最近の「ソースロンダリング」の駄目な例

JANJANで拾ったネタから。
小泉首相の演説はいったい何点?
http://www.janjan.jp/nigaoe/0409/0409239126/1.php#bbs


以下はそこで俺が公開しているテキストを少し直したものです。まず、以下のサイトのテキストをご覧ください。


↓9月22日 ◇◆ 外遊の合間をみて片手間に開かれるこの国の国会 ◆◇ 安保条約を超越した構想を米軍が外務省に説明していた! ◆◇(天木直人・マスメディアの裏を読む)
http://amaki.cocolog-nifty.com/amaki/2004/09/922.html

 9月22日の毎日新聞は、小泉首相の一般討論演説を初日に行うためパオラという国に経済援助を与えて順番を譲ってもらったと報じていた。

天木直人天広直人なら知ってるが…って、元外務省の人でしたか。
しかしそもそも、「パオラ」という国は、この地球上には存在しませんが。この人は粗忽なうえ、そういうことを注意してくれる友人・知人もいない寂しい人なんでしょうか。「日刊現代」というのもありましたし(正確には「日刊ゲンダイ」ですが)。毎日新聞の記事によると、それは以下の通りです。
↓クローズアップ2004:小泉首相、国連総会で常任理入り表明へ(その1)(毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/09/22/20040922ddm003010094000c.html

 ◇初日演説に固執−−外務省局長根回しへ極秘訪中

 首相の一般討論演説は討論初日の21日午後6時から行われる。しかし、当初提示された順番は3日目の23日午後だった。なぜ変わったのか。

 実は外務省の国連担当者らが、パラオに演説時間を交代してもらうよう働き掛けていた。外務省幹部は「前回(02年)の首相演説は2日目だったが、今回は太平洋のある国の元首の分と交換してもらった。初日に演説することが強いアピールにつながる」とパラオとのバーターを認めた。

 日本は過去に安保理非常任理事国の選挙で、小国の投票と経済援助を取引したケースが何度もあった。官邸筋は「代わってくれた見返りは当然」と語る。

 13日に日本を出発し、ブラジル、メキシコを経てニューヨークに乗り込んだ首相。要人との会談の主要議題はいずれも日本の常任理事国入りと国連改革で、常任理事国入りを最大限アピールする行脚となっている。

 20日午後(日本時間21日未明)、国連外交の皮切りとして首相は国連総会のピン議長(ガボン)との会談に臨み、日本の常任理事国入りについて理解を得た。

 首相「国連改革は重要な時期に来ている。新しい時代に国連がいかに適応していくか、世界が注目している」

 議長「日本が20%の国連財政を負担しながら安保理の意思決定に参加できない懸念を共有する」

 10年前の国連総会で、当時の河野洋平外相(現衆院議長)が常任理事国入りを目指す方針を表明する直前、首相は理事国入りに慎重な議員グループを結成していた。

 首相はなぜ変わったのか。「考えは変わっていない。時代が大きく変わった。日本の役割を国際社会が求めている。時代についていけない人が、『小泉の考え方が変わった』と勘違いしている」。首相は20日、同行記者団に心境を語った。

 首相が安保理改革を前面に出したのは、イラク戦争をめぐって米英と仏独などが対立し、亀裂を生じた国連への信頼感回復の狙いもある。

 常任理事国入りが悲願の外務省も根回しに奔走した。同省の西田恒夫総合外交政策局長は今月14日から3日間、極秘で訪中し、中国外務省高官に常任理事国入りへの理解を求めた。小泉首相靖国神社参拝問題で、日中関係が悪化しているうえ、現常任理事国として拒否権を持つ中国の動向がカギを握る。中国側は「日本の常任理事国入りに反対はしないが、これからの動きを見ていきたい」と答えるにとどめたという。【ニューヨーク徳増信哉、高塚保】

「経済援助を与えて」と、天木直人さんのサイトのテキストでは、それが既成事実のように述べられていますが、毎日新聞の記事では「官邸筋」という謎の筋が「代わってくれた見返りは当然」と語っていた、と新聞の記事が報道しているだけで、見返りに関しては「経済援助」だろうが何だろうが、公的に語られているわけでも、既成事実でもありませんが。また、「パラオとのバーターを認めた」という「外務省幹部」も不明なので、この記事そのものが謎の多い、怪文書とたいして変わりないテキストでしょうか。要するに、毎日新聞の謎記事(謎テキスト)を、天木直人さんはさらに歪めて流通させている(ソースロンダリングしている)みたいに、俺には思えました。

この毎日新聞の記事は、「外務省幹部」「官邸筋」のほかにも「ある国連職員」「日本外交筋」といったような謎の人物が謎の言葉を言っているという、子供の寝言のようなどうでもいい(感想や意見を述べるのが難しい)テキストが入っているのが難物です。とりあえず、パラオの演説が実際にはいつおこなわれたか、を確認してみたいと思います。さらに近未来に、パラオに対する具体的な経済援助がどの程度あった(増えた)のかということも調査の対象でしょうか。

天木直人さんのサイトのテキストの引用を続けます。

 ところで私は知らなかったのだが、国連総会の前日の20日に国連本部で「貧困・飢餓対策の首脳会議」が開かれて約50人もの首脳が参加したという(9月22日、朝日)。この会議はテロの手に大量破壊兵器が入る事を最大の脅威とみなす米国などに対し、貧困や疾病といったソフトな脅威を重視する国家元首の集まりで、ブラジルのルラ大統領が呼びかけフランスのシラク大統領が賛同して実現したものという。対テロ戦や安保理改革を最優先する国々への異議申し立てといえるものである。なんとフランスのシラク大統領はこの首脳会議に出席した後、国連総会に出席することなく、ブッシュ大統領の演説を聞かずに、さっさと帰国したという。他方日本はこんな首脳会議などどうでもよいと言わんばかりに、国連代表部の職員を出席させただけでお茶を濁している。

出席したのはただの「代表部の職員」じゃなくて、朝日の当該記事によると「小澤俊朗・国連代表部大使」という、国連日本代表部では二番目か三番目の人なんですが(ちょっとネットでは確認できなかったんですが、印刷された朝日新聞の記事で固有名詞を確認しました)。まぁ確かに、職員といえば職員ですが、この書きかただと誤解を招きそうです。というより、確実に誤解を招きます。


↓国連日本代表部・目的と役割(オフィシャル・サイトから)
http://www.un.int/japan/jp/mission/purpose&role.html

国連代表部には3名の大使が配置されています。常駐代表の原口幸市大使 (2002年7月任命)が代表部の活動の指揮監督を行い、次席代表の北岡伸一大使と小澤俊朗大使が役割を分担して原口大使を補佐しています。

「Summit of World Leaders for the Action against Hunger and Poverty(貧困・飢餓対策の首脳会議)」については、以下のところに公式レポートがありまして、「rallied representatives of 110 Member States, including the more than 50 heads of State and government present(110の国の代表者が集まり、それには50か国以上の首脳が含まれていた)」とありますが、どの国がどういう首脳を出したり、出さなかったりしたのかの細かな情報は不明でした(もう少し調べてみます)。


↓press conference on world summit for action against hunger
http://www.un.org/News/briefings/docs/2004/lula040920.doc.htm


朝日新聞の記事には、以下のように書かれてました(朝日新聞2004年9月22日13版7面)。一応記事を手打ち入力しておきます。
国連 進まぬ「貧困撲滅」 目標達成へ首脳が会合 支援強化を確認

【ニューヨーク=福島申二】各国首脳が発言する21日からの国連総会一般演説を前に、国連本部で20日、「貧困の克服と飢餓の撲滅をめざす首脳会合」が開かれた。世界の貧困人口の半減を目指して、4年前の国連首脳会議で宣言された「国連ミレニアム開発目標」の達成が、現状では不可能になるという危機感が各国から示された。
 会合はブラジルのルラ大統領の呼びかけに、フランスのシラク大統領らが賛同して実現した。発展途上国を中心に50カ国以上の元首や政府首脳が参加した。日本からは小澤俊朗・国連代表部大使が出席した。
 世界の約12億人がい1日1ドル未満で暮らす極貧にあえぐ中、国連ミレニアム開発目標は、2015年までに極貧人口を半減させることなどを目指している。だが、取り組みは遅々として進んでいない。会合でルラ大統領は、「最悪の大量破壊兵器は貧困だと、何度繰り返せばいいのか」と危機感を訴えた。
 シラク大統領は「10億人以上が極貧の牢獄に幽閉されている。見て見ぬふりはもう許されない。牢獄の壁を破ろう」と述べ、技術、資金面での国際的な枠組みを強化するために、先進諸国の積極的な支援を要請した。
 最後に、発展途上国が持続可能な開発を進めるための政府の途上国援助(ODA)の充実などを、国際社会に求める宣言が読み上げられた。

ここで注意したいのは、新聞の報道では「発展途上国を中心に50カ国以上の元首や政府首脳が参加した」とありますが、実際には100カ国以上の国がその会合(会議)に参加している(rallied)、ということですね。つまり半分ぐらいは「元首や政府首脳」が出ていないんですが、朝日の記事はそれを伝えていません。これに天木直人さんの「日本はこんな首脳会議などどうでもよいと言わんばかりに、国連代表部の職員を出席させただけでお茶を濁している」という、誤読を招きやすいテキストが加わると、牛丼ネギダク・ギョク大盛りな最強のソースロンダリングが生まれる、というわけです。
この事実に言及するサイトは、本当なら元首・政府首脳を出していない国にはどのような国があったのか、またその「貧困の克服と飢餓の撲滅をめざす首脳会合」は、国連的にはどの程度重要な会議だったのか、ぐらいのところまで調べた上で言及してもらいたかったところですが、まぁ俺自身もそこまではやっていないので、誰かの頑張りに期待しておきます。
天木直人さんの「フランスのシラク大統領はこの首脳会議に出席した後、国連総会に出席することなく、ブッシュ大統領の演説を聞かずに、さっさと帰国した」という部分は、同じ朝日の紙面の、以下のテキストによる言及でしょうか。

仏大統領、演説前に帰国

 一般演説を前に20日に国連本部で開かれた貧困・飢餓対策の首脳会議では、テロリストの手に大量破壊兵器が入ることを最大の脅威と見なす米国などに、貧困や疾病といった「ソフトな脅威」重視を求めるHつげんが目立った。約50人もの国家元首が参加した会議の開催自体が対テロ戦や安保理拡大を最優先する国々への異議申し立てと言える。
 イラク開戦に最も強硬に反対したフランスのシラク大統領は、この会議だけ出て帰国してしまった。「貧困や開発こそ火急の課題」と、米国を批判する意思表示なのか。
 こうした様々な国々が一致できる理念を示し、安保理の集団安全保障を再び機能させる。12月か来年1月と予想される報告書提出で、アナン氏はそうした責務を負う。

新聞記事をネットのテキスト化してみると、予想外に短いのには驚かされます。おかげで手打ちによるテキスト化はそんなに面倒くさいことではありませんが、「新聞記者の人は、よくこれだけ少ない量で情報を伝えられるな」と感心します。と同時に、欠落してしまう情報が多くなるのも仕方ないかな、とも思うわけですが。
今回のテキストだと、たとえばシラク大統領は会合でどのようなことを言ったのか、というテキストの全文と(まぁフランス語でしょうから俺にはうまく理解できないとは思いますが)、急いで帰国しなければならなかったシラク大統領の、国内の日程を中心にした予定が俺は知りたいです。「米国を批判する意思表示」というのは、あまりにも記者の主観を全面に押し出していて、「事実に対する憶測」以上のものには思えませんでした。


で、最後に俺としてはいささか不本意ではありますが、ネット・ジャーナリズム的なblogの進化を期待し、促する意味で「ダメなソースロンダリングしているサイト」を例に挙げて、滅多にしないトラックバックも送っておきます。
リベラルな人による政府批判は、俺にとってそれがまっとうに機能すれば、別に悪いことではないとは思いますが、「歪んで伝わっている二次情報」を元におこなうと、政府批判しているほうがまっとうに思われなくなるのでは、ということで。


シラク仏大統領とルラ・ブラジル大統領、国連で国際税を提案(What's New & Occasional Diary)
http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/~hirakawa/diary/archives/200409/221232.php
↓コイズミ&ブッシュの国連猿芝居よりこっちが遥かに大事(+++ PPFV BLOG +++)
http://ppfvblog.seesaa.net/article/651405.html
↓恥さらしの演説 / 国際(勘繰り屋)
http://yaplog.jp/ume-chiki/archive/95
天木直人氏「馬鹿じゃなかろうか、この男は。お前のすることは他にあるだろう」(低気温のエクスタシーbyはなゆー)
http://ch.kitaguni.tv/u/1023/%bb%fe%bb%f6%a1%f5%bc%d2%b2%f1%cc%e4%c2%ea/0000126337.html


ただ、「What's New & Occasional Diary」は以下のように言っていて、この視点はなかなか面白いものがあります。

・・・しかし、ここまでくると、ついついかんぐりたくなるのは、シラク大統領の「真意」。なんで彼は、いわゆる左派でもなく、バリバリの保守なのに、こうも途上国支援問題に熱心なのだろうか?第3世界も含む世界の盟主としてのフランスという地位を狙っているのだろうか?ま、結果的に困っている人が助かれば、彼の個人的な政治的野心はどうでもいいんだが、政策上の裏があったりするのはいやだよなぁ。。


時事系blogでうんざりするのは、どこかで拾ってきたネタを吟味せず、元情報にも当たらないで延々と元テキストをコピーして、ほんのちょっとのコメントをつけるつけているように俺には思えた(追記:あれこれあって断定は訂正します→http://ppfvblog.seesaa.net/article/683053.html#comment)、「+++ PPFV BLOG +++」みたいなスタイルのところが目立つこと、でしょうか(今回はたまたま例に挙げてみましたが、そのようなblogはいくらでもあります)。そしてそれらはリベラルを気取り、政府批判の意見を述べているところが多いように、俺には思えます。
お願いですから、何かを批判したい人は「そのソースは何よ」と訊かれた際に、逃げたりごまかしたりしないようなレベルのメディアリテラシーを身につけるようにしてください。
さらにうんざりするのは、「ここは一個人が、独断と偏見で好きなことを書いている気ままなblogなので、ご指摘には感謝しますが大きなお世話です」と開き直られる人(ブロガー)も目立ったりすることでしょうか。
…俺の日記、「愛・蔵太の気ままな日記」じゃなくて「愛・蔵太の大きなお世話日記」とでも改名しましょうかねぇ、まったく…。


あー、「ソースロンダリング」については、はてなのキーワードの以下のところなど。
ソースロンダリング
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%a5%bd%a1%bc%a5%b9%a5%ed%a5%f3%a5%c0%a5%ea%a5%f3%a5%b0


追記:
↓これは以下の日記へ続きます
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20040927#p1