「百匹の猿」あるいは「百匹目の猿」という事象について

ということで、俺の2004年4月17日のコメント欄(http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/comment?date=20040417#c)で話題が出ました『核兵器のしくみ』(山田克哉・講談社新書・ISBN:4061497006)に目を通しつつあるのですが、実は本文の2ページ目で挫折しそうでした。何しろこんなテキストが出てくるもんで。


 昔ある医学者から次のような話を聞いたことがある。いくつかの島が点々としていて各島には何匹かの猿が棲んでいる。島には芋が豊富にある。島と島は、猿がお互いに見えずまた声も聞こえないほどに離れている。したがって島と島との間のコミュニケーションはまったく不可能である。ある日一つの島に棲んでいる一匹の猿が、芋を洗って食べるとおいしいことに気がついた。当然その島の他の猿も芋を洗って食べるようになった。ほどなくして他の島の猿達も、お互いの情報伝達手段はまったくないにもかかわらず芋を洗って食べるようになり、この「芋洗い」は連鎖反応的に次々と他の島々に現れた。結局お互いの情報伝達なしに「芋洗い」のアイデアは全島に行き渡ってしまったのである。
これは「百匹目の猿が芋洗いをはじめると、その群れとは関係のない猿もいっせいに芋洗いをはじめる」という、「百匹目の猿」という名前で有名な現象ですが、これは完全に、そんなことは都市伝説だ(あるいは、トンデモ理論だ)、ってことで否定されてます。
何より、その理論(現象)について最初に『生命潮流』という本で言及したライアル・ワトソン自身が「それはただのメタファー(たとえ話)だ」って言ってるんですが。
たとえば、以下のサイトなど参照。
百匹目の猿はどこにいる
http://www.potalaka.com/potalaka/potalaka029.html

 で、この「百匹目の猿現象」については、一応もっともらしく、以下の論文が「参考文献」としてあげられている。

  KAWAI, M 'Newly acquired precultual behaviour of the natural troop of Japanese monkeys on Koshima Island,' Primates 6: 1-30, 1965.

 しかし、この河合雅雄博士の論文には、上記のようなエピソードはまったく書かれていない。つまり、ワトソンの創作である。

しかし世の中には、『百匹目の猿』(船井幸雄サンマーク出版ISBN:4763181114)というそのまんまのタイトルの人生啓発書があって、サブタイトルの「「思い」が世界を変える」というフレーズの通り、ちょっとした「世界を変えたい人」のためのテキストになっているみたいです。
で、こんなサイトもあったり、
↓「百匹目の猿の会・元気塾」
http://www.web-ami.com/hyappiki/

この現象は、身近なところでは「原宿」などで、新しいファッションが目立ち始めるとそれが口コミで全国各地に飛び火して一つの「流行」を形成するということなどでも実感できるものです。マーケティングの基本として有名であり、今も実践されています。
こんな悲しい卒業式の挨拶があったり、
↓卒業生の皆様へ
http://www11.ocn.ne.jp/~love-usa/sotugyouseinominasama.html

それが「臨界値」の不思議な力だと・・・「臨界値」とは「100」という数字を指し「100」という数の持つ不思議な力の現象であると・・・そんな時に私は友達から聞いたのです。
私は担任の先生に電話をせずにいられませんでした。
「どうか100人の生徒さんで娘の奇跡を祈って欲しい」と・・・
こんな政治家もいたり
↓山口つよし・みんなの声
http://mission21.gr.jp/voice/0307e.html

一日も早く、いわゆる「百匹目の猿」現象が実って政界が再編され、お二人の力が中心になって、新しい日本の政治が創生されることを、私たちは渇望しています。
あれこれあるわけですが、全部だまされてる、というわけです。
ライアル・ワトスン博士の発言が読める、ネット上のテキストは、たとえばこんなのとか。
↓The Hundredth Monkey Phenomenon
http://www.uhh.hawaii.edu/~ronald/HMP.htm

Watson continues: "I accept Amundson's analysis of the origin and evolution of the Hundredth Monkey without reservation. It is a metaphor of my own making, based--as he rightly suggests--on very slim evidence and a great deal of hearsay. I have never pretended otherwise. . . . I based none of my conclusions on the five sources Amundson uses to refute me. I was careful to describe the evidence for the phenomenon as strictly anecdotal and included citations in Lifetide, not to validate anything, but in accordance with my usual practice of providing tools, of giving access to useful background information."
ね、「It is a metaphor of my own making(私が作ったたとえ話だ)」って言ってるでしょ。
ただ問題は、博士がそう言っている、というそもそもの原典である「Whole Earth Review」の1986年秋の号が見当たらないことです。ネット古書店では25ドルぐらいなので、そんなに高い本ではないですが。
えーと、以下のサイトに、これに関する類書・参考文献などまとめて載ってます(アマゾンのリンクつき)。
↓ついに 【百匹目のサル】 の真相が判った!!
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/listmania/list-browse/-/31GEJ5P89SV0U/250-7761007-4131437
しかし、この話もまた「反核」と関係あったのか。反核おそるべし。