去年の春、ブルックス准将は何と言っていたのか

ひさびさにまたこのネタを。
一年前の、イラク戦争開始時の話なので、今さらですが、調べてみたら驚愕の事実が。
まず、朝日新聞の記事から。
劣化ウラン弾使用認める、イラク人捕虜4千人 米中央軍(朝日新聞
http://www2.asahi.com/special/iraqattack/roundup/0422/roundup02.html


 米中央軍のブルックス准将は26日、カタールの前線司令部で記者会見し、イラクでの空爆劣化ウラン弾を使用したことを初めて認めた。質問に答えて「非常にわずかな量しか使っていない」と述べたものの、使った日時や場所には言及しなかった。がんなどの健康被害を懸念する質問には「過剰な言い方だ。安全だとわかっている」と答えた。

 イラクが発射したとみられるミサイルについては、「約10発がクウェートに向けて撃たれたことを確認した」といい、このうち1つは国連安保理決議で制限された射程150キロを超えて「射程190キロに達していたものがあった」と語った。

 また、米軍がイラク中部の病院で約3000着の化学兵器の防護服を発見したことを明らかにしたうえで、「イラク軍の化学兵器使用への警戒をより一層強めている」と話した。イラク民兵が米兵を装って残虐行為をするために米軍の服を入手しようとしている情報もあるとし、「これはフセイン政権のやり口をよく示している」と非難した。

 同准将によると、開戦以来のイラク人捕虜の数は4000人を上回ったという。作戦は、雨や強風、砂嵐などに見舞われているものの、これまでのところ順調に進んでいるとし、「悪天候によって正確さが失われることはない」と述べた。 (03/27 01:11)

共同通信は、こんな感じ。
劣化ウラン弾の使用認める 米中央軍(共同通信
http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq2/news/0327-324.html

 【ドーハ26日共同】米中央軍のブルックス准将は二十六日、米軍基地キャンプ・アッサイリヤで記者会見し、イラクでの作戦で米軍が劣化ウラン弾を「非常にわずかな量」ながら使用していることを認めた。使った日時、量については具体的に言及しなかった。

 しかし准将は「われわれが使用しているものは戦闘への使用目的としては安全なもので、これまで考えられてきたような危険性はない」と述べるにとどまった。

 弾芯(しん)に劣化ウランを使用、高速で装甲を破壊することを可能にした劣化ウラン弾は、コストが安く、破壊力が優れており、一九九一年の湾岸戦争以降使用され始めた。湾岸戦争の参加者に放射性疾患に似た「湾岸戦争症候群」が現れたことが確認されている。
(了) 03/27

これ以外には、毎日新聞が伝えたようですが、これは関連テキストだけ。
イラク戦争バグダッドの市場にミサイル 住民多数が死傷(毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200303/27/20030327k0000m030182000c.html

(前略)
 米中東軍のブルックス作戦副部長は26日、記者会見し、米英軍がイラク軍攻撃で劣化ウラン弾を使用していることを認めた。貫通力が強い劣化ウラン弾は、91年の湾岸戦争、99年のユーゴスラビア空爆でも使用され、イラク保健省などは白血病などのがん多発との因果関係を指摘している。

 同作戦副部長は「我々の武器・弾薬の中で劣化ウランを使っているものは極めて少ない」と明言した。劣化ウラン弾イラクの民間人の人体に与える悪影響については「これまでの研究によれば人体に害を及ぼす可能性があるのは攻撃対象の極めて近くにいる場合だけだ」と述べた。
(後略)

これらの、もっぱら「朝日新聞」と「共同通信」が提供した情報にもとづき、左寄りのかた、もしくは情報収集にあたって「井戸端会議に臨む主婦」程度の努力しかされていない(と、俺には思える)かたは、たとえばこのようなことを書いてたりします。

最低だ。

劣化ウラン弾核兵器とどう違うの?
そして、日本政府は、それでも今回の戦争に賛成しますか?

 前号のニューズレターで、米軍のジェームズ・ノートン大佐がブリーフィングで劣化ウラン弾の使用宣言を行ったことを紹介しましたが、ニューズレター配信翌日の26日、米中央軍のブルックス准将が記者会見を行い、イラクでの劣化ウラン弾を使用を公式に認めました。
 「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局」のサイトで、これについて批判をしています。前号の内容を補足するものとして、この記事を転載しておきたいと思います。
 イラクでの劣化ウラン弾使用が公式に確認され事実になった以上、日本政府に対して、このようなアメリカの劣化ウラン戦争、放射能兵器を使った戦争を支持するのかと、強く追及していくことが必要だと思います。
反米・反核としての反・劣化ウラン弾の総本山っぽい「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局」ではこんな感じで、ここらへんから「米軍は3月の時点で劣化ウラン使用を正式に認めている」という伝言ゲームがはじまったんだろうなぁ、と思いました。
イラク戦争劣化ウラン情報 No.4 2003年7月1日
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/DU/no_du_report4.htm

(前略)
②川口外相は4月15日にすでに、3月26日のブルックス准将の記者会見の英文ブリーフィングを見ながら「保有と使用」のごまかしを答弁しましたが、実際に原文のブリーフィングを読めば、准将は劣化ウラン使用を認めていることは明らか。政府はウソを付いているのです。6月30日の今川社民党議員の質問にも同じ答弁を繰り返しています。さらに「米政府に問い合わせたが、今回の軍事行動で劣化ウラン弾を使用したか否かは今後とも明らかにすることは予定していない」とも述べているのです。本当に米政府の問い質したかどうかも疑わしいですが、もしこの通りだとすれば、米政府自身が、大量破壊兵器問題と同様に、ウソを付いているということになります。
※ブリーフィングhttp://www.centcom.mil/CENTCOMNews/Transcripts/20030326.htm
この記者会見で准将は、「There's a very small portion of our munitions that use depleted uranium.」(劣化ウランを使う弾薬は非常に少量だ)と述べているが、これは、米軍一般の保有について質疑応答しているのではない。現にイラクで侵攻作戦を展開中に、その現地司令部CENTCOMの記者会見の場で、会場から今劣化ウラン弾を使っているかどうか、なぜそんな危険なものを今回も使うのかという質問に答えたものであって、イラク劣化ウラン弾を使用したことを前提として、ただ使用量は少ない、危険という話は誇張だと答えているのである(もちろん少量というのも、安全だというのもウソだが)。このブリーフィングを「保有」論一般にねじ曲げる政府答弁は全くデタラメである。
(後略)
いやその、ブルックス准将はブリーフィングの中ではこのように言っているんですが。
↓CENTCOM Operation Iraqi Freedom Briefing ~ 26 March 2003
http://www.centcom.mil/CENTCOMNews/Transcripts/20030326.htm

Q General, how much of your weaponry -- Michael Kearns (sp), Canadian Broadcasting Corporation. How much of your weaponry uses depleted uranium? And what are your concerns about the effects of that on Iraqi civilians?

GEN. BROOKS: There's a very small portion of our munitions that use depleted uranium. And there have been lots of studies on what the actual hazards are from depleted uranium. When depleted uranium hits something, it's the residue from that that has any possible hazard at all, and that requires close personal ingestion in order to have an effect.

We believe that the way we do our operations is as safe as can be done for combat action and does not create the kind of hazard that may have been thought about in the past.
(試訳)
Q 将軍、カナディアン・ブロードキャスティング・コーポレーションのマイケル・カーンズです。米軍の兵器にはどれくらいの量の劣化ウランが使用されているんでしょうか? またイラク市民への影響についてはどう思われますか?
A われわれの軍需品に使われている劣化ウランの量はとても少ない。そして劣化ウランの実際の危険についてはたくさんの研究がされてきている。劣化ウラン(弾)が何かを破壊すると、それは危険性を秘めた燃えかすとなるが、その効果が出るには極めて限定的な摂取が必要だ。

要するに、将軍(准将)が認めたのは「劣化ウラン弾の使用」ではなくて「劣化ウランが使われている武器(軍需品)があること」。劣化ウラン劣化ウラン弾のどちらも「depleted uranium」なんでまぎらわしいですが、文脈を考えるとそう解釈して問題はなさそうな気がします。朝日の「劣化ウラン弾使用認める」とか、共同の「劣化ウラン弾の使用認める」というのは、完全に誤訳。毎日新聞の「我々の武器・弾薬の中で劣化ウランを使っているものは極めて少ない」と言ったというのは正しい報道ですが、「イラク軍攻撃で劣化ウラン弾を使用していることを認めた」というのは、どこをどう読んだらそのような解釈が生まれるのか、とんと検討がつきません。「劣化ウランが使われている武器がある」と「劣化ウラン弾が使われた」とは、意味が全然違うんですが。
この、ブルック准将のブリーフィングを元に、川口外相は次のような答弁をしています。
↓第156回国会 外交防衛委員会 第5号 平成十五年四月十五日(火曜日)

○佐藤道夫君 (前略)そこで、次は劣化ウラン弾のことを取り上げますけれども、これは湾岸戦争でもアメリカが使用しまして、大変な犠牲者が出たと。アメリカの兵士も何十人、何百人、がん、白血病だ、肺がんだ、いや、がんだということになっている。イラクの人たちも同じような問題を受けて、これは学者によれば、あれは核兵器と考えるべきでしょうと、こういうふうな言い方があるわけですけれども、アメリカは、これは核ではないんだ、大量破壊兵器とは全然違うんだと、こう言っていますけれども、本当にそれでいいんだろうかと。学者たちはそう簡単には割り切れない、もっと慎重に学会、学会で議論していこうと。私もよく気持ちは分かります。
 そして、今問題になっているのは、これが核か核でないのか、そんなことの前に、言わば大量破壊兵器の存在が戦争の目的になっているその戦争に、こういう核の疑いがあるような、学会の学者たちがこれは核兵器と、こう呼んでいいんじゃないかと言っているようなものを使用することの私問題だと思うんです。政治のモラルだと言ってもいいです。アメリカのブッシュ大統領、モラルという言葉を知っているのかどうかよく分かりませんけれども、何かアメリカはこんなものは核兵器ではないからがんがん使っているんだと。
 こういうことについても被爆国である日本を代表して、外務大臣もきちっと向こうの関係者に、米国のしかるべき人たちにこの点は少し考えてくださいよと言うべきではないのかと思うんですけれども、いかがでしょうか。現にもう既に言っているとは思いますけれどもね。
国務大臣(川口順子君) (前略)それから、今の御質問の劣化ウラン弾ですけれども、これについてブルックス准将、中央軍のブルックス准将は、三月の二十六日の時点で、米軍は劣化ウラン弾をほんのわずか保有をしているということを言い、その安全性を確信していると述べたというふうに承知をしておりますけれども、我が国として、実際に米軍が今回の作戦で劣化ウラン弾を使用したかどうかということについての確たる情報は持っておりません。
 それで、劣化ウラン弾の安全性については、これについては、今まで国際機関等によって調査をされたり報告が行われたりしているわけでございまして、我が国としても重大な関心を持ってこれはフォローをいたしております。
 それで、幾つか今までなされたことがあるわけですけれども、二〇〇一年の三月、ここの時点で、コソボにおいて劣化ウラン弾が使用されたということについて、UNEP、国連環境計画ですが、これが調査をしました。そして、この報告で、環境や健康への害はほとんどなかったとUNEPが調査報告で述べているわけですけれども、また同じ二〇〇一年の三月に、今度はWHOですけれども、劣化ウランの放射性は微弱であり、劣化ウランと関係する健康影響を示唆する証拠は得られなかったという報告をWHOが出しているということでございます。
 国際的にはそのような国際機関によって結論が出されているわけですけれども、WHOの今後の調査について、我が国としては引き続き注視をしていきたいと思っております。
この、川口外相の発言に対して、「「保有と使用」のごまかしを答弁しましたが、実際に原文のブリーフィングを読めば、准将は劣化ウラン使用を認めていることは明らか」と断言している、「イラク戦争劣化ウラン情報」の配布元であるところの「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局」の吉田正弘さんの解釈は、俺には皆目分かりませんでした。
このかたは「ごまかし」「ウソを付いている」「ねじまげる」「デタラメ」というような、ある種日刊ゲンダイ的に空虚な(根拠のはっきりしない)非難をテキスト中に混ぜるのが得意なようですが、そしてそれは、多くの反米なかたに見られる特長でもありますが、その気持ちは理解した上でもなおかつ「元テキストをねじまげているのはどっちなんだろうなぁ」という感慨にふける部分が多い事件(ニュース)でした。
あー、念のために言っておきますが、俺がこの件で一番ひどいと思ったのは、新聞が提供する二次情報を元に「最低」とか言っているネットの中の時事系を扱っているサイトではなく、誤誘導をまねく二次情報を提供している新聞その他のマスコミです。「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局」のサイトの人ですら、元情報に当たれるようなリンクを貼った上での誤誘導なので、たとえ誤誘導でもその点においては評価はしています。