NHK番組改変問題8―取材・報道への指摘について

NHK番組改変問題8―取材・報道への指摘について朝日新聞2005年07月25日06時02分)

 ●中川氏と松尾氏は放送前日面会したのか

NHKへの内部告発コンプライアンス推進委員会への申し立て)では、中川、安倍両氏は番組が放送される前日の01年1月29日に松尾氏らと面会し、放送中止を求めたと指摘されていた。取材に対し、中川氏も松尾氏もこの面会を認めた。
しかし、今年1月の記事掲載後、中川氏とNHKは(1)会ったのは番組放送後の2月2日(2)NHK側の面会者は松尾氏ではなく、番組制作局長の伊東律子氏――と主張した。NHKは、この番組をめぐって損害賠償を求められた訴訟でも同様の主張をしている。
1月29日の面会を認めていたことについて、中川氏は記事掲載後、「内部告発の証言があるなどと言われると、そちら側の主張を前提に議論しがちになる」と説明した。面会日について「放送の後か先かは定かでないと随分申し上げた」とも話しているが、取材中にそうした発言はなかった。
今回の再取材では、放送前日に5人前後の議員を訪問する予定があったというNHK内部の情報も得られた。NHK側と安倍氏との面会は29日。平沢勝栄衆院議員も同日に面会したとみられる。「記憶は薄れているが、29日だと思う」と話す議員もいる。
中川氏と松尾氏の面会については確定的な情報は得られていないが、放送前に中川氏が騒いだのを知っており内容を修正した、とNHK幹部が発言していたという総務省関係者の新たな証言が得られた。

 ●中川、安倍両氏は松尾氏を「呼び出した」のか

松尾氏は当初の取材時に、「放送前日に中川、安倍両氏が松尾、野島両氏を呼び、放送中止を求めた」とする内部告発の内容を説明された後、国会議員に呼ばれたのは「その1回だけだった」などと答えた。そのうえで、「呼ばれて行かないとどうなるか。ものすごい圧力。3、4倍の圧力がかかって放送が中止になったかもしれない。本当に予算を通さないという話になる」などと証言した。
中川、安倍両氏は記事掲載後、NHK側を呼び出したことはないと主張しているが、当初の取材に対してはNHK側を呼んだことを否定せず、それを前提とした質問にも答えていた。安倍氏は取材の直後に「正確を期したい」としてコメントを寄せ、「だれから情報を得たか記憶が定かではないが、偏っている報道と知るに至り、NHKから話を聞いた」と述べていた。
また、中川氏や安倍氏の言動を直接示したものではないが、自民党の中には、番組放送前に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の中の動きを知って、NHK側に対し、きちんと対応するようアドバイスしたと話す政治家もいる。
ただ、安倍氏らがNHK側を呼んだ直接的な事実を示す新たなデータは見つかっていない。

 ●取材は強引だったか 結論ありきの誘導か

今年1月の安倍氏への取材は自宅でインターホンを通してだった。記事掲載後、安倍氏は「妻が『風邪で寝込んでいる』と説明したのに強引に取材をした。『失礼だ』というと5分間インターホンを鳴らし続けた」などと批判した。
しかし、「風邪で寝ている」との説明は一切なく、取材中にインターホンの音声が途切れると、安倍氏から「また押さないと」と教えられた。記者は、会話中に音声が途切れると、インターホンのボタンを押し直して取材を続けた。安倍氏宅のインターホンと同機種の場合、通常約3分間で自動的に切れ、会話を続けるには再度押す必要がある仕組みという。中川氏は「不意打ち的に短時間の間に矢継ぎ早に断定的な質問を受けた」(同月18日、ベルリンで)と批判した。
しかし、記者は事前に中川氏の秘書と連絡を取り、2回にわたって互いに取材内容を確認した後、秘書からかかってきた電話で中川氏に取材した。中川氏は記者に意見を求めることもあり、自ら積極的に語っていた。「圧力をかけたんでしょう、と記者が繰り返した」と主張するが、そのような質問はしていない。
記者の発言の意図が正しく伝わらず、批判を受けた点もあった。
たとえば、安倍氏が主張する「記者は『安倍さんが圧力をかけて番組を中止するようにした、と中川さんが証言している』と言った」という部分。
記者は、NHKへの内部告発の内容に沿って「安倍さんが放送中止を事前に求めたということが書かれている」と質問した。安倍氏が「求められるわけがない」と答え、記者は「中川氏はそういうふうに言ったとおっしゃっているが」と問い直した。これは、中川氏が取材に対し、自身が放送中止を求めたことを認める発言をした事実を伝えたものだ。

 ●「すりあわせ」をもちかけたのか

記事掲載後の今年1月18日、記者は松尾氏から電話を受けた。この際、記者が再取材を提案したことが、「すりあわせ」「調整」を持ちかけたと批判された。
この電話で松尾氏は、朝日新聞の取材を受けたことはNHKに報告していないと告げたうえで、自分の真意と違うことが書かれたと訴えた。さらに、内部の事情聴取を受けると話し、録音記録の有無などを重ねて問いかけた。
記者は、取材源の松尾氏が不利益を被ることがないように配慮した。そこで、証言内容を改めて確認し、場合によってはより正確にするために、再取材できないかと尋ねた。
関係者の話によると、松尾氏は記者に電話した時点では、朝日新聞の取材に応じたことをNHKに認めていたという。<<