に対し、適切な訓練を施すよう要求する。

もうずいぶん前に外務省が公式に、以下のようなことを言っています。
人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出

パラ13の「委員会は、高官による差別的発言及び、特に本条約第4条(c)に違反する結果として当局がとる行政的又は法的措置の欠如や、またそのような行為が人種差別を助長し扇動する意図を有している場合にのみ処罰可能であるとする解釈に、懸念をもって留意する。」に関し、
(1) 第4条柱書は、締約国が非難すべき対象を、ある人種の優越性等の思想若しくは理論に基づく宣伝等又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てる宣伝等に限定していることからも明らかなように、同条は、人種差別の助長等の意図を有する行為を対象として締約国に一定の措置を講ずる義務を課しており、そのような意図を有していない行為は、同条の対象とはならないと考えている。
(2) かかる解釈をとっている国は我が国のみではなく、例えば英国の1986年の公共秩序法第18条第5項には、「人種的憎悪を扇動する意志があったことが証明されなかった者は、その言葉、行動、筆記物が脅迫的、虐待的、侮辱的であるとの意識がなくかつそれに気づかなかった場合には、本条の下の犯罪として有罪にはならない。」と規定している。
(3) また、「人種主義とメディア」に関する共同声明(意見と表現の自由に関する国連特別報告者、メディアの自由に関するOSCE(欧州安保協力機構)代表及び表現の自由に関するOAS米州機構)特別報告者による共同声明)の中でも、差別的な発言に関する法律は、「何人も、差別、敵意ないし暴力を扇動する意図をもって行ったことが証明されなければ、差別的発言(hate speech)のために罰するべきではない。」とされている。

要するに、「石原慎太郎の発言は、人種差別の助長などの意図はない」「差別、敵意ないし暴力を扇動する意図はない」ので、特に問題はない(表現の自由の範囲内である)というのが、国連に対する日本政府の公式回答です。「三国人はみんなバカかキチガイ」というような発言を、石原慎太郎がしていたとしたら、それは日本政府も問題にするとは思いますが、「不法入国した多くの三国人、外国人」に限定した発言では、人種差別的意図を読み取るのは難しいのでは、と俺も思います。
「国連人権委員会の人種差別問題に関する特別報告者のディエン氏(セネガル)」は、この回答を見たことがなかったのでしょうか。
これは以下の日記に続きます。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20051115#p1