朝日新聞オピニオン欄「私の視点」にツッコんでみる(2004年1月27日づけ)

朝日新聞西部版 27日付「私の視点」 から


弁護士 伊藤和子


劣化ウラン 自衛隊でなく医療支援を


 陸上自衛隊本隊にイラクヘの派遣命令が出された。暴力の応酬の続くイラクへの自衛隊派遣が、憲法に適合する国際貢献なのか極めて疑問だ。そして忘れてはならないのが劣化ウラン問題である。
 イラク戦争で使われた劣化ウランは800〜2千トン。その残留放射能イラク全土を汚染している。
 私は市民団体が呼びかけて作った「アフガニスタン国際民衆法延」の検事として、科学者の援助を得て劣化ウランの生体影響を調査した。昨年10月には、ドイツで開催された国際会議に参加し、劣化ウラン投下が取り返しのつかない影響を人類に与えていることを衝撃をもって知った。
 ウラン濃縮過程でできる劣化ウランは強力な毒性を持つ放射性物質で、その半減期は45億年だ。これを使用した劣化ウラン兵器は、投下時に放射性微粒子を大量に放出する。それが呼吸や飲料水などを通じて体内に入り込めば、体内で放射能を放ち続け、細胞や遺伝子を傷つけ、がんや先天性異常を引き起こす。
 最近、米マンハッタン計画に携わった科学者が43年当時、将軍にあてたメモが秘密文書指定から外された。メモには、劣化ウラン弾の原型となった「放射能兵器」が強い致死性を持つことが克明に報告されている。米国防総省の資料を調べると、74年以降、米軍が劣化ウランについて動物実験など様々な研究をしてきたことが分かる。
 私は、米国防総省で94年当時、劣化ウラン兵士影響プロジェクト責任者だったダグ・ロッキー氏と前出の国際会議で面談した。彼はプロジェクトを通じて劣化ウランの生体影響があまりに重大だと知り、兵器の使用停止を提言したが無視され、プロジェクトも解散させられたという。彼は「湾岸戦争帰還米兵のうち20万人以上が身体障害を負い、約1万人が死んだ。各種予防薬の影響もあるが劣化ウランの影響は大きい。日本の息子たちが同じ目に遭ってもいいのか」と語った。こうした危険を知ったうえでの派遣なのだろうか。
 劣化ウランの影響をさらに深刻に受けるのはイラクの人々だ。湾岸戦争劣化ウラン弾を浴びた南部の都市バスラでは近年、小児がんや先天性異常が激増している。私はイラク人医師から、大量の患者の写真を託された。言葉を失うほかない写真ばかりだ。今回の戦争でさらにおびただしい放射能汚染が広がるイラクで、事態を放置すれば、一層多くの人々が命を落とすだろう。占領統治から国連主導の復興に一刻も早く切り替え、国際社会あげて劣化ウランの惨禍を防ぐこと。汚染調査、劣化ウラン弾の残骸(ざんがい)回収や汚染土壊の除去などが必要だ。
 イラク人医師は私に「軍隊を派遣するのではなく、私たちを助けてほしい。抗がん剤抗生物質も点滴用の補液も不足している」と訴えた。数百億円と見込まれる自衛隊の駐留予算をすべて医療支援に切り替えれば、どれだけ多くの人を救えるだろう。被爆国として医療技術の蓄積のある日本には徹底した医療支援こそ求められる。
 多くの人々が劣化ウラン汚染によって、いま静かに死へと向かっている。この事態に何をするかが世界と日本に問われている。日本政府は自衛隊派遣をやめ、医療支援を中心とする平和的人道支援に切り替えるべきだ。それが日本にふさわしい国際貢献の名誉ある選択だと確信する。

うわぁ。
この人、「劣化ウラン」とばかり言っていますね。これではアメリカ軍が「劣化ウラン」という放射能兵器を使ってあたかもイラン全土を放射能汚染しているかのようなイメージ操作。アメリカ軍が使ったのは、「劣化ウラン弾」で、戦車や対空砲塔という「堅い」物質を効果的に破壊するために限定使用しただけのはずです(バンカー・バスターにも使われた、という説や証言もあるけど、事実検証はまだされていないはず)。
 まず、この弁護士の「伊藤和子」さんですが、http://afghan-tribunal.3005.net/の団通信1112号に掲載された「静かなるジェノサイド―イラクにおける劣化ウラン弾被害」(http://www.jlaf.jp/tsushin/2003/1112.html#1112-03)じゃないかと思います。

 イラク戦争で使われた劣化ウランは800〜2千トン。その残留放射能イラク全土を汚染している。
イラク戦争で使われた劣化ウランの量は、公式には発表されておらず、ネット上では、たとえば「アメリカ特殊作戦コマンドの大佐」が認めたという「500トン」という数字と記事はありますが、
http://www.scoop.co.nz/mason/stories/HL0305/S00050.htm
翻訳はこちらのページ
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/DU/no_du_report1.htm
バンカー・バスターに使われていたかどうかは不明なので、「100トン以上のDU砲弾」という部分だけ信じても、なかなか800トン、ましてや2000トンという数字は出てこないように思えます。この「800〜2千トン」という数字の根拠は何でしょう?
また、「その残留放射能イラク全土を汚染している」というのも、イラク全土が戦闘地域になっていたわけではないし、ましてや劣化ウラン弾が全土で使われていたこともなさそうなので、「左寄りの人の、少し行き過ぎちゃってるキャンペーン的煽り文句」のような気がします。

 ウラン濃縮過程でできる劣化ウランは強力な毒性を持つ放射性物質で、その半減期は45億年だ。これを使用した劣化ウラン兵器は、投下時に放射性微粒子を大量に放出する。それが呼吸や飲料水などを通じて体内に入り込めば、体内で放射能を放ち続け、細胞や遺伝子を傷つけ、がんや先天性異常を引き起こす。
1・「毒性」と「放射性」とは、微妙に違います。
2・「劣化ウラン」の半減期というものはありません。0.7%を構成するウラン235と、99.3%を構成するウラン238があり、そのうちのウラン238半減期が約45億年(ウラン235は約7億年)です。半減期が長いということは、「それだけ放射性物質として長い間危険」という意味ではなく、「長い間かかって放射線を出すので、人間に与える影響は微弱」という意味です。たとえば、プルトニウム239の半減期は約2.4万年、プルトニウム238に至っては約87年で、それだけ猛烈に危険ということになります。プルトニウム239の放射線を浴びた人間が翌日死ぬとするなら、ウラン238なら20万日後に死ぬ、ぐらいの感覚です。「お前は今から60年後に放射線浴びたせいで死ぬのだ!」とか言われても、あまり実感がわかないです(ここらへんは誇張あり。まぁ、子供に対する影響は深刻かも)。
3・「劣化ウラン兵器」というものは存在しませんが、もしそれが「劣化ウラン弾」というものを示していたとしても、それは「投下」するような武器ではありません。「発射」するものです。
4・また、「投下時」が「発射時」というものを示していたとしても、それはその時点では「放射性微粒子を大量に放出」はしません。「着弾時」です。
5・そしてそれが体内で放つものは「放射能」ではなく「放射線」です。
6・また、「細胞や遺伝子を傷つけ、がんや先天性異常を引き起こす」原因は、劣化ウラン放射性物質としての特性からかどうかは不明です。化学的毒性によるもの、という説がむしろ正しいかもしれません。
ここらへんは、言葉遣いにもう少し慎重にしたり、用語(特に軍事用語)に関する知識を増やしたりして、無用なツッコミを入れられないようにする配慮が、元テキスト作成者に必要でしょうか。
しかし、以下の部分は調べるにつれて何と申しましょうか、左寄りのかたがたの情報操作というよりも、情報に対する正確な知識を得ようとあまり思わないでネガティヴ・キャンペーンだけやっている、みたいな印象がフツフツと。

 最近、米マンハッタン計画に携わった科学者が43年当時、将軍にあてたメモが秘密文書指定から外された。メモには、劣化ウラン弾の原型となった「放射能兵器」が強い致死性を持つことが克明に報告されている。
これだけの情報だと、なかなかソース(その「メモ」の元テキスト)にたどりつけないですよね。そこで、少し長くなりますが、俺が検索でたどったノウハウを開陳して、「ソース示せ」と直接には言えないかたがたが語っているテキストのソースにたどりつく方法を伝授してみたいと思います。
1・まず、google:マンハッタン計画 劣化ウランで検索
2・すると、たとえば以下のようなサイトが見つかります
劣化ウラン関連年表
http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/dunenpyo.htm

1943年10月30日 マンハッタン委員会内の「S-1実施委員会」,マンハッタン計画の責任者グローブス将軍あてに,「放射性物質の兵器としての利用」と題するメモを送付.「空気から吸引されたウランは,鼻や咽喉頭,気管支の粘膜などに付着し,次に飲み込まれる.胃,盲腸,直腸では,摂取されたものが長期にわたって残留する.このため消化器系臓器が最も深刻な影響を受ける」ことを明らかにする.
劣化ウラン弾:その人体への影響
http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/du.htm

 実は,このことはすでにマンハッタン計画の時代から知られていたことなのです.第二次大戦中に,原爆開発のために組織されたのがマンハッタン委員会でした.この委員会に動員された高名な科学者たちのなかには、「ウランは大気及び土壌の汚染剤として利用出来る」ことを示唆したものもいました.

 1943年10月30日の委員会メモランダムによれば,この日,「S-1実施委員会」という委員会のなかの小委員会から,マンハッタン計画の責任者グローブス将軍あてに,一通の手紙が送られました.その手紙は「放射性物質の兵器としての利用」と題されていました.そこには、「ウランの吸引によって,数時間から数日のうちに気管支に炎症が発生する」と報告されていました.

 これはまさに,湾岸戦争症候群と同じです.湾岸戦争中の「砂漠の嵐」作戦において,敵の戦車を破壊するために,大量の劣化ウランが用いられました.戦闘終了後に現地を制圧した米軍兵士は,DUを吸引し,まったく同様の症状を呈しました.

 手紙は続きます.「(ウランから放射された)ベータ線は,汚染された水、食糧、空気により消化器官に入り込む.空気から吸引されたものは鼻や咽喉頭、気管支の粘膜などに付着し、次に飲み込まれる。その効果は気管支におけるのと同様な局所的な炎症である。胃、盲腸、直腸では,摂取されたものが,どこよりも長期にわたって残留する.このため消化器系統の臓器が最も深刻な影響を受ける。放射線被爆による一般的症状を示すことなく、消化器官に致死性の潰瘍、穿孔が発生することも考えられる」

と、問題のメモが「放射性物質の兵器としての利用」であることが分かります。
4・そこでgoogle:放射性物質の兵器としての利用で検索。ただし、これでは原文にたどりつけず、袋小路です(日本語のサイトしかありません)。
5・しょうがないのでgoogle:マンハッタン計画で検索。ここも袋小路っぽいんですが、とりあえず下のサイトで「マンハッタン計画」は英語だと「Manhattan Project」だということが分かります(んなもん、検索しなくても分かる人には分かりますですか)
http://sta-atm.jst.go.jp/atomica/16030109_1.html
6・google:Manhattan Projectで検索すると、おお、以下のサイトに「グローブス将軍」の原名は「General Leslie R. Groves」と出ているではありませんか
http://www.atomicmuseum.com/tour/manhattanproject.cfm
7・ドキドキしながら、google:Leslie R. Groves depleted uraniumで検索すると、以下のサイトが。やったぁ。
http://www.rense.com/general33/donot.htm

According to the letter sent by the Subcommittee of the S-1 Executive Committee on the "Use of Radioactive Materials as a Military Weapon" to General Groves (October 30, 1943) inhalation of uranium would result in "bronchial irritation coming on in a few hours to a few days".
ということで、問題のメモは「Use of Radioactive Materials as a Military Weapon」が分かりました。
8・でもって、google:Use of Radioactive Materials as a Military Weaponで検索すると、はじめにいくつかノイズが入りますが、以下の元テキストが見られます
http://www.mindfully.org/Nucs/Groves-Memo-Manhattan30oct43.htm
しかし、「将軍にあてたメモ」の固有名詞が書いてないというだけで、検索するのにどれだけ大変だったことか。普段なら、「伊藤和子さんが言及している『メモ』は、以下のサイトで読むことができます」と、裏の苦労はトボけるんですが…。
長くなったので、ここから先はまた明日。明日まで元テキスト読んでてください。一つだけヒント出すと、元テキストには「ウラン」なんて言葉、一言も出て来てないですよ。