「天声人語」と「地雷」に関する真実・その2(武器輸出3原則について)

長くなったので、少し見出しを分けます。
まず、「武器輸出三原則」はどんなものか、なんですが、外務省によるとこんな感じです。
↓武器輸出三原則等
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jirai/sanngen.html


1.武器輸出三原則(1967.4.21)
 武器輸出三原則とは、次の三つの場合には武器輸出を認めないという政策をいう。


(1)共産圏諸国向けの場合

(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合

(3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
[佐藤総理(当時)が衆院決算委(1967.4.21)における答弁で表明]

これは(1)などが意味しているように、冷戦時代の名残のような気がします。多分そのような理由で政府も廃止したかったんだろうな、とか考えていたら、驚愕の事実が。
↓「人道的な対人地雷除去活動に係る支援と武器輸出三原則等に関する基本的考え方」について
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/09/dmu_1202.html

村岡官房長官


「人道的な対人地雷除去活動に係る支援と武器輸出三原則等に関する基本的考え方」について



平成9年12月2日 

 政府は、かねてから、対人地雷の規制の強化、埋設された対人地雷の除去及び犠牲者に対する支援に関し、国際的な努力を支持し、積極的な取組を行っており、本日の閣議で対人地雷全面禁止条約への署名を決定したところである。このような取組を更に強化するための措置の一環として、このたび対人地雷問題の解決に向けた国際的機運の一層の高まりを受け、埋設された対人地雷の除去に係る支援に関連して次の結論に達し、本日の閣議において了承を得た。
1. 現在、世界各地において、紛争時に埋設されそのまま放置されている対人地雷など、武力攻撃の一環としての性格を持たない対人地雷により一般市民が無差別に殺傷され、多大な被害が生じるという事態が発生している。このような事態の発生を防止するために、前述のような対人地雷を人道的精神に基づいて除去する活動が行われているが、かかる人道的な対人地雷除去活動に対する支援は、国際社会全体として取り組むべき課題であり、我が国としても可能な限り協力を行うことが必要である。また、人道的な対人地雷除去活動は、被埋設国に寄与し、これに対する我が国の支援の強化は、国際社会の平和と安定に貢献するという我が国の基本的政策に合致するものである。このため、我が国としては、被埋設国の政府等が行う人道的な対人地雷除去活動に対し、積極的に支援を行うこととしたところである。
2. 政府は、これまで、武器等の輸出については、武器輸出三原則等(※詳細はこちらをご覧下さい。)によって慎重に対処してきたところであるが、1.に述べた諸点に鑑み、前述のような人道的な対人地雷除去活動に必要な貨物等に武器輸出三原則等における武器等に当たるものが含まれる場合であっても、当該貨物等の輸出については、今後、被埋設国の政府等と我が国政府との間の国際約束で、当該武器等は人道的な対人地雷除去活動のみに使用されること及び当該武器等を我が国政府の事前同意なく第三者に移転しないことが定められることにより担保されることを条件として、武器輸出三原則等によらないこととする。これによって国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出三原則等の基本理念は確保されることとなる。。
3. なお、政府としては今後とも、武器輸出三原則等に関しては、国際紛争等を助長することを回避するというその基本理念を維持していく考えである。

あまりのことに全文引用してしまいましたが、要するに「武器輸出三原則」がネックとなって「人道的な対人地雷除去活動」ができない(ので、条件つきで廃止する)、というのが政府の主張でした。これが「談話」として出されたのは平成9年(1997年)。いやはや。古文書(古テキスト)を引き出すのなら、こちらも併せてお願いしたいところです。
なお、経団連による「武器輸出三原則」見直しの意見はこちらにあります。
↓今後の防衛力整備のあり方について
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/063.html

(前略)
(4) 防衛基盤の強化に向けた方策
1.輸出管理政策
現在、わが国では、武器輸出三原則をはじめとする輸出管理政策、及びその厳格な運用により、防衛関連品・技術の輸出や交流、投資が厳しく制限されている。
すでに述べたとおり、装備・技術の国際共同開発の傾向が強まるなか、わが国ではこのような機会への参加や海外企業との技術対話も制限され、最先端技術へのアクセスができない。すでに、日本の防衛産業は世界の装備・技術開発の動向から取り残され、世界の安全保障の動きからも孤立しつつあり、諸外国の国際共同開発の成果のみを導入するといった手法には懸念が生じている。
日本経団連では、既に1995年から、日米同盟上の関係強化の観点から、輸出管理政策の見直しについて要望を行ってきたが、内外の安全保障の環境変化を踏まえれば、現行の輸出管理政策のあり方について再検討を行う必要性は益々増大している。
具体的には、平和国家としてのわが国の立場を堅持し、武器輸出による国際紛争の助長を回避するという、現行の武器輸出三原則の基本的理念は引き続き尊重しつつ、一律の禁止ではなく、わが国の国益に沿った形で輸出管理、技術交流、投資のあり方を再検討する必要がある。
(後略)
正直言って、異常に高い科学技術力と人件費を持つ今の日本が地雷(対人地雷)を輸出するなんてことは、「(手作業部分の多い割にはさほど科学技術力は必要としない)家庭用の花火を世界各国に輸出する」というのと同じぐらいありえません。スターマインのような壮大な仕掛け花火(それもコンピュータで制御して、1回何百万円・何千万円もかかるような奴)に匹敵する武器だったら、十分「武器輸出」の可能性はあるとは思いますが…今回の天声人語は、武器輸出三原則見直し批判をするネタとして「地雷」を持ち出したのは、いささか事実の歪曲・捏造が過ぎるかな、という感じです。
マス・メディアの重要な役目として、政府批判というものがあることは否定しませんが、歪曲・捏造してまで批判しちゃいけないよということで。
最後にシメの大玉を一発。
A・サンプソンの『兵器市場』という本は、初版刊行が1977年9月。もう完全に年代モノですが、新版が1993年に出てまして(これでもまだ、時事モノとして扱うには古いです)、別タイトルは「The arms bazaar in the nineties : from Krupp to Saddam」、要するに湾岸戦争以来のサダム・フセインと武器商人に関する話が追加されたみたいです(http://webcatplus.nii.ac.jp/tosho.cgi?mode=tosho&NCID=BN05106740)。反米な人(イラク戦争大義について語っている、アサヒ系な人)がおすすめしたりしてはいけないような本だと思うんですが…。


追記・「おかわり」もあります→http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20040726#p1