今日の「天声人語」(朝日新聞)

↓2003年7月24日づけ
http://www.asahi.com/paper/column20030724.html


 桃から生まれた桃太郎の話はどなたもご存じだろう。犬と猿と雉(きじ)を従えて鬼ケ島に鬼退治に行き、宝物を持ち帰る。では、桃太郎はなぜ征伐に向かったのか。

 元々の素朴な話では、そんな問いは無用かもしれない。宝物目当てでもいいし、鬼は悪者だから当然の征伐だと考えてもいい。しかし明治以降、征伐の正当化も含め桃太郎は「期待される日本人像」として様々に脚色された。『桃太郎像の変容』(滑川道夫・東京書籍)に詳しい。

 皇国日本に逆らう奴(やつ)だから征伐する。明治中期に出たこの理由づけが明快で、底流をなす。日露戦争後には、こんな勇ましい戦闘場面も描かれた。「突貫! 進め! 斬(き)り伏せよ/青鬼赤鬼白い鬼」。もはや自明の「聖戦」か。

 異質の「桃太郎」が現れたのは大正末期だった。鬼ケ島が「天然の楽土」として描かれる。平和な島を侵略し、あらゆる罪悪を犯すのが桃太郎だ。降伏した鬼との問答が興味深い。「征伐の理由は?」に「犬猿雉の忠義者を召し抱えたからだ」と桃太郎。「召し抱えたのはなぜ?」には「征伐のためだ」。大義のなさを痛烈に皮肉った。

 作者は芥川龍之介である。その少し前、彼は中国旅行をした。そこで出会った知識人に「最も嫌悪する日本人は桃太郎だ」と言われ、虚をつかれたようだ。その衝撃が桃太郎像の転倒につながったのだろう。

 「昭和の日」ができるかもしれない。芥川の死とともに始まったともいわれる昭和である。彼は、昭和の暗い面を見通していたかのようだった。きょうは彼の命日、河童(かっぱ)忌である。

「青鬼赤鬼白い鬼」って、青・赤・白はロシアの国旗の色なんじゃないでしょうか。
↓正式には、白・青・赤のようですが
http://www.piano.or.jp/special/2002/tchaikovsky/text/7moscowrussia/russiaflag.html
あと、聖戦という言葉は明治時代にもあったのかな、とか調べたい。
↓今回の芥川龍之介「桃太郎」も、青空文庫で読めます
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card100.html
しかしこれ読んだ限りでは、俺の印象ですが、何かに対する批判というより楽しいパロディのような気がしました。
↓「猿蟹合戦」なんてのもあるし
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card140.html
こっちのほうは、朝日的にはマスコミ(マス・メディア)批判なんで、河童忌のネタとしては取り上げなかったのかな、みたいな邪推をしてしまいます。同じ芥川作品なのに。
おまけに天声人語の人、また元テキストを適当に改竄してるし。以下引用。

「わたくしどもはあなた様に何か無礼(ぶれい)でも致したため、御征伐(ごせいばつ)を受けたことと存じて居ります。しかし実はわたくしを始め、鬼が島の鬼はあなた様にどういう無礼を致したのやら、とんと合点(がてん)が参りませぬ。ついてはその無礼の次第をお明(あか)し下さる訣(わけ)には参りますまいか?」
 桃太郎は悠然(ゆうぜん)と頷(うなず)いた。
「日本一(にっぽんいち)の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱(かか)えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」
「ではそのお三(さん)かたをお召し抱えなすったのはどういう訣(わけ)でございますか?」
「それはもとより鬼が島を征伐したいと志した故、黍団子(きびだんご)をやっても召し抱えたのだ。――どうだ? これでもまだわからないといえば、貴様たちも皆殺してしまうぞ。」
まぁ改竄というほどひどいことはないですか。要約ですね。しかし桃太郎の論理のクダラナサぶりは、元テキストのほうがはるかに楽しめます。
それから、芥川龍之介が中国で出会った「知識人」というのは、どうやら章炳麟(しょうへいりん)って人のようです。
↓以下のサイト参照
http://homepage1.nifty.com/kikugawa_koubo/tani06.htm
しかし、『桃太郎像の変容』(滑川道夫・東京書籍)と、『特派員・芥川龍之介』(副題・中国でなにを視たのか、関口安義著・毎日新聞社刊行)の2冊をちゃんと読んで、滑川道夫と芥川龍之介は本当はなんていっていたのか確認しておかなくては。「虚をつかれたようだ」「その衝撃が桃太郎像の転倒につながったのだろう」などという、天声人語の人(小池民男氏)の類推によるイメージ操作にはあまり引きずられたくないです。
最後に、今回の天声人語の元ネタ。
↓「歴史の粉飾」批判した芥川に可能性託したい(毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/eye/hito/200208/30-1.html
1年も前のネタなんで、天声人語の人はそろそろ使ってみたくなったんでしょう。

「『桃太郎』を侵略者として批判したのは、芥川が最初の人でした。日本と韓国が歴史認識でこじれる時、私はいつも芥川に解決の可能性を託したくなるのです。
うーん、半島の人にはそういう読みかたが普通なんでしょうか。
 
これは以下の日記に続きます。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20030730#p1