「帝国日本軍を解放者として述べる者はいなかった」というハイド上院議員はアジアのどこに行って、誰と会ったのか

以下のところから、
Let's Blow! 毒吐き@てっく: 靖国・遊就館と従軍慰安婦@米下院
和・・輪・・倭・・環・・話・・わぁ〜:朝日社説☆靖国批判 米国からの問いかけ
こんな社説があったことを知ったわけで、
asahi.com :【社説】2006年09月17日(日曜日)付:靖国批判 米国からの問いかけ
全文は紹介したブログを見てもらうことにして、ぼくが気になったのは以下のところでした。

(前略)
与党共和党のハイド外交委員長は、靖国神社戦争博物館遊就館」を取り上げた。「日本がアジア・太平洋の人々を西洋帝国主義のくびきから解放するために戦争を始めた、と若者に教えている。私が会った日本の占領を体験した人は、だれも日本軍を解放軍とみていない」

この「米下院の外交委員会」に関する元テキスト(ソース)とその翻訳は、いろいろなところで紹介されていて、また例によって、日本の一部報道人が情報の一部しか報道していないな、と話題になっているわけですが。
【音静庵】 鏡の間: ■一次資料
「米下院:日本と近隣諸国に関する聴聞会」報道まとめ
それらの情報によると、ハイド外交委員長のテキストはこんな感じみたいです。
この委員会のハイド委員長のオープニング・ステートメント(原文・pdf)

Well, I have just visited Korea, the Philippines, Singapore, and the Solomon Islands. And I can tell you that, while some spoke frankly of bitter experiences remembered during the Japanese occupation, not one person in any of these countries told any member of our delegation that they fondly remembered the Imperial Japanese Army as liberators.

その翻訳。

そう、私はちょうど韓国、フィリピン、シンガポールソロモン諸島への視察から戻ったばかりであります。日本占領時代の経験を苦々しく率直に語るものはあっても、帝国日本軍を解放者として愛情をこめて我々の視察団メンバーの誰かに対して述べる者は一人もいなかったと語ることができます。この博物館で教えられている歴史は事実に基づいておらず訂正されるべきです。

ここでは「視察」「視察団」と訳されてますが、別に普通に「訪問」「議員団」という訳でもいいかな。別に「視察」したわけではないみたいなので。
じゃあ何でそれらの国々に行って、誰と会ったのか、については、以下のところを見るとわかります。
U.S. House of Representatives/Committee on International Relations
Committee on International Relations/Press
Hyde Comments on Visit to South Korea(2006年8月1日)

WWII Veteran Supports Transfer of Operational Control of Republic of Korea Armed Forces; Pays Tribute to General MacArthur at Inchon

Hyde Comments on Visit to the Philippines(2006年8月12日)

WWII Veteran leads bipartisan delegation to key ally in war on terror

Hyde Comments on Visit to Singapore(2006年8月15日)

WWII Generation Leaders Exchange Views on Staying the Course in the International Campaign Against Terrorism

Hyde Comments on Visit to Guadalcanal(2006年8月16日)

Commemorates WWII Battle on Sixty-First Anniversary of V-J Day

対日戦勝記念日」を祝うメンバー(退役軍人)に会って何かをアメリカ人が聞いても、日本人統治時代の悪口を言う人の話しか聞けないと思うんですが。
それは「2ちゃんねるのあちこちの板を見たが、新聞については「あんなもんなくてもいい」「あるだけ無駄」という意見ばかりだった」というのと似たようなもの。
フィリピン訪問の記事はこちらとか。
Philippine News Online: Vets’ bills on solons’ agenda in Manila visit

Sen. Daniel K. Inouye (D-Hawaii) and member of the powerful committee on appropriations, is expected to arrive in Manila this Friday (Aug. 11) for a three-day visit. Rep. Henry J. Hyde (R-Illinois), chairman of the House international relations committee, will lead a five-member bipartisan congressional delegation middle of this month on an Asian trip that includes Japan and North Korea.
(中略)
The congressional delegation will meet with Defense Secretary Cruz, among other things. Hyde, who’s stepping down from Congress in December after three decades, will also make a sentimental fly-over in Lingayen, where he saw action during the war.

もう少しくわしく調べたい人は、いろいろ見てみてください。
韓国の場合は、「マッカーサーの仁川(インチョン)上陸」に関するイベントだったのかな。
韓国でのスピーチ全文は以下のところにあるので、
Henry J. Hyde: Remarks at MacArthur Wreath Laying
「Institute for Corean-American Studies(ICAS)」という団体が招待したのかな(なんでKoreaじゃなくてCorea?)。
とりあえずハイド議員がものすごくマッカーサー元帥を崇拝していることはわかりました(韓国でちょっとそのスピーチ浮いてしまってるかも)。
ICASのホームページはこちら。
Institute for Corean-American Studies
ここに「Tokyo」って書いてあったんで検索してみたんだけど、日本(東京)支部はどこにあるか不明でした。
ICASに掲載してあった、日本人のテキストとしては、こんなのとか。
Takehiro Funakoshi Paper:The Japan-US Security Relations:The Implication for the Korea-US Security Relations
Takehiro Funakoshi Biographic Sketch
この「Takehiro Funakoshi」というのは、外務省の「船越健裕」さんですね。
外務省 船越健裕 - Google 検索
なんか、どんどんすごいところに来ているので、引き返します。
しかし、アメリカだとこんなのがあるのか。
Congressman Henry Hyde News - U.S. Politics Today
Henry Hyde News
そこまでヘンリー・ハイドさんが好きなわけではないのでどうでもいいですが。普通にGoogleアラートで「Henry Hyde」をキーワード登録して、メールでその記事が出たら教えてもらうようにするといいのでは。
なお、ハイド議員が「ソロモン諸島」に行ったというのは、正確には「ガダルカナル」かな。まぁ他の国も国名になっているので、表記的に間違いではないんですが、外交委員会のスピーチでは「ソロモン諸島」と言い、「Committee on International Relations」のサイトでは「Guadalcanal」という記述になっているのが気になりました。。
ということで、

そう、私はちょうど韓国、フィリピン、シンガポールソロモン諸島への視察から戻ったばかりであります。日本占領時代の経験を苦々しく率直に語るものはあっても、帝国日本軍を解放者として愛情をこめて我々の視察団メンバーの誰かに対して述べる者は一人もいなかったと語ることができます。この博物館で教えられている歴史は事実に基づいておらず訂正されるべきです。

という、ヘンリー・ハイド氏のスピーチは、多分に国内の退役軍人(第二次大戦経験者)を意識したアピールだと思って、「日本占領時代の経験を苦々しく率直に語るもの」についても、割り引いて判断する必要があります。
ただし、
それとは別に、外務省の以下のような「対日世論調査」もありまして、
ASEAN諸国における対日世論調査(2002年)
そこではこんな感じです。

第二次世界大戦中の日本について、
「悪い面はあったが、今となっては気にしない」
インドネシア:44%(48, 52) マレーシア:50%(43, 33) フィリピン:51%(37, 37)シンガポール:62%(47, 44) タイ:45%(46, 36)ベトナム:71%
「悪い面を忘れることはできない」
インドネシア:25%(33, 29) マレーシア:22%(32, 40) フィリピン:33%(36, 37)シンガポール:31%(41, 31) タイ:18%(24, 18)ベトナム:12%

つまり「気にしない」のほうが多いとはいえ「忘れることはできない」という人たちも、無視できないくらいの割合では存在している、ということですね。何があったのかは不明ですが、インドネシアの「気にしていない」人が減っているのは気になります。(カッコ内は97年及び92年の回答率)
(2006年9月20日記述)